これは今から半年前の出来事。
俺は勇者としての使命を与えられた。
勇者よ
かの魔族の王の脅威を退け、民に安らぎを与えよ
貴殿に国の望みを託すぞ
はっ!
私ピードは勇者として必ずや魔族の王を退治して参ります!
これは今から半年前の出来事。
俺は勇者としての使命を与えられた。
魔族の王とは魔族によって統治されている
「ワロカリナン魔王国」の統治者を指す。
人間と魔族はかつて共存しようと歩み寄ったことはあった。
しかし、決して互いに互いの考えるやっちゃいけないことをしてしまったためにその仲は非常に険悪になってしまったのだ。
ひとまず争いだけは無くそうと共存の道を放棄し、
それぞれ独立して不干渉の条約を結んだのは大昔のこと。
ところが近年になって条約を破り、魔族による嫌がらせが頻発するようになってきた。
何度も使いは出したものの道中でひどいいたずらを受け、泣きながら帰還するものが後を絶たなかった。
そこで勇者が必要になったのである。
勇者よ頼んだぞ。
はい!
うむ。良い返事じゃ。
では次に勇者の旅に同行する者を紹介する。
入って参れ。
王がそう言うと、奥の部屋から人が3人出てくる。
それぞれが初対面の者たち同士のようだ。
勇者に自己紹介をするといい。
王は笑顔でそう3人に呼びかけた。
すると中の1人はすぐに進み出る。
俺の役職は戦士。
名前はグレースだ!
よろしくな!
快活な挨拶だ。
はたから見てもわかるほどやる気に満ち溢れていて
非常に頼り甲斐のありそうな女性だと思った。
コットレルよ
まだ修行中の身だけどよろしく
続いて挨拶をしたのがコットレル。
僧侶の修行中だそうだ。
気が強そうで、いざという時に頼りになるだろう。
竜騎士のワイブルだ
力になろう
最後に名乗ったのは実力派と名高い竜騎士。
彼の醸し出す雰囲気は明らかに異質のもので、
頼り甲斐がありそうだと判断するのに時間はいらなかった。
えっと、みんなよろしく。
そして俺の計4人。
これから先、この四人ならどんな困難だって乗り越えられるような気がする。
この時はそんな高揚感が僕らを包んでいた。
けれど、現実はずっと厳しいものだった。
ワイブル!
おいワイブルしっかりしろ!
すまぬ皆......
やはり人間の食べ物はダメだったようだ......
俺の命もここまでかもな......
人間の食べ物って......
あなた人間じゃなかったの!?
騙していてすまない......
私は実はドラゴンだったのだ......
なるほどな......
どうりで違和感があったわけだ。
気づいていたのかグレース!
ワイブルがドラゴンだってことに!
気づいていたってほどじゃないけどな。
なんとなくそんな気がしていたんだ。
ふふ......
貴殿は察しがいいからな......
気付かれているのではないかといつもヒヤヒヤしていたよ......
そんな......ワイブル......
お別れなんて嫌......
人は......いつか別れがくるものだ......
今がその時だって変ではないさ.....
ワイブル......お前はドラゴンじゃんかよ!
別れはこんな早くなくたっていいんじゃないのかよ!
はは...それもそうだな.......
でもわかるんだ。
俺はここまでだ。
くっ......
お前が先に死んだら俺は一生お前に認められないじゃねぇか!
お前は筋がいい......
いつか私を超えるだろう......
もう私の教えは必要ないさ......
うぅ......
ワイブル......
コットレル......
貴殿は本当は優しいのを私は知っている。
そのままみんなを癒し続けてやってくれ......
そんな......
ワイブル......
やめろよ......
勇者どの。いや、ピード。
貴殿は私にとって最後の友だった。
私はそのことを誇りに思うよ。
......ああ、どうやら本当にここまでみたいだ
みんな......今までありがとう......
悪くない最期だっ......たな......
ワイブルーーーーーーー!!!!!
こうして仲間は一人いなくなった。
このことでみんな心に傷を負った。
これが俺たちの最初の挫折だ。