――占星術師ツクヨミ
昔々あるところに、人に化ける狼がいたんだってさ
“Werewolf”と言ってね、とても怖い生き物なんだってよ
昼は人間と共に過ごし、夜は月の下、その真の姿を晒すんだ
凶暴な爪と牙で、夜毎に人間たちを殺して歩いた
そんな噂が流れた、ある一つの村があったんだ
誰が人間か狼か見分けもつかない。疑心暗鬼の殺伐とした日々が始まる
どんな行く末を辿ったのかって?
さてね。コレから、見てみるといいよ
――占星術師ツクヨミ
今日も僕の夜は月と星が綺麗だね
……うん? この邪悪な気は一体?
この村から感じる……夜を司る僕として、村の宵の刻を守る使命がある
行こう。世界中の夜が、どうか僕の望む穏やかなものであるように……
――茨檻姫シュラフ
……
……Zzz
……ん、んぅ
誰かが来る……私の、王子様……?
――少女シラユキ
ひ、酷い目に遭ったわ……うぅ、あのリンゴの苦味がまだ口の中に残っている……
信じられない、実の肉親に毒を食べさせるなんて、本当に信じられないわ!
小人や猟師に勧められてお家を離れて、ひとまずここまで逃げたのはいいけれども、もう夜も深いし、足がクタクタよ
夜更かしは身体に毒ね。今晩は、この村にお邪魔しましょ
――売り子リュミエール
寒い、寒いよぉ……ひもじいよぅ……
マッチを、マッチを売って帰らないと、お父さんも、お母さんも、寒さで震え死んじゃう
あ……なんだろう、この村
初めて来たなぁ……ひ、人はいるかな? よ、よぉし、この村ならきっと、マッチが売れるかもっ!
――助言者チェシャ
たっ、たたた大変だぁっ!! アリスが、アリスが王女様の裁判で有罪になったぁっ!
こ、こんな辺鄙な村に流されるなんて、きっとタダじゃ済まないよっ! ぼっ、僕が先回りして、アリスを助けてあげないとっ
……でも、なんだろうこの村。なんだか、今まで見たことも聞いたこともないような雰囲気がある……嫌な、予感がする
だっ、だからなおさら僕がっ、僕がしっかりしてアリスを助けてあげないとっ……あああぁっ
――求道者アリス
っあああぁぁぁもぉ! 何なのよあのおばさんはっ!
人の臓器みたいな頭の形して、気持ち悪いし腹が立つったらないわ!
『私の気に入らない者は全て村送り』……ねぇ。じゃあ、あの狂った帽子屋もいるわけ?
なんでもいいけど、なんでもかんでも、ろくでもないわ! こんな辺鄙な村、さっさと抜けだしてやるんだから!
――雪上姫ラヴィーネ
いずこへ。あぁいずこへいらして、我が愛しき人よ
彼の姿は雪のように儚く、吹雪の向こうに朧げで、結晶のように美しく……
皆皆……冷たく壊れゆくのね
この村……? この村にいるのね? わたくしの愛しき人……
――籠絡者キルティス
ッヒヒヒ、コレで、コレで世界中の美は我が下となるのだよ
『鏡よ鏡よ鏡さん? 世界で美しいのはだぁれ?』
……なっ、シラユキ、シラユキだというのかっ?!馬鹿を言うな! シラユキは、この我が手で確かに殺したはずでは……っ?!
そうか、そうかそうか。まだ、シラユキは生きていると。そうか、この先の村にて、な……ッハッハハハハハハ!
――塔入娘ラプンツェル
ねぇっ、ねぇっおばあさまっ、ここは……? ここは、どこなのっ?
えっ? 『しばらくはこの村にいなさい』って?
そっか、分かったわおばあさまっ。あたし、この村にいればいいのね?
そうすれば悪い虫がつかないからって? そうなんだ! じゃあ、そうするわ!
――帽子屋カーター
……ふふっ
お茶会は止まり、時は動き出した……
私を国から出したが間違いであったな、『ハートの女王』よ
必ずや……この狂った世界から目を覚まさせてくれよう
――奏者ハーメルン
各地で狼騒動、ねぇ
それで僕が駆りだされてきた、と
やったことはないけれども……まぁ、やってみようじゃないか
今度こそ、タダ働きでなければいいのだけどもね
――観測者ラビィ
まっ、まずいまずいっ、遅刻しちゃまずいよっ
また、また怒られちゃうっ、女王様に遅刻で怒られちゃうっ
アリスとカーターの見張りなんて重要な役目、僕が命じられたのに、怒られちゃうっ
急げっ急げっ、早くしないと、トランプたちがっああっ
――遣使ロート
おばあさまのところへお使いだなんて、持たされたのはワインと干し肉
こんなものだけではおばあさまが可哀想だわ。綺麗なお花と、その冠を作ってあげましょ
……といってたら、夜になっちゃったの
仕方がないから今晩はこの村に泊まらせてもらいましょ。あぁ、すっかり寄り道しちゃったわ
――調子者モモ
鬼退治、つってイキったのは確かにあるけどさー
場所も分かんなきゃ仲間もいなくない?
こんなんじゃ無理じゃん返り討ちしかないじゃん
もーどーんすんだよー。とりあえず疲れたから適当な村で休んじゃうけどさー。手ぶらで帰れなくなーい?
――悪戯者ミッシェン
演者は出揃った。さぁ、始まるよ
決して交わることのなかった御伽の国の人々の、騙し騙され骨肉の争い
生き残るのは人間か狼か
楽しみだなぁ。僕が用意した、僕のための創作童話
――一般人リカ
はぁい! あたしリカ! 十六歳現役JKでっす!
小さい頃は絵本ばかり読んでいて地味暗女子だったあたしが高校入学と同時にギャルデビューでストレスフルな学園生活!
心の癒やしは学校図書室! 入学してびっくり! 大好きな童話が各国やら編纂者別で全集置いてあるんだもの
ということで、やっちゃったわ、思いっきり夜遅くなっちゃってる。早く帰らないと……
……あれ? なんだろうこの道
――御伽の村