――聖都グリスターラス。
神の加護を最大限に享受する聖地を中心としたその都市は、この世界最大の国家であり、最大の都市であり、そして魔族に対する反乱拠点の最前線だ。
その中心街。一般市民から司祭や神官などの聖職者、貴族や果てには王族や勇者までもが頻繁に利用する市場の一角において、アークは複製奴隷のエリィと共にあてもなく次なる獲物を探しまわっていた。
――聖都グリスターラス。
神の加護を最大限に享受する聖地を中心としたその都市は、この世界最大の国家であり、最大の都市であり、そして魔族に対する反乱拠点の最前線だ。
その中心街。一般市民から司祭や神官などの聖職者、貴族や果てには王族や勇者までもが頻繁に利用する市場の一角において、アークは複製奴隷のエリィと共にあてもなく次なる獲物を探しまわっていた。
ちっ……エリィちゃんはこれ以上複製できないか……
ちょ、ちょちょちょっと!
何やってるんですか!? 勝手に複製しようとしないでくださいよ!
え~。だってさぁ、エリィちゃんなんだかんだ言って超強いじゃん?
凄く可愛いし、沢山いたら便利かなって
そんな物みたいに言わないでください!
私にだってちゃんと人権があるんですからね、いくら複製とは言え、その様な扱いは心外です!
でもベッドの上じゃあ少し乱暴にモノ扱いされる方が嬉しいみたいじゃん?
ばっ、ばかっ!
こんな街中で何をいきなり!
……ばかっ! えっち! へんたい!
へんたい! しね! しねーーーっ!!
俺の奴隷はツンデレさんだなー。
まぁいいや。適当に女の子探そうぜ!
市井の視線を一身に受ける二人。
幸いにもエリィはゆったりとした白のローブを頭からすっぽりと被っており、顔が見えない状態となっている。
元々有名な巫女である彼女は多くの人びとに顔を知られている。それが故の対応だったが、それこそが彼女の名誉を守る形となっていた。
はぁ、はぁ……。くそぅ……。
でも、そんな簡単にご主人様のお眼鏡に叶う女の子が見つかりますかね?
少なくとも私レベルじゃないと嫌なのでしょう?
さらっと自分あげたねエリィちゃん。
まぁ、確かにそうなんだよなー。
そうそうエリィちゃんクラスの子がいるわけないし、……見つかりさえすればこっちのもんなんだけどなぁ
なんで人を勝手に複製することに罪悪感がないんでしょうか?
罪悪感なんて異世界転移する時に謎の白空間においてきちまったぜ!
なんですかそれ……あれ?
ん? なんだありゃ?
ふと、アークが目を向けると、そこには何やザワザワと、困惑とも混乱とも取れる様子の市民達の姿が見えた。
特に予定の無い二人はふらふらと興味深げにその集団に近づいていく。
近くで確認すると、辺りは混乱を通り越して喧騒に包まれており、そして何より悲壮感に漂っている。
アークは市民の嘆きの中心にいる存在が王宮の関係者であり、その者が王宮からの各種通達や告知を市民に伝える告知官と呼ばれる役職のものであることを理解すると、耳をそばだてそのやりとりを聞き取る。
なんてことだぁ! 世界の終わりだぁ! 魔王に世の中は滅ぼされてしまうのじゃああ!
まっ、待て! その噂は真実ではない!
王宮からの通達を信じるのだ!
嘘をつくなっ! 戦場で直接見たってやつがいるんだ! やっぱりあの噂は本当だったんだよ! 俺は騙されないぞ!!
ここからじゃ少し聞き取りづらいな……
何かあったのでしょうか? 凄く皆さん混乱しているみたいです……
最近街に来てなかったからなぁ、何があったかさっぱりだ。
――おい! お前! なにがあったんだ? えらく慌てているみたいだが
あんた知らないのか!? 聖剣が折れちまったんだよ! 魔王軍の罠でな!
絶対的な力を持った伝説の聖剣イクセウスが失われた今。
世界の終わりは確定だぁぁぁぁ!!!!
聖剣イクセウス。
神より与えられし魔を討ち滅ぼす絶対の剣。
正義の体現、決戦兵器、人類の希望。
市民の言葉が正しければ、決して起きてはならない事態が起こってはならないことが起きてしまっていた。
そして同時にそれは、人類の敗北をも意味する、絶望的な出来事だった。
うむ。説明ご苦労。
そっかぁ、折れちまったのかぁ。
まぁ聖剣とは言え、所詮鉄の塊だから。
折れることもあるさ
ご、ご主人様! なんでそんなに呑気にしているのですか!? 大事件ですよ!
聖剣イクセウスがなければ、強靭な悪の魔力で身を守る高位魔族や魔王に傷をつけることが難しくなるんですよ!
言うてワンチャンいけるだろ?
いけませんよ! もし……もし今この街に魔族がきたら、魔王が来たらどう立ち向かうんですか!?
大げさだな~。大丈夫だって~、
勝てる勝てる
何を呑気……いいですか? 確かにご主人様は凄く強いです。この私がドン引きするぐらいには身体能力があります。
それでも、イクセウスがなければその力を十全に発揮することは不可能なんですよ!
だから何も問題ないんだって
大有りですよ! イクセウスなしでどうやって上位魔族や魔王に立ち向かうのですか!?
いや、だって俺も持ってるもん、イクセウス
こいつ聖剣複製してやがったぁぁぁぁぁ!!!!!
しかも五本
予備にしても多すぎるだろうがぁぁぁ!!!!
普段使い用、鑑賞用、布教用。
あと……万が一の為に多めに二本
聖剣は! そんなに! 簡単に! 手に入るものじゃないんですよ!!!!
しかたないだろー?
複製できちゃったんだから。
ってか聖剣めっちゃ光るから最近持て余してるんだよなー
ちょっと待ってください。最近私達のお家、やけに天上の明かりが眩しかったですよね?
うん。聖剣
贅沢にも程があるでしょうが!!!
と、言うわけで。ここに聖剣が一本あるから、これ王宮にこっそり持って行ってよ。
流石にこのままじゃ、あいつらマズイでしょ
え? どうやって? 一応私、顔が割れているんですけど?
適当にやってればバレないって。
万が一バレても大して問題にならないでしょ?
なんて適当な……
はっはっは~
ま、まぁいいでしょう。
変化の魔法はひと通り使えます。
適当に神の遣いとかを騙って渡してきます……
適当って、それでいいのか神の巫女だろ?
けっ、偽物が神の巫女を名乗っていいんですかねぇ!?
そこんとこどう思います、ご主人様ぁ!?
やさぐれてるなぁ……
誰のせいでこうなったと思ってるんですか!?
まぁいいや。あ、あとついでだから聖なる鎧と聖なる護符も王宮に渡してきて欲しいんだけど……
だからホイホイ複製しないでください!!!!
一時は聖剣の喪失によって絶体絶命になるかと思われた人類。
だが最終的には、突如現れた神の遣いよって新たな聖剣を齎され、その勢いを取り戻す。
聖剣の授与。その奇跡的な場面に幸運にも立ち会うことになった神の巫女エリィ(本物)は、名も知らぬやけに懐かしい雰囲気の感じる、自分と背格好と言葉遣いと口調と声色がやけに似ている御使いの動揺した態度を訝しむのであった。