おわり
……
……っ
ここは……
や。起きたかよ。
っ!あなたは……!?
日本語じゃない……知らない言葉
なのに何故かわかる!どうして……
まあそう警戒すんな、タキ。
……私の、名前
あたしはマティナリア。
マティナリア・ノークツウォルヴ。
こっちの世界で……そうだな、
王様より偉い科学者ってところだ。
で、お前はあたしが作った
独立歩行・思考型有人格記録媒体。
要するに人工知能だ。
独自の言語を一般常用化させてるから、
あたしの言語に違和感あるだろ?
それは切り替えることも出来る。
だが……ここを見てくれ。
壁一面に……これは?
これも記録媒体。しかし旧式のだ。
お前らの世界設定では「本」に近いな。
何度か軽量化はしたんだが、多く
集めすぎて部屋が手狭になってくるんで
お前に移したいんだよ。
私に……移す……
そ。前頭部にスキャナがふたつ
ついてるだろ?眼球と同じ構造に
してあるから、「読書」みたいに
記憶していってくれよ。
お前の中の人格はみんな
「読書」と「解明」が好きにして
おいたんだ。だから平気だろ?
……それで、これを読んでどうしたら
いいの?読み終えてしまったらどうなるの?
一定期間ごとにあたしに記録を
投与するんだよ。あたしはあたしで
やることがあるし、ここはこの部屋だけ
じゃない。効率化ってやつだ。
お前はせっかくの最高傑作だから、
簡単には手放してやらないぞ。
2000年くらいしたら時代が追いついて
旧式にはなるかもしれないが、この
マティナリア様がそんなにお前を
放っておくわけないだろ。
さ、最高傑作って……
そ。実験時、過去の記録だけを頼りに現状を
打破する、というのと記憶の集積に自我が
耐えうるか、というのは組み込んでた。
けど、まさか仮想実験システムと
こっち側の世界があることにまで
辿り着くとはなあ!
あたしはお前を気に入ったよ、タキ。
お前はあたしの創造と想像を簡単に超える。
……
なに、不自由はさせないさ。
「読書」だって強制じゃない。
やることはあると言ったが、お前から
したら時間はたっぷりあるんだ。
それに……明日にはミヤビも目覚めさせる。
……
ミヤちゃん……
……よかった、ミヤちゃんもいたんだ。
お前たちは死なない。記憶も
自由に出し入れできる。時間は
ほぼ無限。それに……
そうだな。この部屋の「本」を
全部「読書」しきったら、どっか
遊びにでも行くか。
もう条件をクリアしないと外に
出られないのは勘弁して……
はは、悪い悪い。
とりあえず、実験で獲得したお前の
自己観念を私に投与させてくれよ。
向こうに機器があるからさ。
ん、さんきゅ。
……しかし、随分と複雑な
思考回路になってるなあ。
あ、あなたが組んだんじゃ
ないんですか……
組んだのはあたしさ。でも、
育つのはお前の自由だ。
お前は無限に知能を高められる。
そしてあたしに投与して、あたしが
世界のために奮う。
そして誰もが幸せになる。
王も、民も、草木も虫も。
神も悪魔も幸せになる。
あたしのおかげで。お前のおかげで。
誰もが……
そ。そして誰もが、お前を忘れない。
……
ま、これからのことは明日考えて
くれりゃいいさ。
これからよろしくな。タキ。
……
はい。
ふう……
なんだあの人は。ツノ生えてるし、
キバも見えるし……信じられない。
でも、悪い人じゃなさそうだった……
私を作ってくれて、良くしてくれそうで。
……あの学校を繰り返したたくさんの
私が今の私になり、今の私がたくさんの
人のためになる。
「そして誰もが幸せになる」……
小説とは違う。誰も死なない。
世界の外の世界、運命の外の運命……
どこまでも行ける体。理解できる心。
……面白そう。すごく。
まだ、こんなに謎が広がってたなんて……
いけるところまでいきたい。
やれるところまでやりたい。
私は……私以上の私になりたい。
だから……そうだな、
今日はもうおやすみ。
――また、明日。
おわり
完結おめでとうございます! 想像していた方向とまったくちがう最後に驚いています、面白かったです!