それから一週間経ち、あっという間に試験日がやってきた
それから一週間経ち、あっという間に試験日がやってきた
大丈夫?
忘れ物ない? 受験票は? 筆記用具は? やる気は? 元気は?
全部あるっ、大丈夫だ
結局、規定まで教えることになっちゃって、大変だったよ
スタートラインが同じだったのに、やっぱりスタイアって頭いいよなあ
ライカのためだから……
嬉しいこと言ってくれるなあ
さすが幼馴染
……はい、じゃあ頑張ってね
筆記試験が通れば実技試験だけど、規定と勇敢心があるからなんとかなるはずだ
もしもがあっても次に活かせばいい
大丈夫、絶対に受かるよ
もちろん、落ちてたまるかってんだ
じゃ、いってきます
いってらっしゃい
よーし、迷わずに着いたぞ試験会場
まあ伊達に一人で旅してきたわけじゃないからな
えっと、確かスタイアが言うには、受験番号と一致した数字のある机に座れって……あった50番、一番前の端っこ試験監督の目の前
って、オレが最後の番号なのか
ふぇー、五十人だけかー
そろそろ試験開始時間です
机に着いてお待ちください
ん? あれはシトリ?
はーい席に着いてくださいねー
って、ん? ライカ?
やっぱそうだ、シトリだ
騎士のあんたがなんでこんな所に?
私はちょっとお小遣い稼ぎで……って、それは私のセリフだ
どうした、なんで審判資格試験を受けに来てる
魔王討伐は?
ああ、それなら色々あって止めた
今は勇者じゃなく、資格を狙う資格猟師だ
何言ってるのかさっぱりだ
というか、どうして2級の受験資格を持ってるんだ
3級持っていたのか?
おいおい試験監督とあろう者がそんなことも知らないのか?
勇者の資格を持つものは、特例で2級から受けられるんだぞ
ぐっ……
まあいい
せいぜい頑張ることだな
騎士さまのご加護でこりゃ受かりますな
加護などやるか
試験は平等だ。ではな
いや、そういうイカサマ的な話ではなくてだな……
そうしていると試験時間がすぐそこに迫り、解答用紙が配られる
不正がないよう、一枚ずつ試験監督が配り、時間まで裏返しにしたままにし、問題が見えないようにしなければならない
うむ、では始め!
一気に紙が裏返される音が、試験会場に響く
そうしてかりかりと筆記の音だけがするようになる
おっ、これは……一番いいのに当たったぞ
なんで人体の構造なんて勉強しなくちゃいけないんだって思ってるでしょ?
いい? そういう風に思っていると、頭には入らないの
じゃあどうすれば?
自分なりに理由を作るの。別にそれが当たっているものじゃなくてもいいから、理由を
例えば、人体の構造は審判をするうえで、ケガの判断をするために必要だとか
ほら、試合続行可能なケガなのか、そうでないのかとか
なるほど、確かにあり得そうな話だ
もう一度言うけど、当たっているかはどうでもいいの
自分なりに学ぶ理由を持てれば、ないときよりも頭に入ってくる感覚が違うよ
頭が必要だって判断するように、暗示をかけるように
そうすれば大丈夫
ライカはやれるよ、勇者、いや、資格猟師なんだから
資格猟師っていう名前はちょっとカッコ悪いけどね
うるさいなあ
でも、それならやれそうだ
今のオレはスタイアのおかげで人体構造のほうが回答率がいい
そしてこの試験、例年より人体構造の問題が多い
眼窩(がんか)、胸郭(きょうかく)、鎖骨骨折は鎖骨の内包(ないほう)1/3と外方(がいほう)1/3で起こりやすい、上腕骨骨折は並走する橈骨(とうこつ)神経を損傷する危険が極めて高い、アキレス腱反射……
いける、いけるぞ!
しかし魔法の研究のためとはいえ、自分たちの身体のことをここまで恐れず調べるなんて、すごい人たちだ
ケガとか病気を魔法で治すにも、どうなっているかを詳しく知る必要があるってスタイアは言ってたけど
はい、そこまで
解答止め
できたー!
できたぞスタイアー!
お前のおかげだー!
ふっ、どうだ?
できたか?
ああ、問題ない
見直しもした、バッチリだ
ま、まさか……
やればできるから、勇者なのだ
もしこれが通ったのならば、次の実技は余裕だろうが……
ほう、余裕かい?
そんなバカなこと、起こるわけがない
勉強などからっきしのお前に
さっさと持っていって、異法で採点してくださいよシトリさん
くうぅぅっ……
約三十分後……
筆記試験合格者を発表する
よく聞くように
合格者はこの場に残り、そうでないものは退出するようお願いします
1番、6番、15番、23番――
シトリが読み上げていく
――45番……
…………
……50番、以上
いやったあっ!
きーさーまー
バッチリだっただろ?
異法(いほう)でも使ったのかぁぁぁぁぁ?
何言ってんだよ
不正防止用に異法妨害の異法を掛けてあるって言ったのはシトリじゃんか
それに、オレが使える異法なんて、空気を圧縮してビンに入れて持ち運ぶくらいのやつだ
美味しい空気運搬法
勇敢心(ゆうかんしん)、勇敢心だなぁぁぁぁぁ?
それで身体能力をあげて、覗いたなぁぁぁぁぁぁ?
しつこいなあ
オレの席は一番前の端っこ、あんたの目の前じゃないか
試験中、なんか変な動きしてたか?
うっ、してない……
そういうこった
万が一不正をしていたとしても、それはあんたの監督不行き届きなんじゃないの?
してないけどな、
実力だけどなぁぁぁぁぁぁっ
そんなバカな、ありえん、ありえんぞこれは……
あ、いや、騎士さまのご加護のおかげでもあるねえぇぇぇぇぇぇぇっ
きぃぃぃぃぃぃぃ、こいつぅっ
おふざけはここまでだ
お小遣いのために仕事をしてくださいよ
実技でしょ?
地団駄を踏む彼女に、他の受験者たちの視線が集中していた
彼女は顔を赤くし、咳払いする
ごほん、そうだな……
では、実技試験に移ります
こちらへどうぞ
いやぁっ!
なんのっ!
闘技場での格闘は、本物の武器を使った殺し合いではない
昔はそういうルールも存在したけれど、すでに禁止にされている
剣だけではなく、斧、ハンマーなど、そういう武器の殺傷能力を抑えた模造品が使用される、ルール有りの競技と言えるものだ
このっ!
そこまでっ!
そちらの人、1ポイント
わずかな入り方だ
続行できますか?
ああ、よくもこんなちょっとのものを見破れたね
テスト用に厳しくしてるんだけどな
さすが勇者さまだ
動体視力には自信ありますからね
次戦、始めっ!
という具合に進め、有効打撃を3ポイント先取できれば勝利
ルールによるけれど、基本的に制限時間はない
はい、これで全員分の実技試験終了です
結果発表まで、この場で少々お待ちください
あ、楽にしてくださって結構です
はい、合格者を発表します
合格者は……1番、15番、23番――
――50番
いよっしゃぁっ!
免許証の発行はすでに行っていますので、お受け取りください
有効は明日からで、失効しないために定期的な更新をお願いします
はい、50番、ライカ・アベインさん
ありがとうございます
おっ、中に免許証がある、しっかり国内2級審判員のオレの名前まで……!
初めての資格かー
なんか、じいんとするなあ……
何を言っている
初めてではないだろう、勇者資格保有者ではないか
勇者資格は勇敢心の素質があるってだけで貰えたし、自力って感じじゃなかったから
そうか、まあとにかく……
おめでとうとは言っておく
しっかりと取得するために努力したのだな
当然だ
なんてったって、資格猟師だからな
まあ、息抜きはこれまでで、魔王討伐の旅に再び出るのだろう?
貴様、単独行などと呼ばれているが、魔王を討つのに一人ではきついだろう
ちょうどしばらく手が空いている、私も――
いや、行かないぞ
は?
言ったじゃないか
魔王討つの止めたって、オレ、勇者辞めたの
だからこうやって資格猟師になって、誰かが魔王を討ったあとの生活をしっかりとさせようとしてるんだ
ちょっと待てどういうことだ?
言ったままだって
じゃ、今日はありがとうございました
騎士の仕事も頑張れよー
待て、ライカ!
待てぇーっ!
ただいまー
スタイア、オレやったぞー!
資格、討ち取ったぞー!
おかえり
資格を討ち取るって……もう
おめでと
これでまずは一つだ
記念すべき一つ目、「闘技場国内2級審判員」
ふふん、まああたしのおかげでもあるね
ああ、スタイアのおかげだよ
一人じゃどうにもならなかった
早速これでちょっと仕事して、給料もらって美味しいもん食べに行こう!
次も何か取るの?
ああ、オレは資格猟師!
ただひたすらに資格を狙う存在だ!
仕方ないわね、これからも手伝ってあげる
知識が増えるの、嫌いじゃないし
ああ、これからもよろしくな!
…………うん
さあ、次は何にすっかなぁーっ!
勇者兼資格猟師、単独行ライカ
「闘技場国内2級審判員」資格取得……成功!
次の資格へと続く