首を傾げる音耶だが、恵司はふむと何か考え込むような動作をする。
ひきこさん?
首を傾げる音耶だが、恵司はふむと何か考え込むような動作をする。
音耶、お前は知っているか?
何をだ
ひきこさんに決まってるだろう。学校に現れる怪異で、捕まえた者を肉塊になるまで引き摺り続けるという
平然と言い終わった後、ふと恵司が麻衣の方を見ると、麻衣は顔を青くし小さく震えている。すると、珍しく慌てた恵司が話すのを止めて麻衣を宥め始める。
わ、悪かった麻衣。怖くないから、な? おっきい兄者が守ってやるから
……そ、そこまで子ども扱いしなくても……っ、麻衣は、麻衣は頑張るのじゃ……
おい麻衣、恵司の事が嫌だったら正直に言っていいんだぞ? ちっちゃい兄者に任せろ
ああ? テメェ音耶、言っていい事と悪い事があるだろうが
るっさいな馬鹿兄貴。腹切り裂いて内臓ぶちまけさせてやろうか?
あまりに過保護な故に謎の大喧嘩を始めた双子の姿に、周りの捜査官は麻衣が来た時とは別の意味で慌て始める。その二人を止めたのは突然教室に入ってきた青年だった。
おいおい、場所と時間を考えろ
あ! ドクオ先生なのじゃ!
……駿河、その呼び方はやめろと
麻衣に"ドクオ"と呼ばれた青年を見た恵司と音耶は、今までヒートアップしていた感情を一気に冷まし、目を見開いて驚いた。
お前、鬱田か!
ああ、久しぶりだなぁ馬鹿兄弟。お前ら相も変わらずシスコンかよ
そういうお前はロリコンこじらせて教師っていうわけか?
これでも人気教師なんだが? 分かりやすいとロリの皆さんにも大好評だ
さっきまでの口喧嘩はどこへやら、談笑し始める三人に麻衣は恵司の服の裾を引き、首を傾げて尋ねる。
おっきい兄者はドクオ先生のこと知ってるのじゃ?
ああ……。まぁな。高校時代の同級生だよ。志乃、なんて女みたいな名前でひょろっちかったからよく苛められてたよな
ドクオ先生はそんな名前だったのじゃ?
お前……担任の名前くらい覚えとけ
で? お前がどうしてここに? ここは今捜査本部として借りてるわけだが
一通り思い出話に花を咲かせてしまった事を悔やみながら、音耶は鬱田に尋ねる。鬱田は若干言いにくそうに目を逸らしながら少し唸ると、仕方なしと頭を掻きながら言った。
俺も見てんだよ、その、ひきこさんとやらを
本当か!?
ああ。あれだけ廊下が派手に汚されてたんだ。俺を含めて何人かで跡を辿ったんだ。そこで呆然とする駿河――お前の妹と、その……。鈴木を、見つけたんだ
……
成程、関係者ではある訳か
ついでに言やぁ俺は学年主任でな。校内の捜査は俺の立会いの下で行えってさ。これだけ派手にやられちゃあ休校にせざるを得ないわけだが、一応、勝手に捜査されちゃまずいっていうのもあるからな
許可出してんのにか? 訳分からんな
学校相手ではあることだ。……まぁ、鬱田ならやりやすい。一々つっかかってくる厄介なのもいるからな……っと、鬱田、聞かなかったことにしてくれ
別にいいさ、同感だ
とっとと行くぞ、と勝手に先導する鬱田の後に続き、恵司と音耶は教室を出る。下を向いたまま、歩き出さない麻衣を置いて。