Ⅵ ある手記②

ここまで読んだあなたは、疑問に思うことだろう。
なぜ、完全犯罪に見えた事件の真相をここでつまびらかにしてしまうのかと。

実はあれから、不可解なことが私の周囲で起こるようになったのだ。
壁の中から物音がする。
深夜、窓の外に大きな黒い影が横切るのを見る。
雨でもないのに、廊下に不可解な水溜りが頻繁に出来る。

すべて、人間の仕業ではないだろう。

極めつけは、深夜こうして机に向かっているときに聞こえる気配だ。
ひたひたと忍び寄る、人のものでは決してない、湿った獣の気配――。
今、この瞬間も、それを痛いくらいに感じている。

振り返るのが、怖い。

ああ、神よ!私に最後の情けを!どうか助け

部屋で発見された手記は、そこで途切れていた。

いや、もしかしたらもう何文字か書かれていたのかもしれない。
なにしろ、机の周りに満ちたおびただしい血により、濡れた手記の解読は、容易ではなかったのだ。
end.

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