……その後。
……その後。
ケン君、私と玻璃ちゃん、これから部活動の見学に行くけど、ケン君もどう?
ん……あぁ、いや、悪い。今日は……っていうか、今日から一週間はさっさと帰らなきゃいけないんだ
ふーん? どうして?
姉ちゃんに買ってもらった自転車を早々にぶっ壊しちゃっただろ?
だから罰として一週間分の家事を全部押し付けられちまったんだ
わー、それは大変だねー
そういうわけで、僕は帰るよ。玻璃さん、美香のお世話頼んだよ
ちょっとケン君、何その意味不明な保護者面。
立場が逆だよー。
ケン君のお世話役が私なの
メイドを雇った覚えはないけどなぁ
そんなやりとりをして、僕は教室を後にした。
帰り道、玻璃さんが脳裏によぎる。
クールで無表情な彼女。
驚くべきダーツスキルを持つ白い女子。
……そして、僕のようなキモメンと普通にお話してくれる女の子。
そんな彼女の口から出た中二病的発言。
……『不敵の均衡』、か。
僕には及ばないけれど、結構良いセンスしてるなぁ
本気で能力者を名乗っているのなら、それはただの中二病なのだろう。
しかし、冗談として言っているのならば、玻璃さんはたぶん、僕と同じ部類なのだ。
僕と同じ、妄想民族である。
うぅん、でも、妄想大好きな僕としては、玻璃さんは本当の能力者であってほしいなぁ、とか思っちゃうな
例えば、噂の白い女。
それを退治しに玻璃さんが現れた、とか。
ダーツで悪魔を退魔ダーッ!
あ、これ、いけるかもしれん!
悪魔もう1ダースお願いします~
そんな妄想を膨らましつつスーパーで適当に食材を購入した後、帰宅。
純和風の古びた一戸建て。
……もっとも、古いのは外見だけで、中身は改装しているので洋風とかいう謎の作りだが……。
敷地に敷かれた砂利を踏みしめて歩き、木とガラスで作られた玄関の引き戸を開ける。
ただいま
と、帰りのあいさつをしたが、返事は帰ってこない。
…………
僕を出迎えてくれたのは玄関に飾られている大きな水晶だ。
六角形の柱がいくつも重なりあった無色透明の結晶。
高さは僕の腰くらいまである。
これはあいつ……僕の親父が五年ほど前に購入したものだ。
幸せになれる水晶、だとかいう代物で、それまでの貯金を全て使って購入したらしい。
……馬鹿丸出しだ
こんな物で幸せになれるのなら、誰も苦労なんてしない。
そして僕が小学三年生のとき、親父はこの家から勝手に出て行った。
そう、四年生に上がる直前の、三月。
それからなのだろう。
歯車が狂ってしまったのは……。
…………
水晶を売りつけてきた業者も許せないが、僕は親父の愚かさ、そしてその人間性が一番許せなかった。
役割。
父親としての役割を投げ出してどこかに消えた、僕の親父。
自らの役割を果たせない存在に、何か価値があるのか?
そんな役立たずの親父と、ただそこに佇んでいるだけの水晶……粗大ゴミが重なり映る。
だから僕は、いつも、いつだって、この水晶を破壊したい衝動に駆られるのだ。
ただ、何だか今日は、いつもよりも、心がざわついた。
無性に、イライラしたのだ。
だから
ふざけやがって……
僕は呟いて、
その水晶を、蹴っ飛ばした。
痛い!
水晶から女の子が出てきた。