ミユキ

うーむ

リサ

どしたの

ミユキ

今日はね、すごく真面目な雰囲気が漂っている

リサ

何それ

ミユキ

シリアスなアトモスフィアが漂っている

リサ

横文字に直せとは言っていない

ミユキ

たぶんブラタモリでタモさんとかが来店するんだよ

リサ

真面目な空気で来る人じゃないね

ミユキ

ほら、感じない?

 ミユキがきょろきょろと辺りを見回して、目を閉じ、耳に手をあてた。
 耳を澄ませろということだろうか……。
 リサもやってみた。
 有線放送と冷蔵庫の稼動音が聞こえるが、特にいつもと違いはないようだ。

リサ

わからん

ミユキ

もっと本気出して!

リサ

そう言われてもなあ

ミユキ

すると聞こえてくる。ぶっかけぶっかけぶっかけうどん……

リサ

金ちゃんじゃない!

 実にローカルなネタである。

リサ

となると、どこかにぶっかけおじさんが?

ミユキ

らっしゃーせー!

リサ

いらっしゃいませ!

ゴットフリート

こんにちは

ミユキ

ぶっかけおじさんだ!

リサ

いや、絶対違うから!

 というか……。

リサ

冷静に考えたら、ここって食品衛生法はどうなってんの?

ミユキ

やだなあ。喋る熊が常連な時点で、そういうの問題ないから

リサ

それもそうね

ゴットフリート

では、喋る狼もラインナップに加えていただきましょうか

ミユキ

はじめましてですねー

ゴットフリート

はじめまして。ドイツから来ました、ゴットフリートです

リサ

すごいグローバルで、かっこいい名前!

ミユキ

ゴットフリートといえば、ライプニッツだよね

ゴットフリート

よくご存知で

ミユキ

ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ。数学好きは避けて通れないよ

リサ

ヴィルヘルム……そうか、あの熊さんもヴィルヘルムだった。ドイツと縁があるのかなあ

ゴットフリート

おや、ヴィルヘルムを知っておいでですか

リサ

知り合い?

ゴットフリート

はい。父が彼に食われました

リサ

重い話だ!

ゴットフリート

キャラ的な意味で

リサ

軽い話だった!

ミユキ

性的じゃないからセーフセーフ

リサ

ドイツで狼っていうと、別のを思い出すのよね

ミユキ

別の?

リサ

ナチスの群狼作戦

ミユキ

危険なネタはアウトアウト!

ゴットフリート

ところで

 ゴットフリートは淡々と話を引き戻した。

ゴットフリート

ビールはありますか

リサ

ごめんなさい。お酒は置いてないんです

ミユキ

酒屋さんに全部任せちゃってて

ゴットフリート

なるほど

リサ

ふと思ったんですけど、どうやって缶ビール開けるんですか……?

ゴットフリート

そりゃあ、牙で

ミユキ

コーラでやってもらおう

ゴットフリート

ふむ、いいでしょう

 コーラの350ml缶。
 果たして、狼はどうやって開けるのか?

ミユキ

普通だ……

リサ

普通だね……

 なんの苦もなく、爪でプルタブを操作し、お座りして飲み始めた。
 まるで肉球が吸盤代わりになっているかのようである。

リサ

手を使えるのが人間の長所とは何だったのか

ゴットフリート

そもそも、ヴィルヘルムが箸を使っていることに疑問を持っては?

ミユキ

リサ

 確かに、とミユキとリサは納得し合った。
 ヴィルヘルム熊の好物はチキン南蛮弁当で、これまた上品に箸を使って食べている。
 鼻面にタルタルソースが付着したら、ちゃんとウェットティッシュで拭く。
 もちろん、ノンアルコールだから粘膜を痛めることもない。

ミユキ

まあ、テトリスブロックが焼き鳥食べてる時点で

リサ

疑問に思うこと自体がおかしかったということで

 テトリスブロックがどうやって焼き鳥の串を持つのか?
 不思議に思われるかもしれないが、ハンドパワーを使う。
 どうやら念力じみた何かが出ているらしく、串が浮くのだ。
 それで、どこで食べるんだ?
 口はないのだが、ブロックにつけると、ちゃんと鶏肉がなくなっている。
 一方、串は残っている。
 どうやら食べるという概念を実行することで、栄養を補給しているらしかった。

ミユキ

なんで今さら疑問に思ったんだろう

ゴットフリート

ああ、たぶん私のせいですよ

ミユキ

ゴッフリさんのせい?

リサ

ひどい略し方を見た

ゴットフリート

ゴーフルみたいですね

ミユキ

こっくりさんっぽくもある

ゴットフリート

リサ

はい

ゴットフリート

私は、実は神の使いをやってまして

リサ

おお、ヨーロッパの土着神話っぽくなってきた

ゴットフリート

絶えず真面目かつ常識的になる波動が放たれているのです

ミユキ

ええっ、私がこれ以上、真面目かつ常識的に!

リサ

その効果があってなお喋る狼の存在は認めてるからなあ

ゴットフリート

そうですね。皆さん、非常識なんです

ミユキ

みのもんた以上にズバッと言った!

リサ

さすがに朝ズバはもう古い

ミユキ

ズバッと参上、ズバッと解決!

ゴットフリート

といったところでですね

ミユキ

快傑ズバットがスルーされたぁ!

ゴットフリート

ヴィルヘルムの家がどこにあるか、ご存知でしたら教えて欲しいのですが

リサ

いいですよ

 リサは教え、ゴットフリートは難なくそれを覚えた。
 彼は丁重に礼を言い、改めてのど飴を購入してから、店を後にした……。

ミユキ

どういうことなのっ!

リサ

何が

ミユキ

これじゃあ、こち亀にゲスト出演しておきながら、完全に常識人枠のままで終わるようなもんじゃない! ハンマープライスで落札した人を見習おうよ! 沖永良部島編の家族とかとは違うんだからさぁ!

リサ

腹を立てる対象がイミフだけど、とにかく壮絶なストレスを感じていることは理解した

ミユキ

私としたことが、お客さんのペースに乗せられるなんてぇ

リサ

いや、うーん、そういう趣旨じゃないからね、売店部って

ミユキ

こんなの絶対おかしいよ!

リサ

もしかしてあの人、もといあの狼、キュゥべえ枠だったの……?

ミユキ

店名をコンビニ☆マギカにしてあらゆる商品のバトルロワイアルを

リサ

そこはミユキ☆マギカじゃないのか

ミユキ

私は傍観者で楽しませてもらう!

リサ

言いたいことはただひとつ。虚航船団でやれ

ミユキ

あ、本のコーナーに筒井康隆先生のを揃えようかな

リサ

農協月へ行くが入ってる本は置かないようにしようね。農協が強いんだから、うちは

 マジメ時空が去り、いつもの調子が戻ってきた。
 お客様は神様ですとは言うものの、やはり神性を持った相手には、女子高生では分が悪いらしい。
 ただ、真面目になる波動を浴びた反動か、その後のミユキは閉店まで喋りっぱなし。
 うかつにも通りかかった他の常連客が、マシンガントークの犠牲になったのは……また別の話である。

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