ここは金沢市の末町かどこかそのへんの
辰巳用水である。
いい天気だねー
うん
どうしたの?
なんだかあんまり元気がないの
まあそういう日もあるよね。
おざなりね
でもせっかく良い天気だから、
家にいるのも
なんだか勿体ない
わかる
だからこうして辰巳用水を
歩いているの
ここは金沢市の末町かどこかそのへんの
辰巳用水である。
おざなりじゃないか
でも歩くことは
いいことじゃない
確かにね。
いい天気すぎてすごい
蟻子が眼を開いた。
いちいち実況しなくても
いいのよ
川が流れているね。
何か思うことは?
川の流れに合わせた
俳句などを詠んでみたいが、
何も思いつかない。
ダメじゃない。
というかこれは川じゃなくて
用水よ。
確かに、それもある
昔ここを統治していた人が
人工的に水をひいたのよ。
すごいことだよね。
本当にスゴいと思ってるの?
思うよ
頑張ってるよね。
何が?
水が
頑張って流れているね。
そう
がんばれ♥ がんばれ♥
一度いってみたかったの。
それはよくないと思うよ。
そうかもしれないね……いや、何が?
階段だ。
がんばってのぼりましょう。
頑張らなくてものぼれるよ。
がんばれ♥ がんばれ♥
確かに、がんばってのぼるほうが、
より早くのぼれるかもしれない。
早く登れとは言ってない。
ご、ごめんなさい。
ゆっくりのぼりましょう。
そうだね。
羽咋くん、
なんだい?
実は、言っておかなくては
ならないことがあるの。
えっ?
最近、オ○ニーした?
えっ!!??
いや、してないなら、
それはそれでいいのよ。
まだ何も言ってないけど。
今日は7月21日で、
0721(オ○ニー)の日らしい。
それでそういう話になったのか。
そうよ
これ大丈夫なのかな?
何が?
何がとは言わないけど、
まあ良いか悪いかで言えば、
良くはないよね。
なんか今日は全体的におざなりじゃない。
結局どうなの?抜いたの?
抜いた
…………!!
どうしたの?
なんか急に恥ずかしいことを言っている気がしてきた。
そうだね……。
でもほら、塀がずらっと
立ち並んでいるから、
私たちの声は届かないし、
私たちの姿もみえないよ。
塀の向こうには金沢市民の住居があり、
そこは生活の空間であるのだから、
私たちの声が人の耳に届く可能性は
塀の無い用水の空間より高いと
考えられる。
なんで急に具体的になるのよ……
竹やぶ
バンブーだね。
蟻子の目つきがかわった。
なんだか話しているうちに
元気になってきたわ。
それはよかったよ。
さっき「何で急に具体的になるのよ……」
って言ったけど、よく考えたら
そんなに具体的なことじゃなかったのかもしれない。
蟻子が眼を閉じた
私の目の位置は
どうだっていいのよ。
うっ!!!!!
どうしたの?
その顔、怖いから
やめてくれ。
はい。
よかった。
今のは何かの
間違いだったんだね。
そうともいえるし、
そうでないとも
いえる。
羽咋くんも薄々
感づいているんじゃないかしら?
何を?
私たちがこうして
ここを歩いていることの意味。
私の頭の中にある、
複数の見えざる存在の可能性について。
よくわかんない。
そう……。
今日の蟻子は、
なんだかあんまり何も考えていないようで、
すごく話しやすかったよ。
どういう意味よ。
いつも、蟻子の話す言葉の裏には
何かその裏にとてつもなく巨大な何かが潜んでいるようで、
身構えるような怖さがあったんだ。
今日はあまり深く物事を考えずに
話をすることができたから、
とてもよかった。
……い、言うねえ~…羽咋くん。
気に障ったならごめん。
何かとてつもなく失礼なことを
言っていた気がする。
いや別に気にしてないよ。
私も、なんか楽しかったし。
何が楽しいってわけじゃないけどね。
俺も、なんか楽しかったよ。
別に何か楽しいことがあったわけじゃないけど。
かえりましょう。
うん。
今日一日の体験を通して、
何か一言
いや何も
言うことねえだろー
まあ、自然体が一番ってことやね
あ、そういうこと
そうかもね。
終わり