5限開始のチャイムが鳴った。
次は「生物」の授業だ。
だが、5限は昼休み直後ということもあって、昼食後の胃腸に多くの血液が集中している生徒たちに授業を受けようという覇気がない。
まあ、端的に言えばみんな眠いのである。
5限開始のチャイムが鳴った。
次は「生物」の授業だ。
だが、5限は昼休み直後ということもあって、昼食後の胃腸に多くの血液が集中している生徒たちに授業を受けようという覇気がない。
まあ、端的に言えばみんな眠いのである。
ふわぁ~・・・眠いよ~
同感。というかなんで昼休みの後って眠くなるんだろうな?
お昼休みの後に眠くなる理由?
ん~・・・
ポク、ポク、ポク、チーン
ご飯を食べた後で胃に血液が集まるから?
胃に血液が集まるとなんで眠くなるわけ?
・・・脳みその血が足りなくなるから?
ん~・・・脳みその血が足りなくなるとねむくなるのか・・・
でも、朝起きた直後はご飯云々関係なく眠いよね?
・・・分からない
ふぁ~・・・眠い
だいたい、昼休み直後の5限に授業をやるのがおかしいんだよ・・・
えっ・・・そこまで言う?じゃあ昼休みの後はどうするの?
昼寝の時間☆
うわぁ~・・・すがすがしい笑顔。というかお昼休みの後にさらに寝るってどうなの?
悪くない考えだろ?
水戸くん、冗談は顔だけにしようね
ひど過ぎない!?
先生まだかな?
無視?!
あ、先生がきた
教室の扉を開けて入ってきたのはいつものおじいちゃん先生ではなく、白衣を着た若い男だった。
ふう、教室間違えてたわ。超気まずかった・・・
背はすらっと高いのだが、ぼさぼさの髪に無精ひげ、大きなメガネと薄汚れたヨレヨレの白衣が引きこもりの研究者のような残念な雰囲気を醸し出していた。
ったく、あのじじいはいきなりすぎるんだよ。急にガキのおもりを頼むとか面倒ごと押しつけやがって・・・
教卓に立った男は生徒の方を見向きもせず、ぶつぶつ文句を言いながら白衣のポケットをゴソゴソとあさっていた。
だれ?
俺に聞くなよ。じいちゃん先生が風邪で休みになったからその代りとか?
山中先生風邪なの!?
いや分からん。てきとうにそうじゃないかなと予想してみただけ
すると入ってきた男がポケットからチョークの箱を取り出して生徒の方に向き直った。
チョークあった・・・
あ、あ、あ。はい全員ちゅうも~く。
じじ・・・じゃなくて、生物の山川先生は急病でしばらく学校に来れなくなった。今日から山川先生のかわりに俺がこの授業を担当する。
突然のことにざわざわ教室が騒がしくなる。だが男はそれを気にするそぶりを見せずに言葉を続けた。
最初に言っておく。この授業は出席も取らなければお前たちが寝ていることをとがめたりもしない。この時間に限っては食べ物を口にしようが飲み物を飲もうが携帯をいじろうがかまわん、自由にやっていい。ただし他の迷惑にならない程度にな。
かわりに来た教師の異常ともいえる発言に教室中が凍りついた。
山川先生がどういう授業をしていたか知らないし、俺の授業が一般的な高校の授業らしい授業を出来るかも分からん。だからつまらないと思ったやつは抜け出してかまわないしふて寝を決め込んだっていい。昼めしの後は眠くなるだろうしな。
男はニヒルに笑って言った。
この授業の注意点は二つだ。ひとつは他のやつの迷惑にならないこと、もうひとつはテストで赤点を取らない程度には勉強すること。授業をある程度真面目に受けてれば余裕で赤点は回避できるだろうから心配するな。要は全部自己責任でやってくれってことだ。いいか?
聞かされたゆるすぎる授業の方針に、生徒たちは唖然とした。
今までに厳しい先生にきちんとした授業態度を強要されたことはあったが、こんなに自由でてきとうでいいと言われたことは初めてで、どう反応したらいいのか分からなかった。
それはさておき、前が見づらいな。ん?ああ、メガネ掛けっぱなしだったからか・・・
男は気だるげに眼鏡を外した。すると現れたのはどこか大人の色気が漂うイケメンだった。それを見た女子生徒たちが色めきたつ。
男は火のついていない煙草をくわえると、にやりと笑って自己紹介をした。
紹介が遅れたな。臨時教師の岡崎だ。ちょっとの間だがよろしく頼む
イケメンだけどなんか変な教師が来た、と生徒全員が思った。