件のご主人様がいらして、なんかこう、火がついてしまったのでしょうね。
ご主人様登場作の『ゴンドラクエスト』も、タイトルは聞いたことがあるのですが、実際にプレイしたことがないのでした。
件のご主人様がいらして、なんかこう、火がついてしまったのでしょうね。
ご主人様登場作の『ゴンドラクエスト』も、タイトルは聞いたことがあるのですが、実際にプレイしたことがないのでした。
あった……!
ありました、『ゴンドラクエスト』です。ご主人様より受け取ったCDケースと寸分違いのない表紙絵が輝いていらっしゃいます。
ただの一つ、「体験版」という文言の有無を除いて。
渡されたの、体験版でしたからね……
なんと割に合わない仕事だったのでしょう。
……あら?
よく見ると、隣には別の表紙絵の『ゴンドラクエスト』が並んでいます。なんでしょう、赤と緑、金と銀みたいな裏作品のあるタイトルではなかったように思いますし……。
って、続編じゃないですかコレ!
2ですよ2。『ゴンドラクエスト2』です。発売日も今週とかなり最近。
ご主人様、続編の登場に合わせての『願い』だったわけですね……次回作では存在感を出したい、みたいな。考えてもみれば作品が既存ならシナリオを書き換えるなどという芸道、無理ですもの。
割の合わない仕事……といいますか、私の至らなさといいますか。つまりはお金があまりないのですが、自分のお客様の行く末は気になるもの。ということで二作品とも購入します。
あー、いらっしゃいました、あのご主人様
仰るとおり、一作目の序盤の村で登場されていらっしゃいます。ご丁寧にバストアップグラフィックまでついて主人公一行を出迎えていらっしゃいますね。
他のモブは共有グラの中、ご主人様だけ単独グラで登場なのに……
こんな思わせぶりな登場の仕方をしておいて、本当に何もイベント発生しないのですね。何度話しかけてもテキストは同じ内容で、事件が起きる素振りもありません。
来館されたご主人様の口ぶりからして、これ以上の発展はなさそうです。そうとなればさっさと次回作へ行きましょうか。かなり邪道なプレイングなので私のポリシーに反するのですが、支払われなかったお代のほか時間まで犠牲にはできません。
……おや?
プレイ開始してすぐ、異変に気づきます。
初期の所持金にしてはあまりにも多すぎます……
一作目からセーブデータを引き継いだわけでもないのに、初めから持っているゲーム内通貨の数が尋常じゃない量です。更に思い出してみることには、
しかもこの額……私がご主人様に退館時に請求した額とぴったり同じです
振り込んでおいたって、こういうことでしたか……ありがたいのだかそうでないのだか。
あっ、登場されましたよ、ご主人様
ちょくちょくとゲームを進めてゴンドラに乗って下るうち、ご主人様が登場されました。
配役は前回同様、序盤の村でのお出迎え要員からは変わっていないようですが……。
よぉ、ちょっと手伝ってくれないか?
えっ? あっ、は、はいっ
はい、いいえ、の選択肢が出て、咄嗟に頷いてしまいました。
ゴンドラの分配をやってるんだ。リサイクル品と廃品に分けてるんだが、何せ量が多くてな。勿論報酬は出す
……あぁ
なるほどこうきましたか。
いわゆるアレですね。猿を追いかけてたらいつの間にか屋内サッカーに夢中になってたり、戦闘は逃げてばかりなのにカードだけは本気で集めてたり、犬の足跡を拭いて資金繰りする、あの。
ゲーム中の、ミニゲーム枠ですねコレ。報酬という単語で一発でピンときました。
えぇ、喜んで
助かる。それじゃ……
Select the music!
……えっ?
えっ、そういう?
ポカンとしてたら流れるまま画面上に曲目リストが出てきました。上下でカーソルを合わせた曲がインストで流れ出します。
聞く感じ、前作のBGMのようです。
あ、コレは覚えてる
聞き覚えのある曲を選択します。
俺の上から落ちてくるゴンドラを、見た目で判断して、廃品と美品のゴンドラを左右に振り分けてくれ。その指示に従って俺がスパーンと弾く
なんですかそれ
ルールを聞くだけでめちゃくちゃです。ゴンドラが上から落ちてくる? ゴミ捨て場か何かですか? というかそんなに廃棄物あるのですか? 全ての交通機関をゴンドラに頼ってるんですか? まず危なくないですか?
確かにゴンドラ落としちゃいましょうよと提言したのは私ですが、そんなコミカルテイストに伝わってしまっているなんて思いもしませんよせっかくその返り血デザインを活かすようなダークなイベントを期待してアイディア出ししたというのに
3
2
1
Go!
わっ
言ってる間に始まっちゃいました。
ひとまず言われた通りに左右に振り分けますが、
早っ、ムズっ
しっかりと音ゲーらしく曲のBPM準拠ですか。というか破損具合を見た目で判断しろってノーツ処理適当すぎませんかゲーム性としてどうなんですか。
あっ、間違えたっ、あっ
連打を落として、ゴンドラがご主人様の上にそのまま落ちてしまいました。
んエェイ!
ぶっ
変な呻き声と同時にご主人様が片手でゴンドラを受け止めます。引き続き、落ちてくるゴンドラを腕で左右に弾き始めました。
あっ、あっ待って早いっ
んエッんエんエェイ!
立て続けにノーツを落として、しっかりとご主人様が受け止めます。片手に早四つものゴンドラが積み上がってしまいます。
それでも懸命にたくましく、ご主人様はゴンドラを弾き続けます。曲が終わるまで。
……ふふっ
明らかに、明らかに制作側がシュール受けを狙ってるのは分かるのですが、それでも無理矢理笑わされてしまいます。
えっ、何ですかこの連打
どうやっても見切れなさそうなノーツの連続に、思わずコントローラーを置いてしまいました。
んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん
あっはははははっ、ご主人様、ご主人様潰れちゃう、あっはははははっ
壊れた鳥型ぬいぐるみのように、音声SEが連続して最早ビープ音です。あぁっ、段々ご主人様の膝が折れてきました。
あっはははっ
……
……もう一回
ご主人様と私にしか分からない、制作陣の暴走にしか見えないミニゲームが夜通し行われたのは、世界全体を見ても私の部屋だけのように思われます。
コレ、楽しんでるの私ぐらいなんでしょうけど、制作企画費とか、請求できないものでしょうか
少なくとも多額のデザイン費がかけられたご主人様の立ち絵は、私に対してだけ消化されたようでした。
改めて考えると、ご主人様の来館は本当にご主人様の願いだったのか、制作陣の願いだったのか、よく分かりません。
ご主人様、暇だったと仰ってましたが、こんなことがやりたかったのでしょうか……
村人やモブはそれらしくしてるのが一番な気もします。
考えても返ってくるのは、とっくに振込料をゆうに超えた『報酬』だけなのでした。
――電子情報は誰が思いを乗せ
〆