それは 三月のある日でした。
 今日は学校も家のお手伝いも無いのでミチコちゃんはお休みです。
 ちょうど冬が終わって、春が始まるころ。桜は咲いてないけど 福寿草が咲き始める季節。
 ミチコちゃんは、山の上で、一番好きな お花畑でクルクルとまわります。
 理由はないけれども、クルクルと回ります。回っている間にクルクル回るのが楽しくなってきました。
 目が回る。それが楽しくて、春が来たという感じがして、また楽しくなって、また回ります。
 そのときでした。いきなり地面が揺れました。

 ずごごごごー ごごごごごー

 最初、ミチコちゃんは自分の目が回っているせいかとも思いましたが、すぐに違うと分かりました。

(揺れている。勘違いじゃない。絶対に揺れているわ)

 最近は地震も多かったのですが、その中でも 初めての揺れです。
 近くの木がしなって、虫や木の実がバラバラと落ちています。
 すぐに止まるはず。地面が止まるまでは 自分も動かない。

 ぐごごごごごごご どどどどどどどっどっどっどっ

 ミチコちゃんは、お母さんに言われたとおり、頭を抱えて守っていましたが、揺れは100数えても止まりません。
 それでも、100数えた頃には、ミチコちゃんは怖く無くなっていましたし、振って来る枝や虫も当たらなくなりました。

…だいじょうぶ? ミチコちゃん?

 そういって、ロボット太郎がミチコちゃんを助けに来てくれたからです。

これからすぐに村にもどろうね。皆が困ってるからさ

 いつもと同じようにロボット太郎は、やさしく言いましたが、その体はいつもよりも熱くなっていました。

ロボット太郎、だいじょうぶ?
かぜでもひいたの? 熱があるよ?

原子炉を調整していたところでさ、ちょっと…調子がよくないんだよ

 そういったロボット太郎の汗は、いつもと違ってとても苦しそうなものでした。
 二人は足のキャタピラで村に戻りましたが、村に着くころには、もう足のキャタピラから焦げるような臭いと煙が出ていました。
 村に着くと、いくつかの家が傾いたり、壁がはがれたりしていました。
 ロボット太郎はお家から出られなくなったおばあちゃんを出すのにドリルを使いましたが、
 壊すことに慣れていないロボット太郎はドリルを折ってしまい、あとは4本の腕で、助け続けます。
 地震で、電気やガス、水道も止まってしまったので、ロボット太郎は他の村や町に行って、胸の中にはいるだけの食べ物やガソリンを入れて運びました。
 量が多くて何回も往復し、頑張っているロボット太郎を見て、ミチコちゃんも頑張ります。
 ミチコちゃんの家も地震で棚が倒れたり、壁が割れたりしましたが、その家を頑張って片付けます。
 何とか皆を助けたころ、ロボット太郎の体中から湯気が立っていました。
 もう4本の腕も、背中のジェットも、ドリルも、足のキャタピラも、動きません。
 家を片付けたミチコちゃんも、そんなロボット太郎を見てとても心配そうです。

大丈夫なの、ロボット太郎?

体を冷やしきれないんだ。でも、大丈夫だよ。みんなが笑ってくれるなら

 そういって、ロボット太郎は誰も笑っていないことに気付きました。
 心配そうにしているミチコちゃんの他にも、家を無くして、辛そうにしている人もいますが、多くの大人たちはロボット太郎をいつもとは違った見方をしていました。
 

ロボット太郎くん、きみ原子炉は大丈夫なの? その…漏れたり、していない?

 ミチコちゃんはよく分かりませんでしたが、ロボット太郎が悲しそうな、どうしていいのかわからないような、今まで見たことのない顔をしています。
 

今は大丈夫だと思います

思いますじゃ、困るの。絶対に大丈夫なの?

絶対とは言えません。僕も自分の体を全部知っているわけじゃないし、調べてくれる機械も壊れてしまいました

(お母さんは…ロボット太郎のウラン235というお弁当が、外に出るのをこわがっているんだ…!)

皆さんが不安なら…ボクは眠ります。ボクは起きているだけで、体が熱くなります。眠っていればウラン235を出したりしません

じゃあ、何時になったら、ロボット太郎は起きるの?

 大人が何かを言うよりも早く ミチコちゃんがきくと、ロボット太郎は頑張って笑いました。
 

いつになるかは…ゴメンね、わからないんだ

どうして?

僕の体を誰かが直してくれないといけないんだ。でも、もしかしたらウラン235が危ないってことになると、僕の修理はされないかもしれない

(みんなのためにがんばって…がんばってこわれたのに…ロボット太郎がどうして、なおしてもらえないの…!?)

…もう、会えないの?

ボクのかわりに…今度はきっと、皆のお腹を痛くしない、ロボットが頑張ってくれるよ

でも、ロボット太郎は…ロボット太郎しかいないのに…

泣かないで。前も言ったけど、僕のために泣いてくれるミチコちゃんが笑ってくれるのが…一番、僕は嬉しいな

…ゴメンね、君を笑わせられなくて

 オニギリはない。
 ミチコちゃんは 涙を拭きましたが、泣くのを我慢するだけで、笑えそうにありませんでした。
 

 ロボット太郎は、そういって眠りました。
 

お母さん、ロボット太郎を治すなら、歯医者さんかな? 他のお医者さんかな?

科学者さんだと…思うけど、どうして?

私、大きくなったら…ロボット太郎を治してあげる。それで私とロボット太郎、ふたりで皆を笑顔にするの

 そう云った時、ロボット太郎の寝顔は、穏やかなものでした。

原子力系童話 ロボット太郎とミチコちゃん(後)

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