ホームルームが終わり、1時間目の授業が始まるまで10分間の休憩がある。
ホームルームが終わり、1時間目の授業が始まるまで10分間の休憩がある。
教室の窓際、一番後ろの席に座る僕の、前の席に座る海人は、さっそく目を輝かせながら話しかけてきた。
真広!本当に可愛い子が入ってきたぞ!
う、うん。すげー美人だ
僕の席の隣のかっちんも再び会話に加わる。
明知さん、なんというか、すごい目立つ子だね
俺は運命の出会いをしたのかもしれねえ
海人の運命の出会いは今年に入って、もう3回はあったはずだ。
海人。行きの電車でいつも出会う、可愛い女子高生の上田さんの話はどうなったんだ
それは……まあ、いいじゃねえか
たしか勇気をだして声掛けたらシカトされたんだよね
あ……ば、ばらしてんじゃねーよ!!
シカト……むごい。
女子高生というものは、時として冷たいものである。
六本松 海人は大の女の子好きだ。
かといって経験豊富というわけでもなく、彼女ができたという話も聞いたことがない。
ただ、行動力は誰よりも高い。すぐ気になった女の子に声をかけるそのスタイルは、草食系男子すべてが見習うべきだ。
そのせいで、女子からチャラ男認定されていて評判は悪いのだが。
まあ、過去は忘れてくれ。俺は今、明知さんの事で頭がいっぱいなんだ。
単純だなあ。まだよく知りもしないくせに
だって見てみろよ!彼女を!
僕たちは明知さんが座る、廊下側一番前の席を一斉に見た。
そこにはすでに、クラスの女子たちに囲まれておしゃべりを楽しんでいる明知 梢の姿があった。
!!!!
……!!
!!!!????
まだ転校してきて数十分しかたってないのに、あんなにクラスに馴染んでやがる!
なんてフレンドリーなんだ。絶対良い子に違いないぜ
たしかに。
コミュニケーション能力が相当高いらしい。
あの子、もてるだろうなー
今現在、クラスの男子ほとんどが魅惑の転校生に興味を持っているようだ。理由は、みんなちらちら彼女の方を見ているからだ。
窓際一番後ろの席とは、クラスの様子がよくわかる席なのだ。
真広もあの子のこと気になってるでしょ
まあな
うん。気になる。
あんな可愛い子、テレビや雑誌の中でしか見たことなかったし。
よし、昼休み声かけてみよう
午前中の授業が終わった。
はああああ。疲れた。
やっと昼休みだ。
よし、いくぜ
……
……
僕とかっちんは無言で見守る。
海人は、明知さんの机へ一直線に向かった。
って、あれ?
よく見ると、明知さんはすでに席を外していた。
海人もすぐに動いたというのに。早い退席だな。
どこ行ったんだーー!!転校生ーーー!!
海人は当てもなく、明知さんを探しに行ってしまった。
どこ行ったんだろう、明知さん
トイレかな
学食かもよ。まあいいや。ほっといてご飯食べよう
そうするか
僕たちはいつも教室で昼ごはんを食べる。
みんな、家から弁当を持ってきたり、事前に購買や食堂で、パンや弁当を買ったりするので、学食には基本行かない。
今日の僕の昼ごはんは、学食で購入したから揚げ弁当だ。
いただきまーす
かっちんの昼ごはんは、家から持ってきた愛情たっぷりお弁当だ。
それにしても、もぐもぐ、海人の、もぐもぐ、女の子好きは、もぐもぐ、どうにかならないかね
ちゃんと飲み込んでからしゃべりなさい。でもあの子はたしかに可愛い
もぐもぐ、もぐもぐ、ごっくん!まあ確かに、明知さんってすごい美人だ。僕もそれは同意だよ
でもやっぱり大事なのは、中身なんじゃない?話したこともない人にあんな必死になれるなんて考えられないよ
一目惚れってやつだよ
僕には理解できないなー
「何の話してんだい?」
昼休みトークを楽しんでいると
僕たちの会話に、入り込む声があった。
もしかして、あんたたちも転校生の話かいい?
あ、荒巻
うるさい声の主はクラスの元気少女、荒巻夕奈だった。
荒巻は、女子テニス部のエースで、次期キャプテンと言われるほどの実力の持ち主だ。
同じクラスになったことによって、僕たちと仲良くなった。
って馬鹿一人いないじゃないか。あ、もしかして……
海人なら、いなくなった明知さんを探しに行ったよ
あ~そっちね!
……って、さっそくナンパかよ、あいつは!
さすが海人
逆に何だと思ったんだ?
あー、いや。てっきり、ウルトラ焼きそばパンにチャレンジでもしてるのかと思ってさ
ウルトラ焼きそばパン。
それは、この学校の購買で、昼休みと同時に発売される特別な焼きそばパンだ。
フォアグラやキャビアなどの高級素材が贅沢に使われており、普通のパンとは一線を画している。
そのウルトラな焼きそばパンは、週に1回、3つ限定で発売される。
そのため、ウルトラ焼きそばパンが発売される日には、それを手に入れようとする猛者たちが、授業終了と同時に購買へ全力ダッシュで押し寄せてくる。
争奪戦になるのだ。
なぜ、そんな争いの元となるパンを発売するのかは、謎である。
ああ、あれか。あれはこの教室からは無理だからなー
僕たちの教室は南校舎の3階にある。
対して、ウルトラ焼きそばパンを発売する購買は北校舎1階にある。
この距離では、どうしても間に合わない。
つまり、北校舎で授業を受ける人たちが、圧倒的に有利なのだ。
だから、南校舎の人間がウルトラ焼きそばパンに挑戦する事は、ほとんどない。
最初のころは結構がんばってたんだけどね~
もう僕たちは挑戦してないよ
まあ、そりゃそうか。南校舎であのパンを手に入れられる人は、ほとんどいないよね
いつかは、食べてみたい。ウルトラ焼きそばパン。
ふと、廊下がざわついているのに気がついた。
ん?どうしたんだろう?
野次馬たちの声が聴こえていた。そしてその声は、次第に近くなり、この教室の前で止まった。
そして、その扉が開いた先にいたのは……
ん?
え?
♪
ご機嫌な表情を浮かべる、明知さんだった。
ん?
……!!
まさか!!!!
彼女が右手に持っているのは、
ウルトラ焼きそばパンじゃないか!!!!
なんと彼女は転校初日、この南校舎から、
ウルトラ焼きそばパンを手に入れたのだ。
To be continued