スーツを着たまま、がしゃがしゃと歩きまわり、建物内を案内してもらった。

 どうやら、シーリウシーという大手会社の本部らしい。会社の中に、ロジャー含めすんでいる人がたくさんいるようだ。


 その規模は莫大で、大型のショッピングモールのようだった。すんでる人が千を超えるそうだから、小さな町だ。

 建物は大きく二つに分けられる。ひとつは工場、ひとつは生活区分。

工場に入ってもつまんねえと思うから、まあ、あっちにはいかなくていいよ

 とのことで、生活区分をいろいろ見て回った。

 生活用品はありとあらゆるものが揃う。外から買いに来る人も多いのだそうだ。

 ゲームセンターや、映画館まであるのだから、驚きだ。

映画見ようぜ

 誘われ、入った映画館は、俺の知っているものとは大きくことなっていた。

 まず、一人ずつが個別に部屋の中に入る。(狭い部屋だったが、サンザシもぎりぎり入った。)

 立ったまま、眼鏡をつけ、体のあちこちにコードがついた手錠のようなものを装着。

じゃあなー

 ロジャーの声がとなりの部屋から聞こえた、その直後、世界が一変した。



 知らない、バーーだ。立体の映像が、辺り一面に広がっているらしい。移動も自由にできる。がしゃがしゃという音がしない。

 もしやと思って手を見ると、着ていたスーツが消えていた。

 まさかと思ってトイレに駆け込み、鏡を見て、驚愕! 自分の姿は、映画のポスターにいいた主人公そのものになっていた。

変身した!

 叫ぶと、どうしましたか? というサンザシの声がした。声はするが、見えない。

すごい、映画の世界に入っちまった……

 と感動するのも一瞬。いや、この現象、俺の参加しているゲームそのものだ。まさか、ゲームの中でゲームをすることになるとは。

 しばらくうろうろしていると、目の前に黄色の文字が見えた。なんと、移動指示だ。

 どこそこの席に座れ、という指示に従うと、物語が始まった。

 自分の台詞が目の前に出てきて、なりきることができるようだ。ゆっくり世界観を楽しみたい場合は、オートモードにもできる。

 分岐点がいくつかあり、その選択で物語が変わっていく、というのがこの世界の「えいが」の醍醐味であるらしかった。

 それと、ガンアクションの映画だったので、そのアクションも楽しみのひとつ。

 俺の物語は、パターンCのハッピーエンドだったそうだ。エンドロールに、俺の名前まできちんと入っているのだから、手が込んでいた。




 二時間の映画を目一杯楽しみ、外に出ると、同じタイミングでロジャーも出てきた。その後は、二人でどんな話の展開になったかを語り合った。

すげえよな! 最新式だぜ……っていっても、すぐにさらに最新のやつが出るらしい。

今は個人だけだけど、さらに新しいやつは、複数人で参加できるんだ。体の周りに映像を纏えるんだって、どんな感覚なんだろうな

 映像を纏える! 俺は興奮のあまり身を乗り出してその話を聞いていた。面白い。


 話している途中で、ふと、もしかしたら俺の参加しているゲームも、今回の映画のような仕組みの可能性がある、と考える。

 今回は二時間だったけれど、もっと長い、長いゲーム。記憶を消して、ゲームの世界に入り込む、もしかしたらこの未来よりさらに未来、にいる、俺。

 そうだとしたら、いろいろと覚えておかなくては。このゲームを出て、語り合うときのために。

 俺は映画の中で印象的だった事柄をもう一度しっかり記憶に刻み込んだ。


 まあ、仮定だけどね。あるかどうかわからない可能性のために何かを用意することは、結構楽しいことみたいだ。



 桃太郎の世界が近未来なら、この世界はそれよりさらに未来のようだ。名前もランダムで、どこの国かわからない。

 しかし、よく考えれば、言語は日本語、表示も全て日本語だ。

 学園生活中はなんとも思わず受け入れていた語学関係のことが、しかし、こんな未来的なところに来ると、急に不思議だらけになる。


 もしかして、ここは日本なのか?

2 赤色の君は未来の英雄(3)

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