夜の都会の賑やかな灯りに誘われ
人々は眠ることなく夢を見ている


まるで作り物みたいな黒い空に
満月が寂しそうな顔で浮かんでいた




一人の男が小さなビルの屋上に立っている












長く、何も変わらぬ日々の中で

僕は自分を信じられなくなっていた


でも彼女はいつでも僕の夢を信じていてくれた


叶わぬ夢を見続けている君がとてもかわいそうで

君の人生を道連れにしてしまう前に




僕は死のうと思ったんだ





すべてから逃げるように
僕は自分を殺してしまった




頭上の月はみるみる遠くなり

暗い夜の空に溶けて見えなくなった



真っ暗闇の中で君の泣き叫ぶ声が聞こえる

君をこんなにも泣かせるなんて
僕は本当に最低な人間だ

どうせなら最初から何もできなければよかったのに
誰も気付きやしない石ころだったら
君がこんなに悲しい気持ちになることもなかったのに



まるで作り物みたいな都会の夜空

満月が寂しそうな顔で僕を見ていた









彼の歌が好きだった

世の中には中々受け入れてもらえなかったけれど

私は彼の歌にいつも助けられ、気付かされてきた













私は小さい頃からずっと絵を描いている
最初は絵を描くことが好きで好きで
描かずにはいられなかった


けれど、いつの頃からか
私は絵を描くことを苦痛に感じ始めていた

何を描いたらいいのかも分からず
人に褒めてもらいたくて絵を描いた
描くのをやめるのが怖くて描き続けた





私は出口のない迷路の中でずっと迷っていた








そんな時、彼と出会った

彼の歌は嘘の欠片もなく正直で
まるで生きているかのように
心のある歌だった

空っぽな私の絵とはまるで正反対





「夢を諦めるな」
そう優しく励ましてくれる歌が
世の中には溢れている

私もそんな歌を聴きながら
ずっと夢を見てきた




でも彼は
人の夢を覚ますような歌を歌っていた



「伝えたいこともないのなら
歌うのなんてやめてしまった方がいい
君は特別な人間じゃない

意地を張るのはやめなよ
普通の人は普通の生活しかできないんだ
大勢の誰かさんと似たような人生を歩むのさ

その方がきっと君は幸せになれる」





そうなのかもしれない
…と私は思ってしまった







でもどうしても絵を描くことをやめられなかった
伝えたいことなんて思い当たらない…
絵を描くことは好きじゃないのかもしれない…





だけど私は…
絵を描いている自分が好きなのだ





私が今まで絵を描き続けてきた本当の理由
私がこれからも描き続ける理由


彼が夢から覚ましてくれたお陰で
私は自分の心に気付くことができた





そんな彼はビルから飛び降りてしまった
また私は夢から覚まされてしまったのだ








彼の命は助かったが
ずっと眠ったままだった
まるでどこかに魂を置いてきてしまったかのように
空っぽの身体で息をしているみたいだった



彼が私にしてくれたように、
私も彼の夢を覚ましてあげたい



月の光の中で
真っ黒な鳥が囁く




「川を渡り切れなかった者の魂が
河原の石に宿るというよ
彼はまだ崩された石の塔を積み続けている
迎えに行ってあげるといい
見つけられるかは分からないけれどね」




そう言って
真っ黒な鳥は夜の空へと溶けていった






眩しい光の中で君が泣き喚く声が聞こえる

君をこんなにも泣かせるなんて
僕は本当に最低な人間だ





でももう石ころの夢なんて見たくない
二度と君に悲しい夢など見させたりしない


とても幸せな夢を
君と二人で見ていたいんだ







ベッドの横の机に
可愛らしいスミレの絵が描かれた
石ころが置いてあった







小さな石ころはとても幸せそうだった









-終-

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