かつてのそこは、豪奢で、巨大な空間だった。
 数千の魔物たちが傅き、自分たちの王を称賛する場所。謁見の間。
 しかし今、そこは多くの魔物の死体が転がり、床が爆発痕によって抉り取られている。壁に掛かっているタペストリーは火に炙られ、天井のシャンデリアは半数が床に落下していた。
 何故か。

魔王ゼフィリス! 覚悟!!

ふはははははッ!! 勇者に討たれるか、良かろう!! それもまた興なり!!

 この部屋の主と、それを討たんとする侵入者が戦いを繰り広げたからだ。

行け! ここでこの戦いを終わらせるんだ!

平和を手に入れて!

みんなの願いを叶えろ!

 部屋の主に相対し、光を発する剣を振りかざす若い男とその仲間。
 主との戦いでひしゃげた巨大な盾を持つ戦士。宝石の付いた杖を掲げ、勇者と呼ばれた男の力を引き上げる魔道士。銀色に輝く弓で光の矢を放ち、魔王の動きを掣肘する射手。

うおおおおおおおおおおおッ!!

ははははははははははははッ!!

 多くの困難の果て、ようやく世界を混乱に陥れた魔王の首に手が届く。
 若き勇者はただ自分たちの世界を守りたいという一念で、巨大な力に打ち勝とうとしていた。
 彼は世界にとって正しき者だ。
 故に、魔王は討たれる。

ライトニング……ザッパァアアアアアアアッ!!

 剣身から怒濤の如き爆光が放たれ、魔王の身体を飲み込んでいく。
 如何なる刃も魔法も防ぐと言われた魔王の身体は、その光の暴力に抗う術を持たない。
 魔王は快哉を叫び、心の底からの称賛を自分を殺す相手へと送った。

良き、座興であったぞぉッ!!

 それが魔王ゼフィリスの最後の言葉だった。
 退屈な生の終わりに訪れた、唯一心踊るもの。それが己の消滅であったとしても、彼は一点の曇りのない歓喜の中で消え去った。

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