その日は天気が悪かったと記憶している。
私は、一人で傘をさし俯きがちで病院へと向かっていた。
今日は定期検診。検査の為にこんな悪天候の中を一人で向かわなければならない。
自然とため息が漏れる。私の心の中も目の前と同じで曇り空。
きっと、今回も悪い結果だ。長年の付き合いだ、察しはつく。
どうせ、また死神が小躍りしながらあのBGMでも流しているに違いない。
私は売られていく子牛よろしく、惨めな気持ちを味わうのも決まってる。
もういっそ、楽になりたいと何度思ったか。
誰か、私を殺してくれ。もう、生きているのに疲れた。
ううん、全部嫌になってしまった。自棄といっていい。
奴らは、私はもう先が長くないのも知らないとでも、思っているのか。
私にひた隠しにしている事実など、お見通しだ。
私の身体のことなのだから、すぐに理解できる。
私は孰れ、死ぬ。
遠くない未来に。それは、確定済み。
頻度が増す発作。そのたびに眩む意識を何度も経験している。
……なら半端な希望などやめて。
何が絶対治るから、だ。
何が治療法が見つかるから、だ。
そんな言葉で私が希望を抱くと思っているあいつらの浅ましさがうざったい。
私はもう死にたい。
全てを真っ黒に塗りつぶす絶望が欲しい。全て黒く染まればいい。
欲しいのは光じゃない。欲しいのは闇だ。白じゃなく、黒。
私はどうせ死ぬのだから、あがくのは無駄だと分かっているのなら。
私を、誰か殺して。
そう、思っていた。願っていた。祈っていた。
それを叶えてくれるように。
その機会は、訪れた。
私はその日、病院に行かなかった。いいや、行けなかった。
背中に強い衝撃で意識がブラックアウトして、そこからは覚えていない。
道中、行方不明になったからだと思う。
悪意ある裏の住人たちの魔の手により。
人狼ゲームという呪われたゲームに私は参加を余儀なくされたから……。

真澄

痛ッ……

気が付いたら、そこは見たことのない場所だった。
洋館の広間……だろうか?
そう広くはない室内に、重なるように多くの人間が転がっていた。

真澄

……何が起きたの?
ここは、何処?
こいつらは、誰?

確か、私は病院に向かっていたはず。
何時も通り俯いて向かって……それで。

真澄

あっ……!

思い出した。背中に強い衝撃を感じた。
私は、そこで意識を失ったんだ。

真澄

まさか私……誘拐された!?

見れば周囲の人間は、私と同年代と見える。
比較的若い年代層……つまりは高校生と見ていいだろうか。
私自身、まだ高校二年。つまりは、子供だ。
死屍累々のように見えるが時々うめき声も聞こえるし、多分生きてる。

真澄

なぜ私なんかを誘拐を?
……いや、まだそれはいいか
脱出もどうせ無理と断定
こうして放置しているということはきっと、施錠されてる
まずは落ち着いて……私、大丈夫だから、冷静になって……

予想を超えていた現状にパニックを起こす頭を宥める。
大丈夫、自分を見失うな。
これはきっと、何か大きなことに巻き込まれた。
私はその為に利用されるかもしれない。

真澄

慌てれば、危険……かな
よし、まずは部屋の中を探ろ……ん?

だいぶ落ち着いてきた私はそこで違和感に気付いた。
これは……何だ?
手首をまかれている、銀色のブレスレットのような機械は……。
見た感じ、ちょっと大きいアクセサリ。
でも、何故か液晶画面があって、そこには『18』という数字が表示されている。

真澄

何これ?
時限爆弾?

思わず声にでた。
すると。

ゲームマスター

やぁ
目が覚めたみたいだね

突然、私のブレスレットのような機械から、声が聞こえた。
明らかに加工してある、性別の判断が難しい声だ。

真澄

!?

ゲームマスター

あれ、もしかして固まっちゃってる?
へーきだよん、後で事情説明するからね。
そそ、先に自己紹介しないと。
僕はゲームマスター。よろよろー

能天気な声がブレスレットから出る。
正直、状況とかそういうの諸々よくわかんないけど、一言だけ言いたかった。

真澄

死ね誘拐犯

ゲームマスター

ちょ、いきなり死ねとか言う普通!?
確かに僕ぁ誘拐犯だけども!
キミ立場わかってる!? 
僕に誘拐されてるんだよ!?
生殺与奪は僕のさじ加減なんだよ!?

真澄

何かよくわからんけど、すぐ解放して
普通にここにいる価値ないし
誘拐してもお金とかウチの親払えないから。貧乏だし
ってか医者行かないと私死ぬから真面目に解放して
リアルに殺人犯になるよ中二病

ゲームマスター

挙句に僕を中二病!?
本当に命知らずな女の子だね!

真澄

御托はいいから早くして
こっちは定時に薬飲まないと生きてけないの
私以外にもこんなに人いるんだし、ぶっちゃけ一人ぐらい、いいでしょ

ゲームマスター

話聞いて!
会話、会話しようねお嬢さん!!
お金目的じゃないし! あと解放も無理!

真澄

あっそ
なら私死ぬからよろしく
薬飲まないと発作起きるだけだし、それならそうなる前に自分で死ぬ

ゲームマスター

自殺まで仄めかしてない!?
色んな意味で型破りだねキミは!!
普通ココ慌てふためくところだよ!?
今までの参加者だってそうだったのに!

真澄

そんなんどうでもいいよ
なんでもいいよそういうの

ゲームマスター

……さいですか……
じゃあ、ひと足早くキミには事情を説明するよ
後で進行の妨げされても困るから……

真澄

それより解放

ゲームマスター

できないって言ってるよね!?
僕の話聞いてる!?

真澄

うざい……

ゲームマスターとかいう奴の説明を聞いて、私はどうやら面倒なことに巻き込まれたということを、私は理解する羽目になった。

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