目が覚めたら、緑の大地が広がっていた。

笹々木修司

はっ! こ、ここは……

笹々木修司

広がる大地! 見渡す限りの空! 空気も澄み渡っていてスゲー美味しい! 間違いない! ここは――

西野茜

……う、ううーん

笹々木修司

え? に、西野さん!?

西野茜

あれ? 笹々木くん?

笹々木修司

独白しよう! 彼女の名前は西野茜(にしの・あかね)さん。僕のクラスメイトであり、僕がいま世界で一番好意を寄せているホットな女の子だ!

笹々木修司

髪はツヤツヤ! ルックスはめっちゃ可愛い! 控え目な体つきも実に僕好み! 声だってまさに天使のエンゼル・ボイス!

笹々木修司

ちなに僕の名前は笹々木修司(ささささき・しゅうじ)。高齢化社会に生まれてしまった高校一年生の16歳だ!

笹々木修司

あ。ちなみに今のはココロの叫びで、実際には口に出してません。大丈夫です。

西野茜

笹々木くんって学校でも時々ミョーに返事が滞る時があるんだけど、いったい何を考えてるんだろう?

笹々木修司

西野さん、大丈夫? 怪我とかしてない?

西野茜

うん。頭がフラフラするけれど、とりあえず大丈夫っぽい。

西野茜

でも、どうして急に意識を失ったか覚えてないんだ。

西野茜

……って、アレ? あれれ? なんだか景色がヘン。緑が多すぎ。ここはどこ?

笹々木修司

僕もいま目が覚めたばかりなんだ。でも、西野さんは焦らなくていいよ。こういう状況になる話を僕は前に本で読んだことがあるんだ。きっと、ここは異――

西野茜

田舎?

笹々木修司

あ、いや、それはどうかな。確かに広々としているし、都会っぽくはないけど……

西野茜

じゃあ群馬?

笹々木修司

いやいやいや。確かに群馬はネットではよく田舎の代名詞にされたりするけど、実際はネタだから。昔、親戚の家に行ったことあるけど、ちゃんと町とかビルとか文明とかあったし。

西野茜

じゃあ岩手?

笹々木修司

う、うーん。岩手はよく知らないなあ。確かに相当の田舎だとは思うんだけど……

笹々木修司

というより僕が言いたいのは、ここは現代日本じゃなくて、もっと根本的に異なる世界じゃないかってことなんだよ。

西野茜

異なる世界? ってことは外国ってこと?

笹々木修司

惜しいというか、ロマンがないっていうか、ファンタジー成分が足りないっていうか……

笹々木修司

 異世界だよ、異世界! 

西野茜

良い世界? E世界? インターネットのこと? よくわかんない。

笹々木修司

異なる世界と書いて、異世界です。要するに僕らはまったく別の世界に飛ばされちゃったんじゃないか、ってこと。

西野茜

え、じゃあどうやって帰るの?

笹々木修司

それは僕もよくわからないんだ。

西野茜

えー、それは困るよ。わたし家に帰ったらお母さんと一緒に韓流ドラマを見る約束してたんだから。

西野茜

タクシーとか走ってないの? この世界。

笹々木修司

……流石に走ってないと思うよ。見渡す限り舗装もされていない草原地帯じゃないか。車どころか、馬車すらあるかどうかわからないよ。

笹々木修司

とにかく今は情報交換をしてみよう。僕らはどうしてこの世界に急に飛ばされてしまったのか、を。互いに覚えていることを話してみよう。

西野茜

うん。わかった。


僕らはお互いの記憶を辿ってみた。

すると駅前に買い物に出てきたことを思い出した…

笹々木修司

うーん、暇だなあ。クラスの友達にはドタキャンされるし。しばらくあいつらのLINEは既読スルーだな。

西野茜

……………

笹々木修司

あ、あれ? いま店の前を通りかかったのはもしかして西野さん? 僕の大好きな西野さんじゃないか!?

笹々木修司

ラッキー! これは偶然を装って声をかけないと!


僕は横断歩道の途中で西野さんに追いついた。

笹々木修司

西野さん! 西野茜さん!

西野茜

あ、笹々木くん。

笹々木修司

学校の外で会うなんて珍しいね。

笹々木修司

私服姿、とっても可愛いよ! 普段は制服かジャージ姿しか拝められないから、アドレナリンがブッと出たよ! 好きだ!

笹々木修司

……といったことを本当は言いたかったのだけど、タイミングが悪いことにスマホに着信が入ってしまったのだ。

西野茜

なにこの変な音? もしかして電話の着信音? 出なくていいの?

笹々木修司

い、いいんだよ。別に。それより今は西野さんと会話をするのが僕にとっては一番重要な……

西野茜

電話、出なよ。なんかどんどん音が大きくなっているし。

笹々木修司

……そ、そうだね


やむなく電話を取ると、

向こうから馴れ馴れしい声が届いた。

もしもーし。もしもしもしもーし? 聞こえてる? 聞こえているならイエス、聞こえてないならノー、どっちでもないならハーフって返事して。

笹々木修司

なんだよ! いま忙しいんだよ! さっさと用件を言ってくれよ!

ちょっとお願いがあるのよー。いま駅前まで来てるんでしょ? だったら帰りにスーパーに寄ってきゅうり、たまご、納豆を買ってきてくれないかしら? あとて徳用水切りネットもね。

笹々木修司

だから忙しいって言ってるだろ!? そんなの自分で買ってくればいいじゃないか!

あらーん。怒らないで、シュウちゃーん。今日の夕食、がんばって美味しいものを作ってあげるから。

笹々木修司

いいよ、今日は外は食べてから帰るから!

西野茜

誰かと喧嘩でもしてるの?

笹々木修司

え? あ、いや、そういうわけじゃないんだ。

西野茜

じゃあ誰と話してるの?

笹々木修司

……お母さん


その時、信号無視をした車が突っ込んできた。

笹々木修司

うわあああ!

西野茜

きゃああああああああ!


そこで僕らは意識を失ったのだった。

笹々木修司

……思い出したよ。僕らは車に轢かれそうになったんだった。

西野茜

そうね。でもよくわからないんだけど、どうしてどっちも怪我してないんだろう?

西野茜

それにここはどう見ても駅前じゃないよね?

笹々木修司

あの時、僕らは車を避けようと強く願ったんだ。その気持ちが何かの偶然と結びついて、僕らをこの世界に飛ばすことに繋がったんだと思う。

笹々木修司

帰る方法があるのかどうかわからない。もしかしたら、この世界で長いこと生活していかなきゃいけないかもしれない。

笹々木修司

辛いこともあるだろう。なにせ僕らの常識が通じない異世界なんだ。それでもあきらめずに強くココロを持たなきゃいけない。

笹々木修司

と、いうのは建前で、

笹々木修司

はっきり言おう! 僕はめちゃくちゃココロがホップホップしていた! 好きな女の子と一緒に異世界に来たんだ! 念願のファンタジー世界だ! 

笹々木修司

彼女を守ってこの異世界を旅していく! これ以上にワクワクすることが他にあるか? いいや、ない! 僕はこの状況を歓迎する!

笹々木修司

というのもココロの叫びだから、実際には口に出してません。大丈夫です。ハイ。

西野茜

また一人でニヤニヤしてるなあ

笹々木修司

行こう。とにかくこの世界がどんなところか把握しないと。二人で手を取り合って前に進もうじゃないか!

西野茜

うん。わかった。


西野さんは頷いて手を差し出してきた。

笹々木修司

うおおおおお! 僕は、今、西野さんの手を初めて握ろうとしているううう!!!

笹々木修司

と、思った矢先のことだった。


遠方から近づいてくる人影があった。

西野茜

誰かしら? この世界の住人なのかな?


その人影は手を振りながら僕らの前までやってきた。

笹々木修司

そ、そんな……バ、バカな!?

???

シュウちゃーん!!!

笹々木修司

……あ、あ、あ

西野茜

誰? このおばさん。

次回、『突然(・ω・)ノシ』

異世界にヒロインとやってきたんだが

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