……その後。

美香

 ケン君、私と玻璃ちゃん、これから部活動の見学に行くけど、ケン君もどう?

ケンスケ

 ん……あぁ、いや、悪い。今日は……っていうか、今日から一週間はさっさと帰らなきゃいけないんだ

美香

 ふーん? どうして?

ケンスケ

 姉ちゃんに買ってもらった自転車を早々にぶっ壊しちゃっただろ? 
 だから罰として一週間分の家事を全部押し付けられちまったんだ

美香

 わー、それは大変だねー

ケンスケ

 そういうわけで、僕は帰るよ。玻璃さん、美香のお世話頼んだよ

美香

 ちょっとケン君、何その意味不明な保護者面。
 立場が逆だよー。
 ケン君のお世話役が私なの

ケンスケ

 メイドを雇った覚えはないけどなぁ

 そんなやりとりをして、僕は教室を後にした。

 帰り道、玻璃さんが脳裏によぎる。

 クールで無表情な彼女。

 驚くべきダーツスキルを持つ白い女子。

 ……そして、僕のようなキモメンと普通にお話してくれる女の子。

 そんな彼女の口から出た中二病的発言。

ケンスケ

 ……『不敵の均衡』、か。
 僕には及ばないけれど、結構良いセンスしてるなぁ

 本気で能力者を名乗っているのなら、それはただの中二病なのだろう。
 しかし、冗談として言っているのならば、玻璃さんはたぶん、僕と同じ部類なのだ。

 僕と同じ、妄想民族である。

ケンスケ

 うぅん、でも、妄想大好きな僕としては、玻璃さんは本当の能力者であってほしいなぁ、とか思っちゃうな


 例えば、噂の白い女。

 それを退治しに玻璃さんが現れた、とか。

玻璃


 ダーツで悪魔を退魔ダーッ!
 あ、これ、いけるかもしれん!
 悪魔もう1ダースお願いします~
 

  そんな妄想を膨らましつつスーパーで適当に食材を購入した後、帰宅。

 純和風の古びた一戸建て。

 ……もっとも、古いのは外見だけで、中身は改装しているので洋風とかいう謎の作りだが……。

 敷地に敷かれた砂利を踏みしめて歩き、木とガラスで作られた玄関の引き戸を開ける。

ケンスケ

 ただいま

 と、帰りのあいさつをしたが、返事は帰ってこない。

ケンスケ

 …………

 僕を出迎えてくれたのは玄関に飾られている大きな水晶だ。

 六角形の柱がいくつも重なりあった無色透明の結晶。
 高さは僕の腰くらいまである。

 これはあいつ……僕の親父が五年ほど前に購入したものだ。

 幸せになれる水晶、だとかいう代物で、それまでの貯金を全て使って購入したらしい。

ケンスケ

 ……馬鹿丸出しだ


 こんな物で幸せになれるのなら、誰も苦労なんてしない。

 そして僕が小学三年生のとき、親父はこの家から勝手に出て行った。

 そう、四年生に上がる直前の、三月。

 それからなのだろう。

 歯車が狂ってしまったのは……。

ケンスケ

 …………


 水晶を売りつけてきた業者も許せないが、僕は親父の愚かさ、そしてその人間性が一番許せなかった。

 役割。

 父親としての役割を投げ出してどこかに消えた、僕の親父。

 自らの役割を果たせない存在に、何か価値があるのか?

 そんな役立たずの親父と、ただそこに佇んでいるだけの水晶……粗大ゴミが重なり映る。

 だから僕は、いつも、いつだって、この水晶を破壊したい衝動に駆られるのだ。


 ただ、何だか今日は、いつもよりも、心がざわついた。

 無性に、イライラしたのだ。

 だから
 

ケンスケ

 ふざけやがって……

 僕は呟いて、

 その水晶を、蹴っ飛ばした。


 痛い!
 

 水晶から女の子が出てきた。

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