勇者ヒロシ(42)の大冒険









ヒロシー、ヒロシー!
これ甘くておいしー!

よかったな


 担当内の面々にばれぬよう、ボソリと呟いて応じる。

 これに相棒はとても嬉しそうに笑って応じた。

うん! よかったー!
すごくよかったー!


 一時はどうなるかと思われたロリータ工業の倒産であったが、ドラゴンのおかげで私の会社での立ち位置は首の皮一枚、ギリギリのところで繋がった。

 それから数日ばかり、未だにコイツは私の周りを飛んでいる。

課長、こちらの書類に印をお願いします

ああ

あれから数日
ようやっと報道が大人しくなりましたね

そうだな


 自席で山田の入れてくれた茶をすする。

けど課長
外のあれはどうにかなりませんかね?

…………


 窓から眺める先、路上にはヤツの姿がある。

 他の誰でもない、ドラゴンだ。

なんだ? なにか文句でもあるのか? 山田ぁ

い、いえっ
とんでもないですよっ、ドラゴンさん

ふんっ、先輩だからと偉そうに


 開かれたままの窓から先、ドラゴンの巨大な瞳がギョロリとこちらを覗く。

 我々人間の胴体ほどの大きさもある巨大な眼球だ。

 窓が開けっ放しの都合、我々の言葉は筒抜けだったりする。

あの、お、俺、失礼しますっ……


 後輩の力強い眼差しに負けて、逃げてゆく山田。

 その背を眺めてはため息を一つ。

ドラゴン君、同じ担当なのだから、
もう少し仲良くできないのか?

黙れ!
貴様の下に付くことは納得した。
だが、あのような雑魚は知らん

…………


 確かに以前からうちの担当は人手不足だった。

 人事にもあれこれと意見は上げていた。

 しかしながら、流石に新人がドラゴンというのはな。

佐竹課長っ!
近隣からドラゴンさんに苦情がっ……

あぁ、すみません。
すぐになんとかすると伝えてください

は、はい


 さて、こいつはどうしたものか。

ヒロシー!
冷蔵庫にアイスみつけたー! おいしー!


 それはこの担当の誰かのだ。

 勝手に食べたらいかん。

おい、私の話を聞いているのか?

…………


 私の勇者生活はまだまだ始まったばかりだ。

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