望月先生の授業終了のお約束を聞き流しながら深夜は今日の退避ルートを確認していた。
え~以上で今日の講義は終了しますぅ!各自帰宅するようにぃ!
望月先生の授業終了のお約束を聞き流しながら深夜は今日の退避ルートを確認していた。
俺の席は後方から2列目...
最短距離を行くには...
先生!放課後お茶しませんか?
おいしいケーキの店見つけたんですよ~
あのチャラ男が位置的に邪魔だ...
ならば一度後方に移動してそれから扉めがけてダッシュするのが最短か。
あ、課題しまってねぇや...
放課後は各自が部活動にいそしんだり、友達と語り合ったりと青春を謳歌する時間だろう。
だが、彼にとってはよりはやく自宅に帰ることこそミッション!
あ、深夜君は部活動から呼び出しが
体の節々が痛いので帰ります!!
選択の余地はなかった。扉まで行く時間さえ惜しいと窓を開け、荷物を片手に校庭へダイブする。
課題は明日だな...
明日の課題より今の安全だ!
3階から地面までの間に体制を整えてスタートダッシュの体制を整える。
が、深夜の体がそのまま着地することはかなわなかった。
うわああああああああああああああ!!!!
地面からあと50cmほどというところで深夜の体は不意に急停止する。
深夜の左足にはやや緑色に発行したひもが巻き付いており、その先は望月先生の左手にしっかりとつながっていた。
俗に言う宙吊り状態である。
ごめんねぇ。
アリスちゃんから必ず連れてくるように頼まれてるのぉ。
...わかりましたから離してください...
俺にはディスペルできないんですから。
諦めの表情をしながら宙吊りのまま脱力する深夜はその日の平和のための努力をあきらめるのだった。
ここはクランディア魔法学園。魔法使いの養成を行うための学校である。人口の7割が魔法を使用することができるこの世界において魔法学園に通うことは一種のステータスであり、将来のための大切な準備。
しかし、一つだけ異様なことがこの学園にはあった。
それは
俺にはディスペル(初期の解呪魔法)すらできないんだよなぁ
彼、深夜はこの学園で唯一の魔法が使えない魔法学園生なのである。
ちなみに
げふっ!!
ごめんねぇ!
魔法解いたからねぇ!
宙吊りの状態からひもが急になくなれば後に待っているのは落下であることは、言わなくてもわかることであると思う。
結局来ることになってしまった...
学園内の隅に立つ3階建てサイズの建物。その前で深夜は一人ため息をついていた。
建物の表札には『魔法科学部』と荒々しく書きなぐってある。この建物すべてが魔術科学部の部室である。
帰りてぇ...
でも今帰ったら望月先生、あいつに叱られるんだろうな...
それはさすがに罪悪感あるしなぁ。
何してるのよ?早く入りなさい
入り口で立ち尽くす深夜にスピーカーから声がかかる。
へーい...
声に従い、肩を落としてとぼとぼと深夜は建物の中に入っていった。
その姿は部活動に喜んで参加する学生ではなく、やりたくない仕事に向かう疲れ切った社会人そのものであった。
魔法科学部の部室は学園というよりは研究所のような状態だった。たくさんの機械が所狭しと並べられ、意味の分からない数字が刻一刻と変動している。
こんちわ~
帰っていいっすか~?
こんにちわ~
深夜君!一つ試作品ができたんだけど試してみてくれない?
また何か作ったんですか!?
10日前にレーザーサーベル商品化したばっかりじゃないですか!
深夜が部室に入るとすぐに同い年の女学生が、こぶし大の機械を手に声をかけてくる。
リーズ・バレンタイン。魔術と科学の融合である魔術科学の業界ではすでに職人として仕事をしている天才児だ。ただ開発段階には難があり、
ちなみにその試作品、安全性は保障されてるんですか?
試作品よ?安全性の保障の前にきちんと効果が出るかの確認のほうが大切じゃない。商品化するときにはちゃんと安全性も保障するわよ。
で、それ何の試作品ですか?
小型ブラックホール製造機♡
そんなものの試作品使ったら死んでしまうわ!!!!
というかそんなもの自爆にしか使えないじゃないですか!?
そりゃそうよ!自爆用だもの!
商品化するときにはちゃんと時限式にするわ!
試作品は時限式ですらないのかよ!?!?
試作段階で大多数の犠牲者を出す恐怖の発明家でもある。