大気が天へと吸い込まれていく。
大気が天へと吸い込まれていく。
空には月のような穴が開き、その向こうには蠢く闇があった。
闇の波間には時折光が浮かび、それは獣の視線のようにこちらを覗いている。
空間は歪み、時間は軋み、猶予は容赦なく消費されていく。
僕は背後へと振り返り、そこにいる三人の姿を見つめた。
……zzz
…………
鶫は深架の腕の中で静かな寝息をたて、深架はこちらを心配そうな瞳で見つめている。
そして——
!!!!!
琉史はこちらに向かって何かを叫んでいるけど、僕にその声は聞こえなかった。
僕と彼らを隔てる拒絶の結界の中で、僕はかつての自分を思い出す。
僕は、あの時と同じことをしようとしている。
でも、あの時とは明らかに違うこともある。
あの頃は、漠然と誰かのためになりたいと思っていた。
自分には何もないから、自分がいても何もできないからと、ただの兵器になることを志願した。
道具になれば、誰かの役に立てると思っていた。
でも今は——
僕は、みんなと再び出会った……。
……ありがとう
聞こえるはずのない一言を、それでも僕は口にする。
上空を見れば、歪んだ空間がバベルの塔の先端を呑み込み始めている。
僕はゆっくりと息を吸い込み、力ある言葉を紡ぐ。
錠文解放!
直後、背後で空気が弾け、背から解放された翼は僕の意思とは関係なく、空を覆い天を隠すほどに広がる。
月明かりさえも拒絶したそれは、静寂を湛えた闇を生み出し、さらにその闇を引き裂いて無数の光糸が複雑な模様を描き出す。
着々と進行していく光の術式に乗せて、僕は最後の言葉を紡ぐ。
天蓋顕現!
その言葉に光糸は輝きを増し、静寂を抱いた闇をかき消し——
うっ、っくぅぅぅ、うあぁぁぁああああああッッッ!!
背中を引き裂くような激しい痛みに、僕は体をくの字に曲げて、吐き出すように叫びを上げる。
背の翼は天へと毟り取られ、皮膚も千切れて骨は軋み割れ、腱が弾けて不気味な旋律が体内に響く。
くっ、うぅ……はぁはぁ……
背から血を滴らせながら抜けた翼は天へと還り、翼と僕とを幾重もの赤い鎖が繋ぐ。
そして翼は、いつの間にか現れた闇を湛える巨大な門の中へと呑み込まれていく。
門と鎖で繋がった僕の意識は、閉じゆく扉とともにゆっくりと消えていき——
………………………………。
……………………。
…………。
門が完全に閉じる瞬間、僕は三人の声を聞いたような気がした。