おーいピード
魚とってきたぞ

お疲れグレース
コットレルも待ってるよ

わっ、結構捕まえてきたね

2ヶ月もやってんだ
もうお手の物さ

さすがグレースだ
筋がいいね


......っ

なんだ?どうしたんだよ?

......いや、なんでもない

......

別に俺はなんとも思ってないぜ

俺の筋がいいのなんて当たり前だろ
誰に言われようがなんとも思わねえよ

......グレース...

 仲間の死から2ヶ月、俺たちは冒険をやめてしまった。

 今は平和な町でのんびり暮らしている。
 町の人々はよそ者の俺たちを受け入れてくれており、非常に居心地がいい。

この暮らしも悪くないかな

と思い始めるくらいには充実していた。

 もちろん焦燥にかられることもある。
 国王の前で誓った言葉。
 みんなの期待。
 思い出すたびに罪悪感が脳裏をよぎる。

......でも仲間が死ぬのは嫌なんだ

 そう思うほどに俺たちは現実に疲弊してしまった。
 志を同じくした仲間の死。
 たとえ共に過ごす時間は短くとも、いや、時間なんか関係ない。別れは、寂しい。

......少し顔を洗ってくるよ

 考えていることを悟られたくなかったのと、その空気に耐えかねたので逃げるようにその場を去った。
 グレースは何も言ってこなかった。

グレースもグレースで思うことがあるんだろうな......

きっと、コットレルも......

 とにかく、俺たちに今必要なのは時間だった。

 傷を塞げるだけの時間だ。

でも......

2か月経っても傷は癒えない......

いつになったら、治るんだろう......

......ふぅ

顔を洗ったら少し落ち着いたかな

 

 街の離れにある湖。
 水は比較的綺麗で、付近のモンスターに気をつけさえすれば便利な場所である。
 

この辺は人もあまりこないし、ゆっくりできるんだよな

 街には河川が引かれており、わざわざ危険を冒してまでこのようなところに来るものはいない。

 しかし、今日はどうやら少し様子が違うようだ。

ん......?
足音が聞こえる......?

 モンスターのものではない確信はあった。
 というのもこの序盤で人型のモンスターはおらず、足音というよりは地を這う音のものがほとんどである。

誰かいるのか......?

あ、はい
ここにいます

やっぱり人だ
珍しいな

 そう思っているうちにその人物は茂みから姿を現した。

おや
君が声の正体か

 出てきたのは一人の老人だった。

はい
そうです

おじいさんが一人で歩いて危険じゃないのかな

おまえさんのような若いものが一人で歩いて危険ではないのか?

 どうやら似たようなことを考えていたらしい。

ああ.....はい
これでも一応、勇者なんで

ふむ......勇者か

その勇者はなぜ、ここにいのだ?

えっ......と

............

何か事情がありそうだな
儂でよければ聞いてやろうか

あ、いえ......

無理に、というわけでもない
儂が聞いたところでできることも少ない

ただ......
一人で思い悩むくらいだったら話した方が楽だろうと思ってな

......

実は......

 結局俺は話すことにした。
 傷が治るだろうとは思わなかったが、それでも少しは楽になる気がしていたからだ。
 それとこの老人、どこか不思議な感じがする。
 この老人だったら何か解決してくれるのではないかという淡い期待もあった。

ふむ......

貴様は、馬鹿か

 話を聞いた老人は開口一番にそう言った。

なっ......

ど、どういうことですか!

 いきなりの辛辣な物言いに思わずカッとなってしまう。
 確かに自分でも思う部分はあった。
 でも、だからってあんまりだ。

仲間が一人死んだだけで己が使命を捨てるか

笑止!
そうような弱輩な思考などただの甘えに過ぎんわ!

な、なんだと......!

言っていいことと悪いことがあるぞ!

軟弱者にそれと言って何が悪いか!

貴様!!!

..................ほう

剣を抜くか
儂に向かって

自分でも思うところがあるのは確かだ

だが仲間ともに侮辱するのは許さないぞ!

ほう
一丁前にプライドだけはあるようだな

だが何遍でも言ってやる!
貴様らはこの上ない阿呆どもだ!

言ったなああぁぁぁぁ!!!!!

 俺は切り掛かった。
 相手は老人だ。
 殺すつもりなんて最初からない。
 もちろん傷つけることすらも。

......えっ?

 だが、俺の意に反して剣は老人に届いてしまった。
 一瞬パニックになる。
 一般の人間をも殺してしまうなんて、最低にもほどがあるだろう。

 しかし、強烈な違和感があった。
 剣は、確かに届いている。
 だけど相手は倒れていないし、

この程度か

 いたはずの老人は老人ではなくなっていた。

な......えっ......?

貴様、さては殺す気ではなかったな

っ!

 見抜かれていた。
 しかし、いくらそうでなかったとしても刃が当たったのだ。
 傷くらいはあってもいいだろうに、この相手にはそれすらなかった。

やはりか......

だから貴様は軟弱だというのだ

少し教育してやろう

 そう言って相手は構えた。
 その気迫に空気が震えるようだ。

な......な......

受け取れ
これが儂の説教じゃ

 そう言って相手は消えた。
 目では追えなかった。
 耳でも聞こえなかった。
 相手が何をしてきたのか、全くわからない。

............

 わからないまま、気がついたら仰向けになっていた。

貴様らの愚かなところを教えてやろうか

......はい

仲間の死が悲しいのはわかる

しかしな、世の中は弱肉強食だ
生き残る者があれば死にゆく者もある

生き残った者のすることはそれらの死を無駄にしないことではないのか?

......!

このままでは死んだ貴様の仲間も浮かばれないだろうよ

うう......

貴様が今回儂に負けたのはその死に向き合わず研鑽を怠ったからだ

一分一秒でも努力をし、故人へのはなむけとせよ

............

 その人の言うことは深く心に刺さった。
 そして、暗くどんよりしていた未来のビジョンと自分の心持ちに光が差した気がした。

それではな

 そう言ってその人は去ろうとする。
 俺は思わず、待ってくださいと引き止めていた。

あの...ありがとうございました

 なぜかその時目の前が霞んでいた。
 声も震えていた。
 大粒のそれを隠すこともないままに話を続ける。

俺......間違ってたみたいです
これから頑張ります

 不恰好だけど、声を絞り出した。
 ぼんやりだけど、その人はうなずいたように見えた。
 震える声を引き絞り、さらに言葉を続ける。

だから...だから、

 おこがましいとは思うけど、分不相応な願いだとは思うけど、このチャンスを逃す気はさらさらなかった。
 仰向けの情けない格好のままで俺は叫ぶ。

あなたの弟子にしてください!

 ある晴れた日の昼下がり。
 魔法のような不思議な技を使う老人に、
 僕は弟子を志願した。

僕は勇者。これが僕の転機

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