決して整備などされていない荒れ果てた砂地を駆けていく戦闘車。ガタゴトと大きな揺れはあるものの、そのスピードは一切落ちる事は無い。

アクロ

二時間くらい走ったけど、もうそろそろかな

窓の外を見ながらアクロがそんな事を考えていた時、カノンが告げた。
 

カノン

目的地の集落までは後、10分て所だな。しばらくはそこを拠点として魔獣の探索、討伐を行う

ルーク

探索は今日のうちから?

カノン

早いとこ始めたい所だがな、暗い中の探索は効率が良くない。着いたら飯食って就寝。明朝五時から探索を開始しようと……

 カノンが車の右側、何かに気づき言葉を止める。
 運転席後方の席に座っていたセトも、窓の外の同じ方向に目を向ける。
 

セト

あれっすね。隊長。南東の方角、距離は六、七キロ離れてはいるけど、光る両眼が良く見える。あのでかさからするとターゲットですかね

カノン

飯食う時間は無くなったが、どうやら探索の手間は省けたみたいだな。よしっ、各自戦闘準備!

 カノンが声を飛ばし、車は南東の方向、魔獣と思しき気配のある方へ指針を変え、さらに加速する。
 

カノン

本部へ。こちら、魔獣討伐任務にあたっているカノン。拠点予定地『ベラス』手前十五キロほどでターゲットを捕捉。今からターゲットと接触する

 無線で本部へ連絡を入れるカノン。何かあった時のため連絡は細めに入れる事が義務付けられている。
 

カノン

ルーク、『マーカー弾』を準備しとけ

ルーク

はい!

 カノンの指示を受け、ルークはマーカー弾の充填を始める。
 

『マーカー弾』は発信機の役割を持ち、専門の受信機を使う事で、敵の位置情報が明確になる。今回のような魔獣討伐任務の際に、必須となる道具のうちの一つである。
 

 魔獣との距離が近づくにつれ、だんだんとその姿が鮮明になっていく。全身は黒色の毛で覆われ背中の方は逆立っている。四足歩行でギラギラと光る眼が暗い中でも良く分かる。時折見せる口元から、鋭い牙も確認できる

アクロ

戦闘車のライト目掛けて来たんでしょうか?

 既に準備を整えたアクロが尋ねる。
 

カノン

そうだろうな。この辺り他に何かあるって訳でも無いし。食欲のみで動いてる単細胞タイプかと思ったが、敵さん、意外と知脳が高いかもな

 カノンはそう言いながら少し考え込む。
 

カノン

よしっ。射程圏内に入ったらひとまず正面から一発だ。対応を見てみる

ルーク

はい

 マーカー弾の充填を既に終えたルークが短く答える。魔獣討伐の経験は少ないとはいえ、そこはやはり狙撃手としての資質か、とても落ち着き払っている。
 

アクロ

流石だな。落ち着いてる。カノン隊長とルークさんも同じ隊同士信頼関係大きいみたい。私もあんな風になりたい……

アクロは憧れの眼差しでルークとカノンを見つめる。

カノン

さて、もうそろそろだぞ!

 そうカノンが声を上げると、空気が張り詰め、皆の背筋がピンと伸びる。
 魔獣との距離はグングン近づき、いよいよ射程圏内に入った時ルークが窓の外から銃弾を放った。銃弾は一直線に魔獣の方へ向かっていく。しかし、魔獣は顔面に向かってきた銃弾をいとも簡単に前足で弾く。そして何も気にすることなく再び車の方へと向かってくる。
 

カノン

正面からじゃ無理か

 カノンは苦笑し、魔獣との正面衝突を避けるため右に大きくハンドルをきった。
 

カノン

じゃいよいよだな。アクロ!あいつの注意を引いてくれ。行けるか?

アクロ

はい。行けます。行きます!

 そう答えると、アクロは扉を開け、始めに刀を上空へ、次に自分の身体を外に投げ出した。
 

ルーク

えっ!?

セト

おいおい、どうした!?

 ルーク、セトは驚愕の声を上げる。
 外に飛び出したアクロは一瞬で上空へと飛び立つ。服は先ほどと同様隊の戦闘着を纏っているが、その身体は黒色、白い模様を尾まで伸ばした姿は燕そのものであった。。その姿のまま、クチバシで先ほど投げ出した刀を掴まえる。

カノン

ヒューッ! カッコいいねー。燕の剣士デビュー戦だ

 カノンは着けていたゴーグルを上にずらし、その姿をじっと見つめる。
黒い夜空に、刀を携えた一匹の燕が華麗に舞う。その凛とした姿は言葉を無くすほど美しいものであった。

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