神殿内部は、白っぽい切りだされた岩石で構成される石造だった。石英が多く含まれているのか、光の当たり具合でキラキラと輝く。太陽熱を遮熱しているおかげで幾分か涼しく、足元も砂ではなくなったので活動はしやすい。

 まず神殿に入ると、正面に仰々しい鍵のついた大扉があった。鍵を壊そうと画策するも、特殊な結界で守られたように攻撃を受け付けなかった。神殿型のダンジョンの構造はいつもこうだ。ボス部屋はすぐ近くにあるのだが、広い神殿内を探索して鍵を探さなくてはならない。途中に普通の扉にも鍵がかかっているところがあるので、いわゆるボス部屋専用の鍵を探さなくてはならないのだ。

 エーリ達は神殿に入って右側をひたすら探索していた。今探索している部分は狭い通路である。窓はないが等間隔に明かりが灯っており、それなりに明るい。

いてっ


 宮川が急に低くなった天井に頭をぶつける。

ったく、宮川は無駄にでかいからなぁ


 同じパーティの久保田が言った。腕を後ろに組み、今にも口笛を吹きそうな態度だ。武器はダガーであり、腰に装備してある。

うっさいっつーの、お前がちっさいんだよ

はあ!? 俺は小さくねえよ!

なんだよ、小さいこと気にしてたのかよ……


 宮川が喉元で笑うと久保田はくるくるの髪をしゃかしゃかとかいて気まずそうに目を逸らした。

お前ら、静かにしろ


 戦闘を歩くエーリが注意する。すると、宮川はまた笑い、言った。

エーリ、そんな気を張るなって。いつもの動きができないぜ?

いつもの動き? 神殿入口のゴブリンにびびってやたら槍を振り回してたのは誰だったかしら?


 久保田の隣にいる長髪の女性――西村が言った。眼鏡をかけており、おっとりとした雰囲気だが手に持つのはハンマーである。

び、びびってはねえよ……やっぱ初っ端景気づけに派手な技で決めようとだな……

びびってましたよ、宮川さん。腰引けてましたもん


 一番後方を歩く長い髪を結んだ青年――長谷部も言った。装備は刀である。

うるっせえな、あーはいはいびびってましたよ。仕方ねえだろ、ゴブリン初めてなんだから! じゃあお前らはびびってなかったのか? ああ?

宮川ほどは

私は別に

僕も普通ですね。ダサいです宮川さん

くっそおおおおぉぉ!


 宮川はその場で壁に頭を打ちつける。

 エーリはその会話を聞きながら小さくため息を漏らす。皆、気が抜けている。しかしそれでも仕方ないな、と思った。

 パーティは、武器、スキルのバランスを見ながら、できるだけ同じレベルの者で組む。つまり、アカデミー最強であるエーリのパーティはそのままアカデミートップ五になるのだ。

 大広間にいたゴブリンもこうは言いつつも皆、問題なく倒せていた。むしろ余裕がありすぎたほどだ。

 探索していてもゴブリンしか出てこない。鍵が一向に見つからないのは不安だが、とりあえずは安心できる。

……お、ようやく通路は終わりか


 宮川が安堵したように言った。

 通路を抜けると、目の前には開けた場所があるようだった。灯りが灯っていないので一体どんな構造なのかは分からない。

 エーリは目を細める。何かの気配を感じる。

お? なんだよエーリ、早く行けって

待て


 エーリが進もうとした宮川を制止する。

なんだよ?

……いる


 エーリが呟いた瞬間、目の前の灯りが一斉に灯り始める。

 目の前は少し開けている広間だった。直方体であり、何をする場なのかは判然としない。奥には扉が見える。ここも通路と言えば通路なのだろうか。

 しかし、明らかに今までの通路とは違う。

 うじゃうじゃと、赤茶げた肌のモンスターが犇めき合っていた。身長は百三十センチほどで、ボロ布を体に纏い、簡素的な兜をかぶっている。手には標準的な長剣――グラディウスらしきものを握っていた。

 見た限りゴブリンだが――、今までみたゴブリンとは違う。

 まず、今までのゴブリンは肌が緑色だった。武装も棍棒であり、木製であったためにスキルによって切断し、無効化することができた。

 ギャァ?

 一匹がこちらを向く。黄色い瞳が歪んで、笑顔を作った。

 ギイィィオオォォ!

 その一匹が叫ぶ。口からよだれを垂らしながら、――まるで、飯が来たぞと言わんばかりに。

 一瞬エーリはひるんだ。それは〇・五秒にも満たない間であり、初見のモンスターに向ける戸惑いであった。――と、そう思いたい。

 威圧によりひるんだなどと、思いたくなかった。

 このモンスターはゴブリン亜種――シグゴブリンである。

おいおい、威勢がいいなぁ、こいつらは


 宮川が不敵な笑みを浮かべる。

 ゴブリン達が騒がしく何か囃し立てている。何をしているかと思ったら――パーティを組んでいた。さっきまでのゴブリンがしてこなかった動きだ。

こいつらはシグゴブリンだ。知能が高い。気を付けてかかれ。――各員、戦闘開始!


 引く――エーリの頭にはそんな選択肢はなかった。数は五十匹を超えるが、余裕を持って殲滅できるレベルだと判断したのだ。

ィヤアアァッ!


 エーリが一つのパーティに飛び込み、切りつける。伸びた斬撃により、首を横に一直線に切断する。一薙ぎによってパーティ一つが全滅した。

 それを見た周りのゴブリンパーティ達が、感嘆の色を浮かべた。

うおおおおぉぉぉぉッ!


 宮川もパーティに飛び込む。久保田、西村、長谷部もそれぞれが違うパーティに切り込んでいった。エーリ達が協力するよりも、各個撃破した方がこれくらいのレベルの敵なら手っ取り早いと判断したためだ。

 エーリは向かってくる一体を切りつける。そのまま遠心力を使い回転し、次の一体を切り上げた。浮いた動作でそのままジャンプし、一体を頭から真っ二つにする。剣の重さを利用した流れるような動作だ。

 一つのパーティ三体を倒したところで、残った二体が急いで後方のパーティと合流し、七体になった。今度は向こうから襲いかかってくる。

 エーリが先頭の一体を斬撃延長で捉えようと切りあげる。

 ……?

 手ごたえがなかった。

 え? 何だ? 何が起きた?

 数瞬の混乱の後、避けられたのだと理解した。

よ……けっ!?


 サイドステップで避けられた。読めないはずの斬撃延長を。ゴブリンという低級モンスターにだ。どうしようもない不安が頭の中で爆発的に膨らむ。それが彼女の動きを少し止めた。

 その間にゴブリンがグラディウスを振り上げる。

 振り下ろされる直前、彼女の意識がかろうじて生き返る。

ハアァァッ!


 そのままグラディウスを切り上げ、打ち合った隙に自分はグラディウスの刃の先から身を翻して移動。そのまま回転の勢いを使い、首を切――……。

 避けられた。

 ゴブリンの目は彼女の刃を見ていないのにひょい、と首を下げて避けたのだ。

 何でだ? エーリの剣技は誰よりも可憐で強かったはずである。それがあっさりと避けられる。

は!?


 エーリは咄嗟にバックステップして距離を取った。

 ……ここは、ランクⅢだぞ。

 ランクⅩまであるうちの、Ⅲだ。

 ゴブリンは、低級モンスター図鑑に載っているモンスターだ。シグゴブリンだって、そうだ。

 それなのに、――どうして避けられる?

アアアアァァァァァァッ!


 エーリは目を見開き、ゴブリン集団に飛び込む。汗が一筋こめかみを伝った。

 彼女の剣撃はあっさり避けられ、彼女は七匹のゴブリンに囲まれていた。ニヒッ、とゴブリンが笑った。悪寒が走る。エーリはそのまま体勢を低くした。ゴブリンからは防御姿勢に入ったように見えたかもしれない――が。

疾――ッ!


 片方の足を背側に向け、そのまま回転する。斬撃延長により、囲んだゴブリン全員の首を正確に捉える。

 今度は手ごたえがあった。ゴブリン六つの首が宙を舞う。

 ……六つ?

 一匹のゴブリンは特徴的な尖った耳が切断されただけで、避けていた。

ヤアアァッ!


 エーリは突きによる斬撃延長でゴブリンの胸に風穴を開けた。ようやくそのゴブリンの体は白い光りとなり、天へと昇って行った。

 エーリは止まらない冷や汗を拭い、そのまま向こう側の扉まで走る。

 扉まで行きつき振り返ると、宮川が必死の形相でこちらに走ってくる。どうやら彼もゴブリンを何とか倒し切り抜けてこられたらしい。

 しかし、久保田、西村、長谷部はまだ戦闘中だった。

 そして、あろうことか押されている。

 こちらから助けに行こうにも、ゴブリンの壁のようなものができてしまっている。とても助けには行けない。――パーティが分断された。

 エーリは沸騰する不安をどうにか沈め、叫ぶ。

久保田、西村、長谷部! 引け! ……撤退しろッ!


 三人がそれぞれ一瞬硬直する。

 撤退。その言葉を、彼らは聞いたことがなかった。なぜなら、今まで一度も負けたことも、ピンチになったことすらなかったからだ。

それじゃあ! エーリさんたちはどうするんですか!


 長谷部が一匹のシグゴブリンと戦闘しながら叫ぶ。

先に進む! 大丈夫だ! 必ず戻る! ……だから、撤退しろ!


 長谷部は苦渋の表情を浮かべるも、数秒して、ゴブリンのグラディウスを大きく弾き、背を向け走り出した。撤退だ。西村も、久保田もそれぞれゴブリンに背を向け走る。

ご武運を!

入口で待ってるからな!


 西村と久保田が叫んだ。

 エーリはこくりと頷き、そのまま先の扉を開いた。向かってくるゴブリンに追いつかれないように、エーリと宮川が素早くくぐり、扉を締める。モンスターは、自分のフロアから出ることができないのだ。扉を締めれば、モンスターは開けることができない。

 閉じた扉の前でエーリは大きく息を吐く。経験したことのない緊張感だった。グラディウスが振り下ろされた、あの時の恐怖をエーリは思い出して身震いする。簡単に打ち返すことのできる攻撃だったし、実際そうできた。それでも、心臓が凍るほどに恐ろしかった。

 エーリは思い出す。両親がダンジョンで死んだその瞬間を――。

 エーリに振り下ろされた刃を父が庇う光景をを――。

エーリッ!


 宮川が叫ぶ。その声音には焦りが多分に含まれている。エーリは、はっとして振り返った。

……え……?


 エーリは目を閉じてしまいたかった。

どう、して……なんで……


 エーリの声には、もう精悍さはない。ただの、十六歳の女の子の声だ。

 扉の先は、円上の大きなフィールドだった。

 ギイイイィィヤアアアアアアァァァッ!

 そこに、シグゴブリンが、二百体以上いたのだ。

 四百以上の黄色い瞳がエーリを捕らえる。ぞぞっと背筋が凍りついた。

 いつも殺す側だったエーリはこの時初めて、殺される側の気持ちを味わった。

 槍を構え警戒する宮川の顔には汗が流れており疲労の色が見える。エーリはこの戦いを避けるために瞬時に引き返す選択をした。

……! だめだっ! 開かない!


 エーリが扉を開こうとするも、決して開かなかった。一方通行の扉なのだろう。アカデミー時代こういう扉があると習ったことがある。

くっ……宮川。やるしかない!

おい、冗談だろ!


 宮川は懇願するように言う。しかし、エーリにはどうすこともできない。

 二百体のゴブリンが、じりじりと寄ってくる。

 死ぬ――、死ぬのだ。冗談ではない。負けたら、死ぬのだ。

 思い出す。

 五年前、家の隣に塔型のダンジョンが落ちてきた。天使による前兆で家から出て、とにかく外側に向かって走った。しかしすぐに幻想世界に取り込まれた。一瞬で、森林のフィールドに、家族三人が置き去りにされた。

 冗談だと――そう思いたかった。父も母もエーリも必死に幻想世界から脱出するために走った。しかし――、リザードマンがすぐに追いついてきて、エーリに刀を振り下ろした。それを、父が――。

 そこから先はよく覚えていない。気付けば、現実世界の病院にいた。多分、自衛隊が助けてくれたのだと思う。

 父が殺された時の感覚を、どうしても思い出してしまう。

どうすんだ! エーリ! リーダーだろ! 何とかしてくれよ!

そ、そんなの、無理よ……


 エーリは震える声で言う。ただの女の子の声で言う。

 怖い。怖いのだ。

 さっき、七体に屠られそうになった。それを二百体だって――?

 無理だ。不可能だ。

 どうして、こうなってしまった?

 私は、死なないように、仇を討てるように、誰よりも訓練した。誰よりも苦しい思いをした。必死で食らいついた。

 それなのに、どうしてこうなる?

ハアッ!


 宮川が槍で近づいてきたシグゴブリンを突く。正確に心臓の位置を捕らえていた。それにより、ゴブリンは絶命する。しかし、二匹目――避けられる。一匹目の死亡で学んでいるのだ。

無理、やっぱり、無理、なんだ……


 その時、エーリの後ろの扉が開く。

失礼しまーす


 そこには旅人のような衣に身を包み、腰に短剣を刺した青年と、袖口が広くだらんとした上着にミニスカートを着用している白髪の少女がいた。少女は赤いピアスをしており、同色のチョーカー、ブレスレット、アンクレットをしていて、それが年齢との間にギャップを生んでいた。

あ、いっせー、やっぱりここ、中ボスの部屋ですよ

えっ! マジで!?

これで私の勝ちですね! やっぱり中ボスは右側って相場が決まってるんですよ

えー。普通、ダンジョン入ったら左側から探索したくなんない?

それを読んでの右、ですよ

マジかよー。じゃあ、『きゅあっとガール』、録画?

ですよ。『裏切りのマッド』を生で見ます

実況したかった……したかったよ……


 青年はその場で四つん這いに崩れ落ちる。

 エーリは、言葉を失った。

 何なんだ、この場違いな二人は。緊張感がないとか、そういうレベルじゃない。まるでピクニックに来ているように、楽しんでいる。

 エーリの視線に青年が気付き、顔を上げた。そして微笑んで言う。

あぁ。俺らのことは気にしなくていいですよ。こういうのはやっぱり先に来た人もん勝ちですからねー。うわー、シグゴブこんなにいるー。これが中ボスってことか。狩りがいがありますねぇ。……ほら、千琉華も、ここでちゃんと座って見てようねー


 千琉華と呼ばれた少女は

分かってますよ、マナーですから

とその場に正座した。いっせーと呼ばれた青年も四つん這いからあぐらになる。

がんばれ、がんばれー……っておいおい、相方結構苦戦してるよ。大丈夫?


 相方、というのは宮川のことだろう。こうやっている間にもシグゴブリンはこちらに向かってきており、今も戦っている。

あ、あんたたちは……何だ


 エーリはこう言うのが精一杯だった。

あ、えーと、俺が佐上一晴で、こっちは芳匠千琉華です……


 思ったよりエーリは睨んでしまったらしく、一晴が委縮する。千琉華がぺこりと頭を下げた。

……この数のシグゴブリンだぞ? 倒せると、本気で思っているのか……?

えっ


 一晴は短く声を上げ、しばらく考え込む。そして、申し訳なさそうに聞いてきた。

もしかして……今、ピンチだったりします……?


 エーリは無言だったが、それを肯定と受け取ったようだ。

あー……ダンジョン初心者の人、ですか

……あんなの倒せるはずがないだろ! 無理だ!


 エーリが大声を上げると、宮川の方からも叫び声が聞こえた。スキルを発動し、集まるゴブリンを槍を振り疾風を巻き起こすことで十メートル後方に吹き飛ばした。

 その瞬間に、一晴は腰についている道具袋から何やら札のようなものを取り出し、宮川の方へ投げた。すると、結界のような透明な壁ができ、ゴブリンがそれ以上近づいてこれなくなった。あれはアイテムだ。

 宮川は息を上げ、その場に座り込む。

 一晴がエーリに視線を向けて言う。

無理、か。……どうして?

どうしてって……相手が強いからだ……! こんな数、無理に決まってる!


 一晴の表情が曇る。

無理、無理、無理無理無理無理無理――


 うんざりしたように、彼は言う。

……違うね。無理じゃない。実際あなたは戦ってすらいない。あなたはただ――びびって思考停止してるだけだ


 エーリはぴくっ、と眉根が動くのが分かった。射られたように、心臓が痛む。

ちが、う……!

……まあ、いいよ。ここは俺らが何とかするから。――お疲れ様


 エーリは驚愕する。

 この人らは、二人で――たった二人で、この二百体を相手にするつもりなのか?

死ぬぞ……?

いやー、大丈夫大丈夫。死なないよ


 彼は笑いながら言う。そして立ち上がり、ズボンについた砂を払う。千琉華もそのようにした。

じゃあ千琉華。ボス部屋の鍵を持っているやつがこの部屋にいたら、『はじっこカフェテリア』を生で観る。いなかったら『蘇り名将軍』を生で観ていいぞ

えーそれはずるいですよ。この部屋にいるに決まってるじゃないですか

だよなー。じゃあ賭けは不成立だなぁ


 つまらなそうに一晴は息を漏らした。

おい……!


 二人がエーリの横を通る時、彼女はそれに気が付く。

あんたら、無能力者じゃないか!

そうだけど?


 一晴と千琉華の首筋には紋章がなかったのだ。そう言えば武器もない。彼が腰にさしているのはただの二本の短剣だ。能力によるものじゃない。あんなものでは、さほどダメージは与えられない。

あんたら……ダンジョンを舐めてるのか?

舐めてるのはそっちだ

なっ……!

だからこんな状況になってるんでしょうが


 もっともだった。しかし、それだからといって彼らが倒せるとは思えない。探索者じゃない者がダンジョンに挑むなんて、聞いたこともない。

探索者じゃないから無理。アカデミー卒業何位だから無理。スキルランク何だから無理。――無理なんて、自分でそう思い込んでるだけだ


 そう言って彼は結界を抜け、ゴブリンの集団へ向かって行く。

ごめんなさい、うちのは一定ラインを超えると相手を煽っていくスタイルになるので……


 千琉華が申し訳なさそうに頭を下げ、彼についていく。

あ、おい!


 エーリの叫びは、しかし遅かった。二人は結界内だ。ゴブリンがうるさく喚く。

 無能力者は武器具現化能力がない。ただ基礎体力と身体能力が上がるだけだ。逃走くらいにしか使えない。

千琉華、行くぞ


 そう言うと、一晴と千琉華はそれぞれ反対側へ走り始める。フィールドの端をなぞるようにぐるりと回る。ゴブリン達はそこまで素早い動きができないので困惑していた。

 お互いが半周し、向こう側で落ち合う。しかし止まることなく、今度はそのまま直線的に動く、そしてその数秒後には――

 もう、ゴブリン達は全員死亡し、白い光となっていた。

はっ!?


 エーリは何が起こったのか理解できない。宮川も疲れ切った顔でそれを見ていたが、その瞬間だけは驚愕していた。

 ゴブリンは声を上げる隙もなく、胴体から真っ二つになったのだ。

ほい、お疲れー


 一晴が千琉華の腰から何か器具を取り外し、短剣の柄へと戻した。

 その時、一瞬その間が輝いた。

 ――糸?

 そう、糸だ。斬糸だ。それによって、二百体のゴブリンを囲み、そのまま引き、切った。

 フィールドには次々とグラディウスが落ちる。恐らく、五十本はあるだろう。

 これはドロップアイテムだ。モンスターを倒した際に一定確率で出現する。この数だ。売ればそれなりの金になるだろう。

これで『きゅあっとガール』BDボックス買うぞおおぉぉ!

家賃が先です

……ウィッス


 一晴は大量に落ちているグラディウスを拾い、腰についている拳大の皮袋に入れていく。これはポーチで、どんな大きさでも、どんな量でも、アイテムならば収納することができる。ダンジョンポーチと呼ばれており、ダンジョンに入ると、初期状態で腰に巻き付いている。

 大量に落ちているグラディウスの中に、ごつい鍵が落ちているのを発見する。恐らく、ボス部屋のものだろう。

 それを拾い、彼は言う。

どうする? ボス殺すけど、見てきます?

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