ここはサイショ王国にあるお城の中の王座の間。
王座にはもちろん王様が座っており、その前には跪いている勇者の姿があった。
勇者よ、ついにそなたの力を借りるときが来た
ここはサイショ王国にあるお城の中の王座の間。
王座にはもちろん王様が座っており、その前には跪いている勇者の姿があった。
はっ、わかっております
今日のために修行を重ねてきました
うむ、心強い言葉だ
私はそなたが必ず、無事に戻ってくると信じておる
頼んだぞ
お任せください
必ず魔王を討ち取ってみせます
では行ってまいります
勇者は立ち上がり、王座の間を後にした。
勇者は14歳のとき、近い将来復活するであろう魔王討伐の任を賜り、それからずっと修行をしてきた。
今年で60歳となり腰痛も厳しくなってきたが、それでもこの国では誰よりも強いのだ。
途中で王様が代替わりしているが些細なことだ。
しかし……
王の手前、ああ言ってしまったが……
勇者のパーティは既に壊滅状態なんだ……
勇者であり近接火力担当のツァケオ・ハスェクーワ。
後衛を守るナイトのゲンゴロ・イーシュズクィ。
後衛で魔術による攻撃を行うウィザードのミツーヨ・サトゥー。
聖なる力でパーティを癒すプリーストのゼンズィーロ・ストウツェ。
以上四名が勇者パーティなのだが……。
昔は皆将来を期待された元気いっぱいの若者だったのだが
今では……
婆さんや、飯はまだかの
ナイトのゲンゴロ・イーシュズクィ
ううう……腰が
ウィザードのミツーヨ・サトゥー
プリーストのゼンズィーロ・ストウツェにいたっては
教会所属のくせに酒に肉にすき放題した結果既にこの世にいない
勇者パワーなのか、いまだにピンピンしている私を除いて皆旅に出られる状態ではない……
この際酒場に行って仲間を集めるほかあるまい
城に引き返して王に頼み込むのはあまりにもみっともない
それに魔王討伐に燃える若者は大勢いるはずだ
有望な者にも出会えるだろう
勇者は気を取り直し、酒場へと向かった。
いらっしゃい
ご注文……
あら、勇者様
いつものでよろしいでしょうか?
いや、すまないが今日は食事ではない
実は仲間を探しているのだ
えっ
どなたかおらんかな?
出来れば魔王討伐に燃える熱い心を持った者がいいのだが
いませんよそんな人
もう勇者ブームはとっくに終わってますし
勇者ブーム。
それは15年前に起こった魔物の大発生を基点とした、勇者を目指す者が急増した出来事である。
しかし魔物があらかた狩りつくされたのと、魔王の復活が思った以上に遅かったことでブームは去ったのだった。
そうか……
では仕方がないな
あーその、頑張ってくださいね
ありがとう!
勇者は酒場から立ち去った。
それにしても本当に魔王なんて復活してるのかねぇ……
酒場を出た勇者は、武器屋、防具屋、道具屋、広場、と仲間になりそうな人がいそうな場所を回ったが、成果はゼロであった。
ううむ、こうなれば一人で行くしかあるまい
一人で魔王などという大物が倒せるかは不安だが、やるしかあるまい!
こうして勇者ツァケオはサイショ王国から旅立った。
最初の目的地は、最古の勇者が魔王を倒したときに使ったとされる剣が眠る地だ。
勇者ツァケオは、魔王を倒した剣なのだから何かあるに違いないと思ったのだ。
へえーこれが勇者の剣か
思ってたより普通だな
でもなんだか神聖な感じがしな~い?
それになんか光ってて綺麗だし!
へへ、お前の方が綺麗だぜ
やだーもーあっくんったらー
……
勇者の使った剣が眠る地は観光地となっていた。
これには勇者ツァケオも戸惑いが隠せない。
これでは聖剣が抜けないではないか
ふーむ、困ったな
勇者ツァケオは自分が主人公であることを信じて「困った」と口にしてみた。
物語では主人公が困ったときに、なにかしらの助けがあることを勇者ツァケオを知っていた。
そんな勇者ツァケオの思いが天に届いたのか、聖剣が更に光を強めた。
なっ、なんだいったい!
綺麗とは言ったけどこれはさすがにまぶしすぎる!
そして、聖剣の中から羽の生えた少女が姿を現した。
勇者よ……
うおおおおおおおすげえええええええええええええ
なになに本物?
本物なの?
おおっあなたは!
聖剣に宿った天使様でしょうか
私の呼びかけに応じてくださったのですね!
勇者アルスよ……
えっ
えっ!!!!!!!!!!!!!!!
俺、勇者なの?
あっくんってば勇者だったの?
すごーい!
勇者アルスよ、聖剣を抜きなさい
聖剣の力を解放し魔王を倒せるのは勇者アルス、貴方だけなのです
その身に秘められし力を私が開放します
魔王復活ってマジな話だったのかよ!
うおおおおお調子出てきたあああああああ
アルスは深々と刺さった聖剣の柄に手をかけ、軽々とそれを引き抜いた。
うおお! 勇者アルス、ここに光臨す!
なんちゃってな! なはは!
あっくんかっくいー!
しかしそれを黙ってみているだけの勇者ツァケオではない。
ちょ、ちょっと!
困りますよ!
ん? なんだアンタ
あっもしかしてここの管理してる人?
あーすみません
どうやら俺勇者みたいで、聖剣に選ばれたんすよ
それで引き抜いたわけでして
私からも説明した方が納得していただけるでしょうか
……
そうだな、勇者殿の実力を試させてもらってもよろしいか?
えっそれは……
勇者よ、安心なさい
私が付いています
私もいるよ!
あっくん頑張れー!
へへっ
これは負けられねえな!
それじゃあ鎧のおっさん、いくぜ!
ああ……
勝負は一瞬で片がついた。
勇者ツァケオは、聖剣を持った勇者アルスの動きが全く見えず、気が付いたときには首に剣が向けられていた。
こ、これが俺の力!
すげええええええええ!
あっくんかっくいー!
勇者ツァケオの冒険はここで終わってしまった。
そもそも勇者ではなかったのだ。
勇者とは聖剣が選び決めるもの。文献にはその記述が残っておらず、誰でもなれるものだと勘違いされていたのだ。
格の違いを見せ付けられたツァケオはサイショ王国に戻り、全てを王様に報告した。
さすがにこれを不憫に思った王様は、ツァケオにたんまりと金貨を与えたという。
そして勇者アルスだが、ノリにノッてそのまま単騎で魔王の城に突入。
力を溜め込んでいた魔王を難なく討ち取り、更には完全に消滅させ、世界に平和が訪れた。
勇者アルスは最強にして最後の勇者として伝説に名を残すのであった。
終わり