それから一週間経ち、あっという間に試験日がやってきた

スタイア

大丈夫?
忘れ物ない? 受験票は? 筆記用具は? やる気は? 元気は?

ライカ

全部あるっ、大丈夫だ

スタイア

結局、規定まで教えることになっちゃって、大変だったよ

ライカ

スタートラインが同じだったのに、やっぱりスタイアって頭いいよなあ

スタイア

ライカのためだから……

ライカ

嬉しいこと言ってくれるなあ
さすが幼馴染

スタイア

……はい、じゃあ頑張ってね

ライカ

筆記試験が通れば実技試験だけど、規定と勇敢心があるからなんとかなるはずだ
もしもがあっても次に活かせばいい

スタイア

大丈夫、絶対に受かるよ

ライカ

もちろん、落ちてたまるかってんだ

ライカ

じゃ、いってきます

スタイア

いってらっしゃい

ライカ

よーし、迷わずに着いたぞ試験会場
まあ伊達に一人で旅してきたわけじゃないからな

ライカ

えっと、確かスタイアが言うには、受験番号と一致した数字のある机に座れって……あった50番、一番前の端っこ試験監督の目の前
って、オレが最後の番号なのか
ふぇー、五十人だけかー

シトリ

そろそろ試験開始時間です
机に着いてお待ちください

ライカ

ん? あれはシトリ?

シトリ

はーい席に着いてくださいねー
って、ん? ライカ?

ライカ

やっぱそうだ、シトリだ
騎士のあんたがなんでこんな所に?

シトリ

私はちょっとお小遣い稼ぎで……って、それは私のセリフだ
どうした、なんで審判資格試験を受けに来てる
魔王討伐は?

ライカ

ああ、それなら色々あって止めた
今は勇者じゃなく、資格を狙う資格猟師だ

シトリ

何言ってるのかさっぱりだ

シトリ

というか、どうして2級の受験資格を持ってるんだ
3級持っていたのか?

ライカ

おいおい試験監督とあろう者がそんなことも知らないのか?
勇者の資格を持つものは、特例で2級から受けられるんだぞ

シトリ

ぐっ……
まあいい
せいぜい頑張ることだな

ライカ

騎士さまのご加護でこりゃ受かりますな

シトリ

加護などやるか
試験は平等だ。ではな

ライカ

いや、そういうイカサマ的な話ではなくてだな……

そうしていると試験時間がすぐそこに迫り、解答用紙が配られる
不正がないよう、一枚ずつ試験監督が配り、時間まで裏返しにしたままにし、問題が見えないようにしなければならない

シトリ

うむ、では始め!

一気に紙が裏返される音が、試験会場に響く
そうしてかりかりと筆記の音だけがするようになる

ライカ

おっ、これは……一番いいのに当たったぞ

スタイア

なんで人体の構造なんて勉強しなくちゃいけないんだって思ってるでしょ?
いい? そういう風に思っていると、頭には入らないの

ライカ

じゃあどうすれば?

スタイア

自分なりに理由を作るの。別にそれが当たっているものじゃなくてもいいから、理由を
例えば、人体の構造は審判をするうえで、ケガの判断をするために必要だとか
ほら、試合続行可能なケガなのか、そうでないのかとか

ライカ

なるほど、確かにあり得そうな話だ

スタイア

もう一度言うけど、当たっているかはどうでもいいの
自分なりに学ぶ理由を持てれば、ないときよりも頭に入ってくる感覚が違うよ
頭が必要だって判断するように、暗示をかけるように

スタイア

そうすれば大丈夫
ライカはやれるよ、勇者、いや、資格猟師なんだから

スタイア

資格猟師っていう名前はちょっとカッコ悪いけどね

ライカ

うるさいなあ
でも、それならやれそうだ

ライカ

今のオレはスタイアのおかげで人体構造のほうが回答率がいい
そしてこの試験、例年より人体構造の問題が多い

ライカ

眼窩(がんか)、胸郭(きょうかく)、鎖骨骨折は鎖骨の内包(ないほう)1/3と外方(がいほう)1/3で起こりやすい、上腕骨骨折は並走する橈骨(とうこつ)神経を損傷する危険が極めて高い、アキレス腱反射……
いける、いけるぞ!

ライカ

しかし魔法の研究のためとはいえ、自分たちの身体のことをここまで恐れず調べるなんて、すごい人たちだ
ケガとか病気を魔法で治すにも、どうなっているかを詳しく知る必要があるってスタイアは言ってたけど

シトリ

はい、そこまで
解答止め

ライカ

できたー!
できたぞスタイアー!
お前のおかげだー!

シトリ

ふっ、どうだ?
できたか?

ライカ

ああ、問題ない
見直しもした、バッチリだ

シトリ

ま、まさか……

ライカ

やればできるから、勇者なのだ

シトリ

もしこれが通ったのならば、次の実技は余裕だろうが……

ライカ

ほう、余裕かい?

シトリ

そんなバカなこと、起こるわけがない
勉強などからっきしのお前に

ライカ

さっさと持っていって、異法で採点してくださいよシトリさん

シトリ

くうぅぅっ……

約三十分後……

シトリ

筆記試験合格者を発表する
よく聞くように
合格者はこの場に残り、そうでないものは退出するようお願いします

シトリ

1番、6番、15番、23番――

シトリが読み上げていく

シトリ

――45番……

ライカ

…………

シトリ

……50番、以上

ライカ

いやったあっ!

シトリ

きーさーまー

ライカ

バッチリだっただろ?

シトリ

異法(いほう)でも使ったのかぁぁぁぁぁ?

ライカ

何言ってんだよ
不正防止用に異法妨害の異法を掛けてあるって言ったのはシトリじゃんか
それに、オレが使える異法なんて、空気を圧縮してビンに入れて持ち運ぶくらいのやつだ
美味しい空気運搬法

シトリ

勇敢心(ゆうかんしん)、勇敢心だなぁぁぁぁぁ?
それで身体能力をあげて、覗いたなぁぁぁぁぁぁ?

ライカ

しつこいなあ
オレの席は一番前の端っこ、あんたの目の前じゃないか
試験中、なんか変な動きしてたか?

シトリ

うっ、してない……

ライカ

そういうこった
万が一不正をしていたとしても、それはあんたの監督不行き届きなんじゃないの?
してないけどな、

ライカ

実力だけどなぁぁぁぁぁぁっ

シトリ

そんなバカな、ありえん、ありえんぞこれは……

ライカ

あ、いや、騎士さまのご加護のおかげでもあるねえぇぇぇぇぇぇぇっ

シトリ

きぃぃぃぃぃぃぃ、こいつぅっ

ライカ

おふざけはここまでだ
お小遣いのために仕事をしてくださいよ
実技でしょ?

地団駄を踏む彼女に、他の受験者たちの視線が集中していた
彼女は顔を赤くし、咳払いする

シトリ

ごほん、そうだな……

シトリ

では、実技試験に移ります
こちらへどうぞ

いやぁっ!

なんのっ!

闘技場での格闘は、本物の武器を使った殺し合いではない
昔はそういうルールも存在したけれど、すでに禁止にされている
剣だけではなく、斧、ハンマーなど、そういう武器の殺傷能力を抑えた模造品が使用される、ルール有りの競技と言えるものだ

このっ!

ライカ

そこまでっ!

ライカ

そちらの人、1ポイント

ライカ

わずかな入り方だ
続行できますか?

ああ、よくもこんなちょっとのものを見破れたね

テスト用に厳しくしてるんだけどな
さすが勇者さまだ

ライカ

動体視力には自信ありますからね

ライカ

次戦、始めっ!

という具合に進め、有効打撃を3ポイント先取できれば勝利
ルールによるけれど、基本的に制限時間はない

シトリ

はい、これで全員分の実技試験終了です
結果発表まで、この場で少々お待ちください
あ、楽にしてくださって結構です

シトリ

はい、合格者を発表します
合格者は……1番、15番、23番――

シトリ

――50番

ライカ

いよっしゃぁっ!

シトリ

免許証の発行はすでに行っていますので、お受け取りください
有効は明日からで、失効しないために定期的な更新をお願いします

シトリ

はい、50番、ライカ・アベインさん

ライカ

ありがとうございます
おっ、中に免許証がある、しっかり国内2級審判員のオレの名前まで……!

ライカ

初めての資格かー
なんか、じいんとするなあ……

シトリ

何を言っている
初めてではないだろう、勇者資格保有者ではないか

ライカ

勇者資格は勇敢心の素質があるってだけで貰えたし、自力って感じじゃなかったから

シトリ

そうか、まあとにかく……

シトリ

おめでとうとは言っておく
しっかりと取得するために努力したのだな

ライカ

当然だ
なんてったって、資格猟師だからな

シトリ

まあ、息抜きはこれまでで、魔王討伐の旅に再び出るのだろう?

シトリ

貴様、単独行などと呼ばれているが、魔王を討つのに一人ではきついだろう
ちょうどしばらく手が空いている、私も――

ライカ

いや、行かないぞ

シトリ

は?

ライカ

言ったじゃないか
魔王討つの止めたって、オレ、勇者辞めたの
だからこうやって資格猟師になって、誰かが魔王を討ったあとの生活をしっかりとさせようとしてるんだ

シトリ

ちょっと待てどういうことだ?

ライカ

言ったままだって
じゃ、今日はありがとうございました
騎士の仕事も頑張れよー

シトリ

待て、ライカ!
待てぇーっ!

ライカ

ただいまー
スタイア、オレやったぞー!
資格、討ち取ったぞー!

スタイア

おかえり
資格を討ち取るって……もう
おめでと

ライカ

これでまずは一つだ
記念すべき一つ目、「闘技場国内2級審判員」

スタイア

ふふん、まああたしのおかげでもあるね

ライカ

ああ、スタイアのおかげだよ
一人じゃどうにもならなかった
早速これでちょっと仕事して、給料もらって美味しいもん食べに行こう!

スタイア

次も何か取るの?

ライカ

ああ、オレは資格猟師!
ただひたすらに資格を狙う存在だ!

スタイア

仕方ないわね、これからも手伝ってあげる
知識が増えるの、嫌いじゃないし

ライカ

ああ、これからもよろしくな!

スタイア

…………うん

ライカ

さあ、次は何にすっかなぁーっ!

勇者兼資格猟師、単独行ライカ
「闘技場国内2級審判員」資格取得……成功!

                次の資格へと続く

3 勇者、「闘技場国内2級審判員」の試験を受ける

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