演劇部の部室









藤巻 塔子

ここで、あの幽霊を見たのね

小野原 雲母(きらりん)

うんー

小野原 雲母(きらりん)

きらりんもね、窓にぼうっとした人の顔みたいなのが見えたのー

瓜生 沙弥香(さやりん)

ほらほら。正直者のきらりんですら見たって言ってるんだよ。なら確実だよ

藤巻 塔子

まあ、小野原さんがウソつかない性格なのは認めるけど

藤巻 塔子

そのとき見えたのは、白い目と口なのね?

神 萌香

そうなんです。第一発見者の私から言わせてもらうと――

藤巻 塔子

だれ、この子

瓜生 沙弥香(さやりん)

バド部の私の後輩で、ともちんの嫁、神萌香だよ

神 萌香

よろしくでーす♪ ILLYさんの暫定彼女将来妻をやらせてもらってま~す☆

藤巻 塔子

ふーん、射原さんが……そう

射原 小知火(ともちん)

まってまって! 誤解を生むような発言すな! 私にそんな趣味はないんだから!

藤巻 塔子

――で、あなたが最初に『それ』を見たわけね

神 萌香

はい。儀式の最中、あの窓だけカーテンがなくて校庭が見えていたから不気味だなと思って、ちらちら見てたんです

神 萌香

そしたらあるとき、急に青白い光が見えてきて、それが少しずつ顔のような形になっていって――

神 萌香

思い出しただけでもぞっとします

藤巻 塔子

窓ごしに見えたの?

神 萌香

はい。黒板に一番近い、あの窓です

藤巻 塔子

……ふーん。あれ、ね

瓜生 沙弥香(さやりん)

なによ塔子。なんだか悟りきったまなざしであの窓を見つめて

藤巻 塔子

――なるほど

射原 小知火(ともちん)

……なにか、わかったの?

藤巻 塔子

もしかして、あなたたち――

























「シミュラクラ現象」































藤巻 塔子

にかかったんじゃないかしら

瓜生 沙弥香(さやりん)

趣味はクラゲショー?

藤巻 塔子

シミュラクラ現象

小野原 雲母(きらりん)

シミはコラーゲンでしょう?

藤巻 塔子

シ・ミュ・ラ・ク・ラ・現・象!

射原 小知火(ともちん)

二人とも、ちゃんと聞きなよ

射原 小知火(ともちん)

で、墨桜現象ってなに?

藤巻 塔子

……もういいわ。

藤巻 塔子

シミュラクラ現象っていうのは「三つの点が集まった図形を自動的に人の顔と見るようにプログラムされている人間の脳の働き」のことよ

藤巻 塔子

日本語では『類像現象』ともいうけど

神 萌香

悪いゾウ現象?

小野原 雲母(きらりん)

すごいー。怖いー。どんなゾウなのー?

射原 小知火(ともちん)

あ、まずいよ三人とも。そろそろ塔子が本気でキレそう

藤巻 塔子

…………

藤巻 塔子

窓の外にケヤキがあるでしょう。そのちょうど目線の高さくらいの幹が、ちょっと凸凹になってるじゃない?

瓜生 沙弥香(さやりん)

そう、だね

藤巻 塔子

たぶん、二つ並んだ丸いでっぱりと、その下にある横に細長い凹んだ部分が、夜中に月明かりに照らされて顔っぽく見えた可能性が高いと、私なら思うわ

藤巻 塔子

人間って本能的に、得体のしれないものを人の顔として見たがるクセがあるから

藤巻 塔子

夜中に怪奇現象を期待していたんだったら、よけいにね

瓜生 沙弥香(さやりん)

そう言われてみれば、あの日は満月だったし……

神 萌香

でもでも、あの顔、最初は見えてませんでしたよ?

神 萌香

それに明かりをつけてからおそるおそる見たんですけど、もう消えてたし……

藤巻 塔子

月が雲に隠れてたんでしょ。で、その時間だけ月明かりが雲のすき間をのぞいた、と

小野原 雲母(きらりん)

……そういえばー

小野原 雲母(きらりん)

前にも夜中に演劇の稽古してたときー、あの窓に顔っぽいものが見えたことがあったかもー

瓜生 沙弥香(さやりん)

うそー!? きらりん、それ早く言ってよー!

小野原 雲母(きらりん)

うー、ごめんなさいー。いま思い出したのー

射原 小知火(ともちん)

なんだ……見間違いか……

瓜生 沙弥香(さやりん)

でも、まだ見間違いだと決定したわけじゃないよね? 本当に生徒の亡霊だったのかも!

藤巻 塔子

ま、確かめるのなら、次の満月の日の同じ時間にその窓をのぞいてみればいいわ。木は逃げないから、ね

藤巻 塔子

でもよくあることみたいよ。人によっては、ただの森の写真が有象無象の霊の顔写真に見えたりする、そんなことがあるらしいから

瓜生 沙弥香(さやりん)

なんだぁ……さやりんガッカリなんですけどぉ

射原 小知火(ともちん)

むしろよかったよ……。呪われたり憑かれたりしてたらどうしようかと思ってたから……

藤巻 塔子

それより――

藤巻 塔子

ちょっと訊きたいんだけど

瓜生 沙弥香(さやりん)

うん?

藤巻 塔子

その儀式、四人でやったの?

射原 小知火(ともちん)

え?

瓜生 沙弥香(さやりん)

もちろん、四人だよ

小野原 雲母(きらりん)

さやりん、ともちん、もえかちゃん、きらりんでやったんだよー


























藤巻 塔子

ほんとうに『四人』でやったの?































瓜生 沙弥香(さやりん)

……本当だって。ねえ

小野原 雲母(きらりん)

うんー

神 萌香

ほんとですよぉ

射原 小知火(ともちん)

……それがどうかしたの?





















藤巻 塔子

――ごめんなさい。生徒会の仕事があるから。ここで失礼するわ

瓜生 沙弥香(さやりん)

え!? ちょ、まってよ塔子

射原 小知火(ともちん)

いまの、どういうことよ?

藤巻 塔子

分からない? なら、いまここでやってみたら

藤巻 塔子

あなたたちがあの夜にやったこと





















射原 小知火(ともちん)

……どういう意味だろ

小野原 雲母(きらりん)

やってみればわかるんじゃないー?

神 萌香

でも同じことやっても……

瓜生 沙弥香(さやりん)

う~ん……

神 萌香

……あ、せんぱい

神 萌香

そういえば今日、放課後にバド部のミーティングがあるんじゃなかったでしたっけ

瓜生 沙弥香(さやりん)

あっ、そうだ。わすれてた!

瓜生 沙弥香(さやりん)

はやくいかないと、また先生に怒られちゃうよ。萌香、いこ!

瓜生 沙弥香(さやりん)

ごめん、ともちん、きらりん。私、いくわ

射原 小知火(ともちん)

うん。私もこれからすぐ家に帰らないといけないし

小野原 雲母(きらりん)

きらりんも、演劇でつかう小道具の買いだしー

瓜生 沙弥香(さやりん)

じゃあ、今日は解散! また連絡するね!

神 萌香

せんぱい、急いでください!

瓜生 沙弥香(さやりん)

まってまって!



















































了  
















#5 本当に起きたこと

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