距離感というのは、とても難しい。
距離感というのは、とても難しい。
私たちは、物理的に隣あっているとして。
……心というのは、どのくらいの距離なのだろうか?
……考えても仕方のない疑問だとは思っているけれど。
私たちは、賢いつもりで賢くない。
答えのない問題に、答えを求めるなかれ。
迷宮に飛び込むようなものね。
そう教わったのは、何時だっただろうか?
心の距離感など、考えたところで図りようがないのは当たりまえ。
……それはそうよね。定規で測れれば、苦労しないわ。
でも、疑問というのは自ずと生じてしまうのだ。
……
はぁ。
隣の席の王様。
この人は、この方は。
……きっと、この王宮で。
誰よりも遠くに心を置いているに違いない。
沈黙しきった王様。
テーブルの上に並べられていた紅茶は、すっかり冷め切っている。
……物音一つ憚られるような静かな沈黙。
……
……
言葉のない二人だけの空間。
言葉にすれば、文学的だ。
それこそ、王様と婚約者ならば吟遊詩人が一幕の歌として歌ってくれることだろう。
だけれども、往々にして現実というのは文学ほどに味わい深いものではない……か。
冷たい沈黙。
……
ただ、ただ、冷たいだけの沈黙。
……
きっと。
……
その態度が、答えなんだ。
無言のまま立ち上がり、傲岸なままにクルリと自分に背中を見せる『婚約者』様。
残されるのは、触れられもしない冷めたお茶。
……自分が淹れたものではない。
けれども、少し、寂しかった。
だから。
陛下。
……何か?
お茶が冷めてしまいました。
ん? ……ああ、である、か。
お開きといたしましょう。
我ながらよく口にしたものである。
なっ!?
お付き合い戴き、ありがとうございます。
片足を内側にゆっくりと斜め後ろへ引く。
もう片方の足の膝は軽く、そう、軽くまげる。
背筋は伸ばしたまま笑顔で挨拶を。
ここ数日のレッスンで叩き込まれたすべてが、この瞬間に結実していた。
我ながら、というべきだろうか?
それでは、陛下。
お先に、失礼いたします。
きっと、お手本のように出来ていたことだろう。