謎の影は逃げ出した。
ここに隠して……
そこにどなたかいらっしゃるのですかな?
!!
謎の影は逃げ出した。
ふーむ……ほう、これは!
迷探偵サヨリ 第一話
ようかんの謎
私の名前はサヨリ・メイトンス
稀代の美少女名探偵!
今日はマダムオバチャーンの館にてパーティーがあるとのことで、向かっています
そこの者、止まりなさい
どうやら誰かが警備員に呼び止められているようですね
おい、お前だお前
ガードはサヨリの肩をがっしりと掴んできます。
なんですか?
招待状がなければ、いかなる者も通さない決まりになっている
諦めて帰るんだな
これは困りました
私はマダムオバチャーンに招待されていないのです
しかし今日、この館で事件が起こるにおいがプンプンする!
どうにかできないものか……
サヨリは辺りを歩き回りつつ、考えます。
仕方ありません、忍び込みましょう
探偵はどんな場所にも現れるものです
サヨリ・メイトンスは稀代の名探偵であるのと同時に潜入捜査の達人でもあるのだ!
王様のお城にだって忍び込めちゃうぞ!
さて、ここがパーティー会場ですね
事件はまだ起こっていないようです
少し様子を見ましょう
サヨリはパーティー会場を見渡し、そこにいる人を確認していきます。
マダムオバチャーン様、本日はお招きいただきありがとうございます
ふふふ、楽しんでいってくださいね
マダムオバチャーンと会話するロベルト・ナントーカの姿。
ふぉっふぉっふぉ、若い子はええのう
きゃっ!
マダムオバチャーンが見ていないのをいいことに、メイドにセクハラをするムッシュオジチャーン。
執事さんは今日もまた一段とかっこよく……
ほほほ、お上手ですな
執事を狙うミランダ・カントカー。
結構いますね
覚えられるでしょうか
推理パートのときに忘れていると不味い……
わ、私、お料理持ってきます!
おや……
オジチャーンのセクハラを我慢できなくなったメイドは、厨房に非難した。
そして事件は起こる……。
きゃーーーーーーー!
メイドの悲鳴、そしてガラスの割れ、人が倒れる音。
来ましたね! 事件ですよ!
何事です?
なにやら悲鳴のようなものが聞こえたが……
確認してき
確認しに行きましょう!
行きましょう!
この方は誰でしょうか……
サヨリの強引な押しにより、全員で厨房に確認に行く事に。
さて、ここが事件現場ですか
先ほどのメイドさんはどこでしょうか
ううぅ……
メイドは倒れ伏し、頭から血を流していました。
これはいけません
早く医務室に運びませんと
ううっ……ようかん……
そう言うメイドの手には羊羹の空箱が。
ようかんがどうしたというのだ?
私の羊羹……後で食べようと思って昨日隠した高級羊羹……ない、ない……
メイドはすぐさま医務室へと運ばれていった。
羊羹がいったいどういう……?
どうやらメイドさんが後で食べようと思っていた高級羊羹が、誰かに盗まれたようですね
これは事件ですよ!
なんというか、思いのほかしょぼいな
そういえば昨晩、厨房で不審な影を見かけたような……
なるほど、犯人は昨晩この館に忍び込み、メイドの高級羊羹を狙ったわけですね
わざわざ忍び込んだわりに、やることはしょうもないわね
ともかく、館に誰かが忍び込み盗みを働いたのは間違いないわけか
わしの館で盗みを働くとは許せんのう
さて……私の推理が正しければ、犯人はこの中にいます!
な、なんだと?
私たちの中に、わざわざメイドの羊羹を盗む卑しい者がいると?
そ、それで犯人はいったい誰なんじゃ
その犯人とは……あなたです!
サヨリが指を指した先にいたその人物、それは……。
わ、私ですか?
ええ、執事さん、貴方が犯人です
貴方は昨晩不審な影を見た、と言いましたね?
ええ、ですから昨晩誰かが忍び込んだのでは、と
その不審な影というのはメイドのことでしょう
先ほどのメイドは医務室に運ばれる前、「昨日隠した」と言っていました。
そういえば、線が細く、女性のように見えましたな……
そして執事さん、貴方は不審な影が何をしていたのか気になった、当然ですね
その影がいた方へと向かうと、戸棚か何かがあり、貴方はそれを開けた
うっ……
そしてそこに入っていたのが高級羊羹!
貴方は我慢できずに食べてしまった! そうでしょう、執事さん!
く……、ち、違う! 私じゃない!
なんだ、ずいぶんとうろたえているな
あからさまに怪しいぞ
く、ううううぅ……私です、私が食べました……しかし……
お主、何故隠そうとしたのじゃ!
まさか、我が家の執事がメイドの個人的な嗜好品を盗むような、卑しい者だったとは
さて、それでは私は失礼します
ま、待ってください!
あなたのお名前を!
私はサヨリ・メイトンス
稀代の美少女名探偵です!
ではさらば!
違う! 私は一切れだけで!
あとは残しておいたのです! 信じてください!
そんな執事の叫び声を背に、サヨリ・メイトンスは去っていった。正門から出ると捕まるので、知り尽くした隠し通路を使って……。
執事さんは一切れしか食べていないと主張していました
私の推理によると、それは正しいです
では、残りはいったい誰が食べたのでしょうか?
数日前、マダムオバチャーンの館でパーティーがあると知った私は、侵入経路を調べつくしました
そして前日、リハーサルを兼ねて忍び込んだその先で見たもの……執事さんが羊羹をおいしそうに食べる姿でした
しばらく見ていると、執事さんは高級羊羹を戸棚に戻し、私に気付くことなく去っていった
さて、残りの羊羹を食べたのはいったい誰なのか……
私です!
私は執事さんがおいしそうに食べている姿を見て、高級羊羹の味を推理しました!
そしてその推理結果が正しいか確かめるため、食したのです!
羊羹は推理通りとてもおいしかった!
私の手が止まらなくなるほどのものでした!
あれは悪魔の食べ物、執事さんと私は耐性を持っていたため、助かったのです
メイドさんが食べていたら、ひとたまりもなかったことでしょう
私は一人の人間を助けたのです
それは誇れることではありませんか
私が高級羊羹を盗んだことも、これでちゃらになるはずです
そう、世界は優しさで出来ているのですから……
終わり