寝ぼけてるわけじゃない。
聞き間違えでもなさそうだ。
僕は有守の顔を二度見した。
……冗談でもないらしい。
壱真、私……松葉くんと付き合うことにしたの
え……?
寝ぼけてるわけじゃない。
聞き間違えでもなさそうだ。
僕は有守の顔を二度見した。
……冗談でもないらしい。
どう思う?
……どうって……いいんじゃない?
それ以外に何て返せばいいんだろう?
だって、瑛斗は僕の親友だ。
親友と幼馴染が付き合うことになって反対する理由なんて……
いいんじゃないって何!? なんでそんなにやる気のない返答なの!?
有守は突然怒り出した。
もっと親身になって私のことを考えてよ!
あのさあ、有守は僕に反対してほしいわけ?
そ……そうは言ってないわよ!
じゃあ何なの? 僕に何を求めているの?
もういい! 壱真なんて知らない!
そう言い放つと有守は顔を背けてしまった。
僕の幼馴染は拗ねると面倒だ。
不機嫌丸出しのまま僕の隣を歩く。
……視線が痛い
同じ制服の生徒たちの視線が刺さる。
あー、また吉成が早瀬有守を怒らせてるーと呆れた視線が。
有守の求める答えなんて……僕にはわからない。
何年経ってもわからない。
おはよう、如月
……早瀬さん、どうしたの?
如月にも気付かれた。
隣の席の如月明杜。
有守と違って感情が安定している女の子だ。
もちろん、褒めているんだけど。
どうしたって……まあ、いつものやつだよ
吉成くんが早瀬さんの地雷を踏んだってこと?
如月……笑顔で核心を突かないで
冗談だって。あ、冗談になってないか
如月は楽しそうに笑っている。
ひっ……
……吉成くん?
な、何でもないよ
一瞬、凶器のような有守の視線が背中に刺さった。
何なんだ!?
僕が如月と話すなんて珍しくもないはずなのに。
おっはよー、有守ちゃん
声からしてチャラチャラした瑛斗が有守に声をかけた。
……おはよう、松葉くん
有守は思いっきり作り笑顔で棒読みを挨拶をしている。
放課後、デートしようよ
部活はないの?
今日は休みだよ
聞きたくもないのに、聞こえてしまう。
こういうときに教室の狭さが嫌になる。
断ってくれ。
僕はそう勝手に願った。
……いいよ。どうせ暇だし
有守はたいして興味なさそうに答えた。
周囲の男子たちがちょっとざわざわしている。
そりゃそうだ。
松葉瑛斗みたいなチャラ男に早瀬有守が引っかかるとは想像しなかっただろう。
僕もその一人だけど。
早瀬さんって松葉くんと付き合っているの?
……そうみたいだね
みたいって、早瀬さんと幼馴染なのに知らなかったの?
今朝、電撃報告をされたんだよ
それで……吉成くんは不機嫌なんだ?
ぼ、僕は……別に不機嫌じゃないよ。……有守じゃあるまいし
あの2人、意外とお似合いじゃない?
……そうかな?
美男美女でお似合いだよ
如月はなんとなく楽しそうだ。
ああ、やっぱり女子ってコイバナが好きなんだなあ。
無関係の同級生のことでも興味を持てるらしい。
僕は……ちょっとだけイライラしてる。
吉成くんみたいなのを的確に表す言葉があるんだよね
如月はクスクス笑っている。
たぶん、この笑顔に悪意はない。
如月はそういうやつだから。
ヘタレ
……わかってるよ