4月2日水曜日
4月2日水曜日
では本日の講義をはじめる
まずは周期表のテストを行う
エミーはこの紙、ブルーノはこの紙をつかってもらう
では5分間でいいかな?
はじめ!
渡された紙には周期表の枠だけが描かれていた。そこに覚えた元素記号と名前を埋める。
おや、残り1分あるが、よいかな
はい
待ってください!
ブルーノが早々と終わって紙を伏せている。
エミーはやっと周期表を埋めて、何度も読み返した。
ではおわりとしよう
二人は紙を提出した。
ふむ。二人ともきちんと覚えているようだな。
今回の小テストは合格とする。
やった
エミーは喜びの声を漏らした。一方のブルーノは、通って当たり前という顔をしている。
さて、早速今日の講義に入りたい。
元素の周期律について詳しく話そう
ー繰り返し現れる元素の性質ー
ー周期表の縦のグループー
昨日、原子の電子配置について述べた。
価電子、という言葉を覚えているか
最外殻電子でも構わない
思い出しました。一番外側にある電子で、希ガスの場合は価電子数が0ですね
その理解で十分だ。
この価電子数だが、元素を原子番号の順番で並べると、価電子数の同じ元素が順繰りに現れる。
長い説明になるが聞いてほしい
まず水素の価電子数は1、その次のヘリウムは希ガスなので0になる
リチウムの価電子数は1、その次のベリリウムの価電子数は2、という風に1ずつ増えていくのはわかるだろう
そしてフッ素の価電子数は7で、次のネオンは希ガスだから価電子数0だ。
ここから価電子数が1にもどる。ナトリウムの価電子数は1で、マグネシウムの価電子数は2で、ここから1ずつ増えていく。塩素の価電子数は7だ。
そしてアルゴンの価電子は0だ
このように、価電子数は定期的に同じ値をとる
元素のこのような性質を、【元素の周期律】という
価電子の他にも、様々な性質が周期的に似た値をとるようになる
元素の性質はデタラメではなく、原子番号の順番に並べると法則がみつかるのだ、ということをわかってほしい
まだ教えていない性質にも周期律があるので、それが出てきたときにまた話すことにしよう
その「法則のことを考えて、縦に似た性質の元素が来るように並べた表のことを、周期表という」
さっきのテストで、20番目まではおぼえてもらった。とりあえずそれくらいは知っておいてほしい
これからさらに大きな周期表を覚えてもらう
えっ、どれくらい覚えるんですか
そうだなあ。最初にも言ったが、最終的には50個ほど押さえてほしいと思っている
が、がんばります
周期表の横の並びのことを周期、縦の並びを族という
族、英語でファミリー、家族のことだ
縦の並びは家族同然、よく似ている。
そのなかでもよく似た性質のグループを4つ挙げよう。
この縦長の周期表は覚えてもらおう。
これも明日まででいいかな
ええっ、これも明日ですか。
今日のテストも大丈夫だったんだ。これもいけるだろう。
は、はい……
縦の並びは家族同然、よく似た性質を持っている。
というより、縦に似た性質の元素が来るように周期表が描かれているというべきだな
周期表には18の族があるが、そのうち4つを覚えてもらおう
Hを除く1族を【アルカリ金属】という
水素は金属じゃないからな。これは除く。
2族のうちBe・Mgを除いた4元素を【アルカリ土類金属】という。
Be/Mgはアルカリ土類金属には含めない。ちょっと性質が異なるんだ
周期表の反対側に行って、17族の元素を特に【ハロゲン】という
右端の18族元素を【希ガス】という。これは何度か触れたな
この4種類は特に縦の性質がよく似ているので覚えておいてほしい。
ここまではいいかな?
それらの元素はどのように似ているのですか
少しだけ特徴を示しておこうか。
まだ習っていない言葉もあるから完全に理解する必要はない
まず【アルカリ金属】
アルカリ金属は反応しやすい物質で、空気中に放置しておくとすぐに酸素と反応してしまう。
水とも激しく反応して強いアルカリ性を示す。
なのでアルカリ金属は石油の中に保存するルールだ
それから、例えば塩素や硫酸、炭酸などと反応してできた物質は水によく溶ける
アルカリ金属と反応したものは水に溶けると覚えておいてほとんど大丈夫だ
次に【アルカリ土類金属】
この4元素も常温で水と反応して強いアルカリ性を示す
硫酸、炭酸、リン酸と反応してできた物質は水にほとんど溶けないという性質がある
次に【ハロゲン】
水素との化合物は強い酸性だ。ただしフッ化水素は弱酸性なので注意してほしい。
ハロゲンは他の原子を酸化する力が強い。
最後に【希ガス】
希ガスは非常に安定で全く反応しない。希ガスはすべて気体だ。
駆け足で説明したが、難しい内容を話したのでここでつまづく必要はない。あとできちんと説明する予定だ。
とりあえず、この4列の元素名と元素記号を覚えておけば合格とする。
さて、ここまででてきた元素は、周期表を見れば性質が大体わかるものばかりだった
これら1.2族と12から18族元素のことを、まとめて【典型元素】という
これら典型元素は、同じ族なら価電子数も同じで、同じ族なら性質も似ている。
周期表を見れば性質がわかる元素のあつまりだ
だが中にはそうでないものもたくさんある。今まで省略してきた3族から11族の元素だ
これら3から11族のことを【遷移元素】という
遷移元素の価電子数は1か2で、族の番号とは関係ない。
元素の周期律も遷移元素では目立たない。
また、縦同士よりも横同士の元素の方が性質が似ている。この意味でも周期表はあまり役に立たないな。
ここまでで一旦、周期表の話を終える。
だがこれからも、何度も周期表の世話になることだろう。しっかり覚えてくれ。
少し短いが、午前の講義はこれで終わりとする
昼食の準備は、カスパルとブルーノだな。楽しみにしているぞ。
ルイーゼは不敵な笑みを浮かべながら退出してしまった。
今日の講義短かったねー
ふとブルーノを見ると、顔がこわばっている。
う、うん。
どうかした?
い、いや、なんでもない
ブルーノも逃げるように退出してしまった。
私、何かしたかな……
もしかして、料理したことないんですか?
う、うるさいっ
ルイーゼがにやにやしていた理由はこれだったのか。
卵ばっかり焼いてどうするつもりなのかしら
と、調理台をよく見ると冷めたチキンライスもどきが人数分用意されていた。
……ああ、オムライスね、確かに難しい料理じゃないけど……
これ、何?オムライス?
そ、そうだ。たぶん……
みなが口に運ぶと、なんとも言えない表情を浮かべた。
中身冷めてるじゃない
普段いじわるされていることのお返しに一言放り投げた。
薄焼き卵が難しかったんだよ
仕方ない。私が温めてこよう。
魔法で
ルイーゼはそういうと手をかざし、全員分の皿を手許のお盆に集めて自室に戻った。
今のなに
魔法じゃないの
……チン
程なくして、温められたオムライスが人数分戻ってきた。
これなら美味しく食べられるんじゃないか
オムライスから湯気がたっている。
一体どうやったんですか
これも魔法だから教えられない
ルイーゼは意地悪な笑みを浮かべて、オムライスを全員に配った。
まあ、この世界でもそのうちできるようになるでしょう
ルイーゼが意味深な言葉を発したが、エミーはその意味を理解できなかった。
オムライスの方は、卵の厚みは気になるが、まずまずの味で十分食べられる代物になっていた。
ごちそうさまでした
チキンライスはそんなに悪くなかったので、温めると意外とおいしく食べられた。
リタとエミーは皿洗いを済ませ、カスパルの入れたハーブティを片手に休憩時間となった。
午後の授業まで、エミーは周期表を必死で書きなぐった。
なんとかこれを覚えて、明日のテストに合格しなくては。
一方のブルーノは、悠々と読書を楽しんでいるようだった。
しばらくすると予鈴が鳴り、二人は午後の講義の準備を始めた。