駿河音耶

ひきこさん?

 首を傾げる音耶だが、恵司はふむと何か考え込むような動作をする。

駿河恵司

音耶、お前は知っているか?

駿河音耶

何をだ

駿河恵司

ひきこさんに決まってるだろう。学校に現れる怪異で、捕まえた者を肉塊になるまで引き摺り続けるという

 平然と言い終わった後、ふと恵司が麻衣の方を見ると、麻衣は顔を青くし小さく震えている。すると、珍しく慌てた恵司が話すのを止めて麻衣を宥め始める。

駿河恵司

わ、悪かった麻衣。怖くないから、な? おっきい兄者が守ってやるから

駿河麻衣

……そ、そこまで子ども扱いしなくても……っ、麻衣は、麻衣は頑張るのじゃ……

駿河音耶

おい麻衣、恵司の事が嫌だったら正直に言っていいんだぞ? ちっちゃい兄者に任せろ

駿河恵司

ああ? テメェ音耶、言っていい事と悪い事があるだろうが

駿河音耶

るっさいな馬鹿兄貴。腹切り裂いて内臓ぶちまけさせてやろうか?

 あまりに過保護な故に謎の大喧嘩を始めた双子の姿に、周りの捜査官は麻衣が来た時とは別の意味で慌て始める。その二人を止めたのは突然教室に入ってきた青年だった。

鬱田志乃

おいおい、場所と時間を考えろ

駿河麻衣

あ! ドクオ先生なのじゃ!

鬱田志乃

……駿河、その呼び方はやめろと

 麻衣に"ドクオ"と呼ばれた青年を見た恵司と音耶は、今までヒートアップしていた感情を一気に冷まし、目を見開いて驚いた。

駿河音耶

お前、鬱田か!

鬱田志乃

ああ、久しぶりだなぁ馬鹿兄弟。お前ら相も変わらずシスコンかよ

駿河恵司

そういうお前はロリコンこじらせて教師っていうわけか?

鬱田志乃

これでも人気教師なんだが? 分かりやすいとロリの皆さんにも大好評だ

 さっきまでの口喧嘩はどこへやら、談笑し始める三人に麻衣は恵司の服の裾を引き、首を傾げて尋ねる。

駿河麻衣

おっきい兄者はドクオ先生のこと知ってるのじゃ?

駿河恵司

ああ……。まぁな。高校時代の同級生だよ。志乃、なんて女みたいな名前でひょろっちかったからよく苛められてたよな

駿河麻衣

ドクオ先生はそんな名前だったのじゃ?

鬱田志乃

お前……担任の名前くらい覚えとけ

駿河音耶

で? お前がどうしてここに? ここは今捜査本部として借りてるわけだが

 一通り思い出話に花を咲かせてしまった事を悔やみながら、音耶は鬱田に尋ねる。鬱田は若干言いにくそうに目を逸らしながら少し唸ると、仕方なしと頭を掻きながら言った。

鬱田志乃

俺も見てんだよ、その、ひきこさんとやらを

駿河恵司

本当か!?

鬱田志乃

ああ。あれだけ廊下が派手に汚されてたんだ。俺を含めて何人かで跡を辿ったんだ。そこで呆然とする駿河――お前の妹と、その……。鈴木を、見つけたんだ

駿河麻衣

……

駿河音耶

成程、関係者ではある訳か

鬱田志乃

ついでに言やぁ俺は学年主任でな。校内の捜査は俺の立会いの下で行えってさ。これだけ派手にやられちゃあ休校にせざるを得ないわけだが、一応、勝手に捜査されちゃまずいっていうのもあるからな

駿河恵司

許可出してんのにか? 訳分からんな

駿河音耶

学校相手ではあることだ。……まぁ、鬱田ならやりやすい。一々つっかかってくる厄介なのもいるからな……っと、鬱田、聞かなかったことにしてくれ

鬱田志乃

別にいいさ、同感だ

 とっとと行くぞ、と勝手に先導する鬱田の後に続き、恵司と音耶は教室を出る。下を向いたまま、歩き出さない麻衣を置いて。

第二話 ② 再会、そして捜査開始

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