どこまでも続く、何もない空間。

 不思議な毛玉が居る以外、何もない空間。

 そんな場所に、女の子が1人、ふらりと現れた。

???

こんにちは! 来たよ!

あ、のんちゃんこんにちはー。

 女の子に気づいた毛玉が、ぞろぞろと女の子の周りに集まってきた。
 女の子は寄って来た毛玉を撫でたり、抱き上げたりしてはしゃいでいる。

のんちゃん

それじゃあ遊ぼう!

うん!

 女の子と毛玉は、一緒に走り回ったり、飛び跳ねたりして遊んでいた。皆、笑顔で転がりまわっていた。

 遊びまわっていた女の子も暫くすると疲れたらしく、毛玉達の上に倒れこんだ。毛玉が集まって、ちょうどいいクッションになる。

のんちゃん

あったかいねー。

 女の子の言葉が、毛玉の心に直接響く。

 相手に触れているだけで、思いが伝わる。そんな魔法みたいなことも、ここでは当たり前のこと。

ふふ、ありがとう。

のんちゃん

そういえばね、
また新しい学校に行くことになっちゃった。
せっかくお友達もできたのになぁ。残念。

……そうなんだ。
でも元気出して。
きっと次も、沢山お友達ができるよ。
僕もついてるしね!

のんちゃん

ありがとー!

あ、そうだ! 聞いて!
今日お母さんがね――

 動きまわることに疲れた女の子は、お話を始めた。

 母親にクレヨンを買ってもらったこと。

 毛玉の絵を描いたこと。

 今日のおやつのことや、学校のこと。

 女の子の話を、毛玉が時折相槌を入れながら聞いている。

のんちゃん

それで、
その子に遊びを教えてもらったんだけど、
みんなはわたしとかっこが違うから、
一緒にできないね。

うん……。
ごめんね。

のんちゃん

いいの!
みんなはこうやって……
お話してくれるから……。

 女の子の瞼が、次第に重くなってくる。

あ、眠くなっちゃった?
そろそろお休みしようか。

のんちゃん

うん……。

おやすみのんちゃん。
また一緒に遊ぼうね――

 こたつの中で、女の子が目を覚ました。

 女の子の周りには、紙とクレヨンが散らばっている。どうやらお絵かきの最中に、眠ってしまったらしい。

あら、おはよう。

のんちゃん

あ、お母さん。
おはよー。

 女の子は寝ぼけたように目を擦っていたが、突然、思い出したように紙の山を漁りだした。

 目当てのものを見つけ出し、母親に差し出す。

のんちゃん

お母さん見て見て!
いつも遊んでくれるみんな!

 女の子が差し出したのは、毛玉の絵だった。

 寝ている毛玉、転がる毛玉、飛び跳ねる毛玉。絵には、女の子の姿もある。

そうなの……この子達が……。

のんちゃん

可愛いでしょ!

ええ、とても。

……。

ごめんね。のんちゃん。
また転校になっちゃって。
早く落ち着けられたらいいのだけれど……。

のんちゃん

いいの! 大丈夫!

ごめんね。
もう少しの辛抱だからね――

 携帯電話のアラームが鳴り響く。
 布団から伸びた手が、何かを探るように動いた。

???

うーん……。
朝……か……。

 目当ての物。携帯電話を探り当てると、アラームを止める。
 少女が、眠そうな目を擦りながら体を起こした。

???

はぁ、久しぶりに夢見た気がするなぁ。

 少女は起き上がってカーテンを開き、軽く伸びをした。

???

あれ……夢の内容はどんなのだったっけ?
懐かしい夢だった気がするんだけど……。

……思い出せないや。

遠い日々の思い出

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