シンディ

さてと、解説ができたことだし、さっさと問題文も作ってしまおう。

ライナー

さっさと、と言われても、思いつくのは「掃除機を一緒に探してほしい」ということくらいしか……

シンディ

え、ライナー君、家で掃除機を失くしたの?

ライナー

そんなわけないだろう。それならせめて「掃除機のありかが分からない」となるだろうし。

シンディ

よし、じゃあ早速家の中を探しに行こう。

ライナー

いや、あの、えっと、シンディさん?

シンディ

なんだ、全然状況が分からないじゃないか。4コマ分の尺を返してくれたまえ。

ライナー

尺って何だよ。だいたいそれなら今まで無駄話で尺を大量に使っているじゃないか。

シンディ

まったく、無駄話が多いのはライナー君のせいじゃないか。
無駄話が無くならないなら、ライナー君が無駄話をするたびに私がライナー君の頭皮を埋めてあげようか?

ライナー

無駄話の前に私の髪の毛が無くなるよ!

シンディ

ライナー君の髪の毛はともかく、このままじゃいろいろとあらぬ方向に行ってしまいかねないよ。

ライナー

たしかに、さっきのシンディみたいな方向で話を進める人もいるかもしれないだろうし……

シンディ

もちろん、それを狙った問題もあるけれどね。
今のままだと、少しベールが厚すぎて、何をやればいいかわかりにくいかな。

ライナー

えっと……「ベール」って、なんだっけ?

シンディ

あの、ライナー君、ウミガメのスープで何を学んできたのさ?

ライナー

あ、いや、ちょっとど忘れしただけだよ。

シンディ

まあいいや。問題文を作る話だし、読者の中には分からない人もいるだろうし、せっかくだから説明しておこう。

シンディ

「ウミガメのスープ」では、問題文は大きく分けて4つの要素でできている、というのは覚えているかな?

ライナー

えっと、確か、「チャーム」「クルー」「ベール」「トリック」だったかな。

シンディ

あ、それは覚えているんだ。

ライナー

まあ、このくらいはね。

シンディ

ライナー君のくせに生意気な。

ライナー

何でディスられなければならないのだ。

シンディ

まあいいや。
で、この4つの要素……「問題分析の4大要素」ともいうんだけれどね。これらが上手く取り入れられているかどうか、というのが、問題の質を決めると言ってもいいよ。
もちろん、解説と併せて初めて成立するものだけれど。

ライナー

まあ、解説が無いと、問題文だけじゃ良問かどうか判断できないしな。

シンディ

で、この4つの要素だけれど……

シンディ

1.チャーム
文字通り、問題文の魅力を示すよ。
問題を読んで、それを解きたいと思うかどうかは、この「チャームが高いかどうか」にかかっている。

ライナー

CDや本を買う時に、ジャケットや表紙を見て決めるようなものか。

シンディ

そうそう。「ウミガメのスープ」でもそうだけれど、参加するかどうかは参加者次第。
参加者を集めるためには、問題文自体に魅力が無いといけないよ。

シンディ

そもそも「亀夫君形式」という出題形式自体が、チャームの高い形式だけれどね。

ライナー

ん、そうなのか?

シンディ

やってみてわかったと思うけれど、「亀夫君形式」は他の出題形式よりもゲーム的要素が強いのさ。
恐らく、「YESNOで答えられる質問」以外の質問ができるっていう質問の自由さや、キャラクターになり切ることが生み出すゲーム感があるからだろうね。

ライナー

たしかに、「ウミガメのスープ」よりもゲーム的な感じがするな。

シンディ

出題すると、結構すぐに参加者が集まるよ。
だからといって、問題文をおろそかにしてはいけないよ。つまらなさそうだと思ったらすぐに参加者は離れてしまうからね。

ライナー

同じゲームでも、面白そうなやつと面白くなさそうなやつがあるもんな。

シンディ

チャームを高めるためには、やっぱり「不思議な出来事」や「常識とはかけ離れた状況」を作りだすことかな。
参加者に「どういう状況なの?」と思わせれば成功だろう。

ライナー

うーん、しかし「掃除機を探してくれ」なんて、不思議な状況でもなければ常識とかけ離れた状況でもないぞ?

シンディ

「お願い」系の問題だと、そういう状況を作るのは難しいかもね。

シンディ

そこで大切なのは、「登場人物」と「舞台の設定」だよ。

ライナー

「登場人物」、ねぇ。

シンディ

同じお願い事をされるにしても、例えばかわいい女の子や小さな子からお願いされるのと、口うるさいおばさんや生意気なガキからお願いするの、どちらのお願いを聞こうと思う?

ライナー

うーん、そりゃかわいい女の子や小さな子供からのお願いの方が、なんとかしようと思うかな。

シンディ

でしょ?
特に亀夫君問題においては、出題者である「登場人物」の役割は重要なんだ。

シンディ

でも、同じかわいい女の子からお願いされるにしても、道端で「家を破壊する武器を探しているんです!」とか言われたらどう?

ライナー

それはなんだか……ぶっそうだな。

シンディ

だよね。
解体業者がそういうものを探しているならともかく、一般人がそんなこと言ってたら犯罪臭がしてとても協力する気になれないよね。

シンディ

……とまあ、チャームの設定は「ウミガメのスープ」とは違う方向でのアプローチが必要になってくるよ。

ライナー

うむ……そう言われると、なかなか難しいものだな。

シンディ

もちろん、チャームばかり高くても、進行がグダグダになったり、解説が説得力ある物じゃなかったりすると台無しになるからね。
あんまり難しく考えない方がいいよ。
出題に慣れてくれば、「こういう問題にすれば人が集まるだろう」ということが分かってくるだろうしね。

シンディ

それよりも、次が大切だよ。

2.クルー
解決の手掛かりになるものだよ。
要するにヒントなのだけれど、単純なヒントという役割だけでなく、解決に導く要素のことも「クルー」というよ。

ライナー

「ウミガメのスープ」でも、重要な要素だな。

シンディ

回答者は、クルーとなる言葉を見て問題を解くわけだから、これがある程度無いと解く気が起きなくなる。
ただ、多すぎると瞬殺されることがあるけれどね。

ライナー

要するに、バランスが大事ってことだな。

シンディ

もちろん、ほとんどクルーが無くても成立する問題もあるけれどね。特に亀夫君問題の場合、ほとんどクルーが無くて、質問によって新たなクルーを引き出す場合が多い。このへんのバランスは、出題して慣れるしかないと思うよ。

ライナー

なかなか厄介だな。

シンディ

そしてそのバランスを整えるもの。

3.ベール
必要な情報を抜いていくことを「ベールをかぶせる」というよ。
例えば「事故で溺死した」から「溺死」という情報を抜くと「事故死した」となるし、「事故死」という情報を抜くと「死んだ」となる、といった具合にね。

ライナー

つまり、解いてほしいところにはベールをかぶせ、情報を隠すといいわけだ。

シンディ

そうそう。同じクルーでも、情報量が多いと難易度が随分と変わってくるからね。
簡単すぎると思ったら、少しずつベールをかぶせていくといいよ。

シンディ

もちろん、あんまりベールをかぶせすぎると、問題文は短くなっちゃうしチャームも少なくなってしまう。
ベールをかぶせる際は、FA条件の核心となる部分を重点的にした方がいいね。

ライナー

なるほど。関係ないところの情報を抜いても、変な方向に行くだけだもんな。

シンディ

最後は問題の味付けとでもいうか……

4.トリック
水平思考を用いないと解けない「仕掛け」のこと。
一番多いのは「先入観を植え付けること」かな。

ライナー

つまり、「語り手は男性だと思ったら女性だった」とか、「大人だと思ったら子供だった」とか、そういうものだね。

シンディ

他には言葉遊びとかね。
ただ、トリックだけで勝負すると、ひっかからなかった人に瞬殺されてしまう可能性がある。
……もっとも、亀夫君問題で瞬殺って、あまり聞いたことはないけれど。

ライナー

ふむ……たしかに、最近の参加者は鋭い人が多いからな。注意しなければ。

シンディ

かといって、進行がグダグダになるのもどうかと思うけれどね。
そこらへんは経験かな。

ライナー

結局慣れと経験か……

シンディ

大丈夫大丈夫、最初からうまく出題出来る人はそういないから、心配しなくていいよ。

シンディ

さて、4つの要素については説明したけれど、うまく問題は作れそうかい?

ライナー

いや、そう簡単には……

シンディ

うーん、やはりいきなり4つの要素だけ話しても、毛根がピンチなライナー君には難しかったか……

ライナー

私の毛根って、そんなに弱かったのか?

シンディ

よし、もう1つ出題の時のポイントを教えてあげよう。
「ウミガメのスープ」の例だけれど、問題文に書かれる情報は大きく2つに分かれる。

ライナー

2つ……?

シンディ

「解説に関係する情報」と「解説にはあまり関係ない情報」さ。

ライナー

なんだかそのままだな。

シンディ

「解説に関係する情報」は、読んで字の如く。主に「クルー」に直結するね。
この情報が多いほど、問題は解決しやすくなる。
「解説にあまり関係ない情報」は、問題の状況や背景を説明するために使われる。主に「チャーム」に直結するね。

シンディ

今の状態だと「掃除機を買いたい」というだけだけれど、これではまるで魅力がない。
そこで、「どんな状況にあるのか」をある程度付け加えることが必要になる。
語り手はどこにいるのか? どんな人物なのか? どんな掃除機が欲しいのか? 予算はどのくらいか?
そういった情報を、盛り込んでいくのさ。

ライナー

ふむ、たしかに、ある程度状況が分かっていないと、解きたいと思わないよな。

シンディ

解決に関係ない情報であっても、参加者の頭の中にどんな状況なのか思い浮かべてもらうのには重要だよ。
そういう設定があった方が、参加しやすいしね。

ライナー

例えば、「今掃除機を買いにホームセンターに来ているのだが、初めて来たのでどうすればいいか分からない。予算はいくらでもいいので、私が気にいるような掃除機を探してほしい」といった具合かな。

シンディ

そうそう。
情報が増えるほど、参加者の参加意欲も上がっていくから、うまく情報を取り入れたいね。

シンディ

あ、でも一人で掃除機一つ買えない人間に、手を貸す人がどのくらいいるか知らないけれど。「店員に聞け」で終わりそう。

ライナー

いや、そういう問題なんだから仕方ないだろう。

シンディ

そういうところが納得できるような問題でないと、なかなか参加者は付かないよ。一応誘導でなんとかなる時もあるけれど……

ライナー

参加者を納得させる状況づくりか……難しいな。

シンディ

重要なのは問題文と解説の整合性だけれどね。問題に影響しないなら、あんまり難しく考えなくてもいいよ。

ライナー

う、うん……そうなの?

シンディ

それはともかく、最初の問題文よりは随分マシになったんじゃないかな?

シンディ

「ホームセンターに買いに来た」ということで場所はイメージできるし、「私が気に入る掃除機を探してほしい」っていう明確な目標ができている。
「予算はいくらでもいい」というのも、「FA条件はホームセンターで掃除機を見つけて買うこと」という先入観を持たせることに一役買っているしね。

シンディ

チャームがイマイチ低い気がするけれど、まあ、最初はこんなもんかな。

ライナー

うーん……問題の魅力を引き出すというのは難しいものだな……

シンディ

特に「お願い」系統は難しいね。

シンディ

そうだな……
私だったら、「とにかく性能がいい掃除機が欲しいっていうわがままな男がいるから、望みのものを探してほしい」っていう感じにするかな。
どんな男なのか、「望みの掃除機」とは何なのか、とか、そういう気になるポイントを問題文に入れておくのさ。

ライナー

よし、じゃあそれを採用しよう!

シンディ

いやいや、いまのは例だから。

ライナー

いやあ、だって2人くらいいた方が、いろんな役ができて楽しいじゃないか。

シンディ

最初はあんまり登場人物増やさない方がいいんだけれど、ライナー君大丈夫かな?

ライナー

大丈夫、ちゃんと役割を演じてみせよう。

シンディ

そういう問題じゃないのだが……

シンディ

まあ、自信過剰なライナー君の自爆っぷりが楽しみだし、今日はこのへんにしておこうかな。
次回も、問題作りについて話していくよ!

【今回のまとめ】
・問題文には4つの要素、「チャーム」「クルー」「ベール」
「トリック」がある。
・「チャーム」は問題文の魅力! どれくらい参加者に「解きたい!」と思わせるかの指標。
・「クルー」は解説に至る鍵! その量で問題の難易度が変わってくる。
・「ベール」は情報を抜いていくこと! 難易度調整の役割もある。ただし抜きすぎると「チャーム」が低くなっていく。
・「トリック」は問題文における仕掛け! 先入観を植え付けたり、言葉遊びで参加者をひっかけたりする、いわば問題のスパイス。
・ただ単に「○○してほしい」というだけでは解きたいという魅力に欠ける。登場人物の今の立場や状況などを付け加え、魅力あふれる問題文を作ろう!

亀夫君問題を作る③:問題文の4つの要素を知る

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