終電まであと2時間。

都内某IT企業のオフィスでは、頭を抱えながらパソコンの前で仕事をしているアラサー女子が一人。 冷たくなったホット缶コーヒーがその手に握られている。

ドージン

もう22時だ・・帰りたい・・

ドージン

アーッ!! 家に帰って同人誌の原稿をやらないといけないのに!!

ドージン

もう雲になりたい!!

パソコンの周囲には未処理の書類が散乱している。これらを始末しなければならぬが、小生の脳みそもとっ散らかって訳が分からなくなってくる。

ドージン

そうさ・・雲になって空を漂うだけの存在になるんだ・・

ドージン

そうすれば結婚・出産とか、仕事の事とか、自分の将来とか不安な事は何も考えずに済むんだ・・

ドージン

あ、でも地上の生命の心配とか、大地の繁栄とか考えないといけないのかな?

ドージン

雲になっても、色々と仕事をしなければならないか?

ドージン

いかん・・何を考えているんだ、何事も前向きに考えねばな

ハッと現実に引き戻される小生。

ドージン

しかしこんなに残業が続く日々じゃ、考える事も考えられやしないな・・

会社の勤怠入力システムにアクセスし、今週の残業時間を再確認する。

昨日は23時30分、一昨日は23時。

終電には間に合っているものの、帰って寝て、そしてまた会社に来る生活を繰り返していると、『なぜ小生は生まれてきたのか?なぜ生きているのか?』という自問自答のループに陥る。

ドージン

後輩も同僚もほとんど帰ったし、自分の仕事が遅いのか?

ドージン

仕事もできず、私生活もはかどっていない・・

我慢していたはずの涙がこぼれる。

ドージン

はぁはぁ、進退窮まったら、社長と刺し違えて辞めてやる・・

以前、隠しもっていた聖剣エクスカリヴァーはいつの間にか処分されていたので、新たに購入したバタフライナイフを引き出して、ある決心をする。

ドージン

もうガチでやる、やってやるぜ・・

ドージン

社長を殺して世界を救うしかないっ!!!

翌日。職場の休憩室にて。

ドージン

ふーむ・・しかしどうやって殺すか?

ドージン

社長なんて普段見ないし、一体どこにいるんだ・・

ドージン

ともあれ

ドージン

①殺害場所
②殺害タイミング

ドージン

この2点について考えなければならなそうだ

何だか楽しくなってきた。同人作家なだけに、こういうストーリー(計画)を練る事自体が楽しく感じる。

ドージン

まずはタイミング・・知り合いの社員から社長との遭遇情報を集めるかっ!!!

ボソボソと怪しげな事を言っている小生の姿を、不安な様子で見ている社員がいるが、まあ気にしない。

ドージン

ふむ

ドージン

なるほど

ドージン

へぇ~

その日の夜。ドージン宅。

ドージン

なるほどね。集めた情報を整理した結果、計画としては・・

ドージン

人の少ない土曜日、お昼を食べに避難階段を降りてきた所を、面が割れない様に階段上から鈍器等を頭部めがけて落とすと

ドージン

出来たぞ殺人計画書が・・

普段持ち歩いている、同人誌のネタやネームを描いているノートに、考えた計画書をまとめてみた。

ドージン

ハハッ!!やってしまった、へへ・・

ドージン

作ってしまった・・フフフ・・

あと実行するだけで、世界は大変な事になってしまうと考えるだけで、興奮が止まらなくなる。

ドージン

ハハハハハッ!!!

深夜2時、隣人の壁ドンも気にせず、高笑いをするアラサー女子であった。

翌週 月曜日の朝

ドージン

うーむ・・例の計画書ノート、いつ落としたんだろ・・

ドージン

深夜のテンションであんなの書いたが、冷静になると恥ずかしい・・

机の下を探して見るが落ちてはいない。

ドージン

今度出す同人誌の漫画ネームを描いていたし・・

ドージン

しかも割りと純愛系・・

ドージン

会社の人に拾われたら死ぬしかないっ!!

同僚

あれ埜下さん、何か探しものですか?

ドージン

あひぃ!!!

ドージン

いやっ何でも・・

いきなりお尻の後ろから声をかけられてはビックリする。

同僚

そうですか~あっそういえば、埜下さんは例のニュース聞きました?

ドージン

ニュース?

同僚

うちの社長が、社員から暴行を受けて入院したんですよ!!

ドージン

まじかい・・!?

同僚

怖いですよねー・・

ドージン

合法的に休みが取れるチャンスか?

内心でクズ発言をする小生。だって休みたいんだもの。

同僚

何でもお昼を食べに社員食堂へ行こうとして

同僚

避難階段を降りた時に後ろからガッとやられたとか・・

ドージン

ちょっ!?

同僚

仕事のストレスが溜まっていたのか、まともな精神状態じゃなかったみたいで、その矛先が社長に向けられたんですかね?

ドージン

(ソワソワ)

同僚

社長は打撲程度で済んだみたいですけど・・

ドージン

ま、まぁ命に別状は無くてよかったですな・・

ドージン

ど、どうする

ドージン

まさかこれって私も共犯者になるのか?

ドージン

いやあわてるな、ノートに名前とか描いていないから身元はバレないだろう・・多分

ドージン

でも不安だ、何とかノートを回収できないものか・・ノートに描いていた漫画ネームも必要だし

同僚

それじゃあ戻りますね

ドージン

あ、ちょっと!!

同僚

はい?

ドージン

いやその犯人はその後どうなったのかなぁと・・

同僚

あ~その社員は自主して警察にいるらしいですよ

ドージン

ほ、ほぅ・・

ドージン

まずいじゃねーの!!
ノート回収できんぞ!!?

同僚

どうして自主したんですかね? 一発殴ってスッキリしたとか?

同僚

じゃあまた~

その頃、警察署にて。

警官

このノートに描かれた漫画の主人公の様に一からやり直そうと思って自主をねぇ・・

一方、ドージン宅では...

ドージン

ぐぅ・・不安だ・・警察から電話が来たらどうしよう

ドージン

不安でペンがはかどらない・・

その後、警察からの連絡は無く事なきを得たのだが、同人誌の製作の方はネームを作り直した事で、〆切りギリギリのピンチとなってしまった。

〆切り前の最後の休日と言う事で、今日は昔の同人友達に手伝いに来てもらっている。

ドージン

ネーム書き直しのせいで、ギリギリだ・・ハァハァ

『それはいつもの事だろ!!』と貫徹で手伝わせている友人が半ギレしているが、入稿後に焼肉をおごれば機嫌が直るのでありがたい友人である。

お互いいつか結婚できるといいね。

つづく....

6. <番外編③> アラサー女同人作家はひとつの世界を救う

facebook twitter
pagetop