ふとこの前のやりとりを思い出した。

お前さ、有守ちゃんと付き合ってんの?

……何で?

俺の質問に壱真は不機嫌そうに返した。
こいつが露骨にそういう顔をするのは非常に珍しい。

いや、フツーに考えてそう思うだろ?

……だから何で?

やっぱり、知らぬは本人たちだけか。
まあ、みんなもギリギリ聞こえないように噂話をしているけれど。

毎朝、一緒に登校してくるだろ?

……家が近いからね

ふうん、それだけ?

そうだよ。それ以外に何かある?

壱真との付き合いは高校に入ってからだ。
それでもわかる。
こいつの地雷は有守ちゃん。
嫌いだからじゃない。
好きだからだ。
本人に告白する勇気があれば、地雷は撤去されるんだろうけれど。

っていうかさ、瑛斗は有守の話ばかりするよね? 好きなの?

これは否定してほしいがための誘導尋問。
だけど、俺はそれに乗っからない。

好きだよ。有守ちゃんってフツーに可愛いじゃん。彼氏がいないのが不思議だよ

……まあ、そうだね

ダメもとで告白してみようかな?

壱真の様子を横目で窺う。

……頑張ればいいじゃん

お、壱真は応援してくれんの?

やめてよ。僕に絡むのは

いいじゃん。肩くらい組んだって

鬱陶しい

答えてくれたら解放するぜ

……応援するよ。俺は壱真の味方だよ

じゃあ、お礼のキスでも……

やめてって! 殴るよ!

ははは、冗談だよ。俺も男にキスする趣味はねえよ

壱真が本気になるまではまだ遠いな。
なんとなくそう思った。

瑛斗くん、私のことを嫌いになったの?

うーん、そういうわけじゃないんだけど……つまらなくなった

……飽きたってこと?

飽きたわけじゃないよ。ただ……思ったよりも退屈だったってこと

何それ! 最低!

彼女は俺を引っぱたいて立ち去った。
これがいつもの展開。
誰かと付き合ってもこういう終わり方になる。
わかっちゃいるんだけどね。

如月ちゃん、見てたのかよ

私は通りかかっただけだよー

だっせえやつとか思ってる?

そうは思わないよ。だって、松葉くんが女の子と長続きすると思ってないもの

如月ちゃんは人当りがいい天然に見せかけて、実はかなり鋭い。

松葉くんは追いかけられると冷めるんでしょ?

……わかってんじゃん

だから、長続きしたいなら自分のことを絶対に好きにならない相手を選べばいいよ

俺は笑ってしまった。

それ、お互いに幸せになれるの?

絶対に結ばれないとわかっていて付き合うなんて意味不明だ。

私はそういう恋愛があってもいいんじゃないかなーと思うんだけど

俺と付き合っても俺を好きにならない女子ねー

例えば……早瀬さんとか

如月ちゃんは笑顔で言った。

有守ちゃんか……

なんとなく気付いていた。
如月ちゃんは俺をけしかけようとしていることに。
たぶん、魔が差した。
だから、あんな行動に出たんだ。

放課後の廊下で有守ちゃんを呼び止めた。

……壱真に何か用があるの?

いや、違うよ。俺が用事があるのは有守ちゃんの方

……何で?

有守ちゃんはまったく察知していない。
というか、俺に興味も関心もないからだろう。

有守ちゃん、俺と付き合わない?

……は?

驚いたわりには可愛げのない反応が返ってきた。
露骨に拒絶している。

どうして私が松葉くんと付き合わないといけないの?

どうしてって……俺が有守ちゃんのことが好きだから

……ふうん。知らなかった

本気で興味ないんだ。
それはそれで傷つくな。

私のことが好きだとしても、どうして付き合いたいわけ?

え? 好きだったら付き合いたいって思うのが普通じゃない?

……付き合ったらその先は関係が切れるだけだよ

そう、それだよ!

俺はビシッと有守ちゃんを指さした。

別れたら二度と元の関係には戻れないよね

……だから?

俺は自分のことを絶対に好きにならない女の子と付き合いたい

……何それ、意味不明だよ

そう言って、有守ちゃんは少しだけ笑った。

松葉くんって意外とドMなんだね

第2話「ネガティブに前向き」

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