伏せ字

王都より南下すること、およそ2週間。

勇者たちは、いくつかの峠を越え、依頼を受けた目的地へ到着するところであった。

ウィステリア

ゆうしゃさま

あの丘を越えれば
まもなく目的の村です

ウィステリアの言葉に、勇者はうなずいた。

ゆうしゃ

こちら側は
もう春なんだな

ぐるりと見渡す限り、緑が生い茂り、もう春は根付いていた。

再び目を先へ向けると、すこし前をいっていたシャーロットが笑顔で手を振っていた。

シャーロット

ゆうしゃさまー

ゆうしゃ

ほーい

ゆうしゃが、シャーロットを追いかけて丘に登ると、視界が開け、村の全貌を見下ろすことができた。

少し遅れてカスミもやってきた。

カスミ

シャーロット
むやみに走らなよ

ウィステリアが
置いてかれてるぞ

後ろを見ると、ウィステリアがだいぶ遅れてトコトコと歩いていた。

カスミ

ゆうしゃも
リーダーらしく

シャーロットに
何か言ったらどうだ?

ゆうしゃ

何か言うって

それって
ねぇ

○○○○○○?

カスミ

ゆうしゃよ
なんで伏字なんだ?

シャーロット

二人の気持ちは
伏字でも通じるって
ことですよ

ねー

そこに入るのは、
すきだよ です

カスミ

シャーロット君

文字数もあっていないし
意味も通じないから

シャーロット

えー
でもでも

そんなやりとりを気にした風もなく、横をウィステリアが素通りしていった。

このゆるいやり取りがこのパーティの色なのだ。

ウィステリア

みなさん
置いてきますよ

そのウィステリアをカスミの声が後ろから引き留めた。

カスミ

タンゲ村とは
聞かない名だな

ウィステリア

新しいのよ

以前ここにあった村は
溶岩にギリギリのまれたの

書物に書かれた内容を呼び起こすようにウィステリアが、感情なく過去の出来事と、ぽつりぽつりと説明した。

カスミが見る限り、遠目から見下ろすタンゲ村に、その傷跡は見受けられなかった。

カスミ

こんなにきれいな
村なのに?

ウィステリア

新しいって言っても
100年以上前の話よ

カスミ

山の神の怒りを
かったとか?

ウィステリア

それは分からないわ

カスミ

魔法使いなのに
興味なしですか

ウィステリアは、意味が分からず、きょとんとした。

魔法使いだからといって、だれもが神話が好きなわけじゃない。

ウィステリア

ないわね

でも、依頼は受けるのだから
調査はしたわよ

ただ、記録がほとんど
残ってないから

カスミ

そう、その依頼だ
それが聞きたかったんだ

とカスミが思い出したように言った。

カスミ

死因不明の死体が
あるらしいが

村を無条件で信用してる
わけじゃないんだろ?

どっちの味方するんだ?

ウィステリア

どっち?

依頼主は村長だけど
もう一方って

死体?

シャーロット

そんなぁ

カスミさん
死体の味方するんですか?

ゆうしゃ

お金も
もらえないですよ

カスミ

容疑者だっちゅうの

はめられた形になったカスミの答えを聞く前に、ウィステリアは歩き出していた。

ウィステリアにつづいてゆうしゃたちも歩き出した。
もうすぐ、目的のタンゲ村だ。

まずは、依頼主の村長に会わなければならなかった。

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