まるで子供のようだった。メイはこくこくと何度も頷くと、駆け足でコーヒーを淹れにいった。
リックは、店の隅の席に座り、窓の外をただひたすら眺めていた。店はとても静かで、コーヒーを淹れる音と、レコードからお洒落な恋の歌が流れているだけだった。
リックは、コーヒーを飲むと、すぐに店を出て行ってしまった。何も話せなかったことを、メイは後悔した。
せめて名前だけでも知れたら……。でも、声をかけられる雰囲気ではなかったのだ。
運命の王子様だったのよ、残念だわ、と友人に嘆いた。
しかし、そのわずか五日後、その王子様は店にひょっこりと現れた。
店員に背中を押されながら、メイはなんとか、名前を聞き出すことに成功し、また来てくださいとまで言うことができた。
その言葉に従うように、リックは頻繁に店に顔を出すようになった。そして少しずつ、メイとリックは話をするようになった。
リックは恋多き男性だった。毎度のように恋人がおり、そして幾度となく振られているのだった。
メイはリックの恋の話を聞き、いつしか恋の相談相手となってしまっていたのだ。
今更好きだなんて、なかなか言えないわ。
友人に、メイは笑って言った。そんなんじゃだめよと言う友人に、メイは宣言した。
大丈夫、彼がね、恋の相談じゃなくて、単純に店に遊びに来たくて来てくれたら、そのときに言おうと決めているの、と。
しかし二年半、相変わらず恋多き王子様リックは、恋をしては振られ、振られては恋をしてを繰り返しているのだ。