階段を駆け上がり三階へ。

 性懲りもなく襲い来る生徒たち。

 薙ぎ払い。
 蹴り飛ばし。
 放り投げる。

 すぐれたチームワークで襲い来る2年生。
 三年間の集大成をぶつけて来る3年生。

 それでも彼らと譲司とでは、戦いの年期が違う。
 譲司を止められる者は誰もいなかった。

 全ての生徒を突破し、襲撃が途切れた頃。

 廊下の端に美術部のプレートが見えた。
 譲司は走る勢いを殺すことなく、扉に突進した。


 扉が砕け散り、そのまま美術部の中に突撃する。
 広い美術室の中に、白衣を着た女が立っている。

美術の相原

猫だって戸を開ける。猿やゴリラだってね。

美術の相原

動物以下の知性しか持ち合わせていないようね、牧島譲司くん

牧島 譲司

黙ってろ。
職員室まで案内してもらうぜ、相原先生

美術の相原

イヤと言ったら?

牧島 譲司

力ずくでも従ってもらう


 拳の骨をパキパキと鳴らす。

 こちらを見上げる相原の目は、まだ余裕がある。

美術の相原

そうね。まあ約束だものね。

職員室の場所を教えてあげるわ……
彼を倒せたらね

 相原が譲司の背中越しに、美術室の入り口を見る。
 咄嗟に譲司は振り向いた。

牧島 譲司

山田 闘莉王

ふふふ


 譲司が拳を握り、構えた。

牧島 譲司

……いつの間に現れやがった

山田 闘莉王

誰も予測しない場所にパッと現れてシュートを決める。ストライカーの素質だぜ


 男はサッカーボールをリフティングしている。

 足の甲に乗せたボールを膝へ。
 膝から頭。
 背中側に落としてヒールキック。

 まるで体の一部のように、ボールを操っている。

山田 闘莉王

で、先生。そいつを倒せば良いんだろ

山田 闘莉王

もうやっちまっていいのか?

美術の相原

せっかちね。
自己紹介くらいしてあげたら?
 
クラスメイトになるかも知れない相手よ

山田 闘莉王

自己紹介ねえ……

山田 闘莉王

なあアンタ、サッカー好きか?

山田 闘莉王

友達になれるかも知れないからな。

アンタがサッカー好きなら手加減してやる。
死なない程度にな。

牧島 譲司

やったことはないが、たった今嫌いになった

山田 闘莉王

そっか


 山田がボールをふわりと浮かばせる。

山田 闘莉王

なら死ね!


 山田の目が赤く光った!
 ボールに向かって……右足を振り抜いた!


 爆発音。そうとしか形容のできない音が響く。

牧島 譲司

クッ!


 譲司は腕を交差させ、腹部を守った!

 砲弾のように弾き出されたボールが腕にめり込む!
 びりびりと腕がしびれる!

 ボールに押し込まれ、譲司の巨体が床を削りながら後退する!

 弾かれたボールが、宙を舞う――!

山田 闘莉王

次だッ!


 ボールがそこへ弾かれることを予測していたかのように。 
 山田はすでに飛び込んでいる!


 空中でのオーバーヘッドキック!

 唸りを上げてボールが舞う!

牧島 譲司

チィッ!


 顔面へ迫るボールを左手で防いだ!

 筋肉が押し潰され、骨の軋む音が聞こえる!

山田 闘莉王

まだまだぁッ!


 こぼれ球を山田は逃がさない!

 すかさず放たれる三発目はダイレクトボレー!

牧島 譲司

グオオオオッ!


 防御は間に合わない!
 音速を超えた剛速球が胴にめり込んだ!


 鋼の高度を持つ腹筋がメキメキと潰される!
 譲司の体は大きく吹き飛ばされた!


 窓ガラスを突き破り、校舎の外へ飛び出した!
 三階から落下する譲司――

山田 闘莉王

トドメだ!


 声に誘われるように頭上を見上げた。

 譲司を追って、山田が美術室の窓から飛び出している。
 両手を大きく広げ、獲物を狙う猛禽類のように。
 山田がボールへとその足を叩き付けた!


 よけられない――!

 稲妻を撒き散らしながらボールが迫る!

牧島 譲司

うおおおおお!


 両手を頭上へとかざし、ボールを受け止めた!

 すさまじい衝撃波だ!
 腕の筋肉が千切れる!

牧島 譲司

ぐあああああ!


 譲司の体がグラウンドに叩きつけられる!
 それでもボールは止まらない!

 両腕から血が噴き出した!
 二階堂にやられた傷口が開き、えぐられていく!

牧島 譲司

この……この程度でッ!


 回転速度は緩まない!
 抑える両手から鮮血が舞う
 地面が陥没する!
 譲司の体がグラウンドへと食い込んでいく!

牧島 譲司

ぐ……ぬうううう!


 さながら隕石だ!

 ボールの勢いは止まらない!

 このままでは……押し殺される!

牧島 譲司

ナメてんじゃあ――!


 譲司は歯を食いしばった!

 両腕の筋肉が盛り上がる!

 全身の力を、両の掌に集中する!

牧島 譲司

ねえぞッ!

 咆哮!


 両手を挟み込むように叩き付けた!

 破裂音がグラウンドに響く!

 ボールを、叩き潰した!

 ……

 両手の中に、潰されたボールの感触。
 空気が抜けてベコベコにへこんだボール。
 その残骸を、譲司はゴミのように捨てた。

牧島 譲司

こうしてみると、ただのサッカーボールだな。簡単に潰れやがった

山田 闘莉王

信じらんねえ。俺のボールを……

ボーリング玉より強度があったんだぞ!

牧島 譲司

俺はダイヤモンドだって握り潰せる

山田 闘莉王

ボールは友達なのに!

牧島 譲司

友達想いのヤツだな。
死ぬまで酷使されてこいつも幸せだろうよ

 ボールの残骸を踏み潰す。

牧島 譲司

次は、てめえがこうなる番だぜ

山田 闘莉王

抜かせ! 
弔い合戦!
俺の黄金の左足で!
お前の頭をサッカーボールにしてやる!


 山田が跳んだ!

 いや、飛んだ!

 鷹のような飛翔!

 空中から迫る、山田の左足!

山田 闘莉王

おりゃああああ!

 空中で左足を振りぬかれた!

牧島 譲司

……ふん!


 譲司はそれをあっさりとかわす。
 降り抜かれた左足をステップで避けると、フックを山田の顔面に叩き込んだ。

山田 闘莉王

ぐおっ!


 地面の上を何度もバウンドする。
 やがてバウンドは止まり、山田はグラウンドの上に倒れた。

 ぴくぴくと痙攣しているから、死んではいないだろう。

牧島 譲司

どうやら……

牧島 譲司

ボールになったのはお前の方だったな


……残された時間は、あと十五分!

続くッ!

学園戦記マキシマ 第四話

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