「男」『女』
「おや、こんにちは。ふふ、こんなところを一人でウロウロしてるなんて、迷子かな?」
『はぁ?『迷子』?!失礼な!』
「おっと、どうしたんです?急に大きな声を…」
『私は、こう見えて、成、人、女性、ですけど?!』
「え?あー、失礼、レディ。あまりにも可愛らしいお顔なもんだから、つい」
『ふんっ!悪かったわねぇ、童顔で』
「いやいや、童顔だなんて一言も言ってないでしょう?!ま、まぁ、でも、迷っておいでなのは確かでしょう?」
『まぁ…。確かに、ちょっと探すのに手間取ってはいたけど…。』
「そうでしょう?この共同墓地にいらっしゃる方々は、誰でも最初は分からないで戸惑っていらっしゃる。そして、その様な方をご案内するのが、僕らの仕事の一つなのですよ。よろしければ、探している方のお名前とお住まいを」
『え?えぇ…。C区の、アレク・グレンジャーです、けど』
「C区、ですね?……はい。では、どうぞこちらへ」
『……あの。あなた…』
「ん?僕がなにか……あぁ、申し遅れました。僕、アンダーテイカーやってるんです。まぁ、この格好を見れば分かりますかね?アンダーテイカーはみぃんな、くたびれたコートを羽織って、いつでもフードを被っている。中々に重労働ですし、死という穢れを扱う、世間の人から見たらちょぉっとお近付きになりたくないお仕事なもんでねぇ」
『え、えぇ。そうね。大変なお仕事だと、思うわ』
「おおっと、ちょいと愚痴っぽくなっちゃったかな?お気を使わせてしまったのなら、申し訳ございません」
『…今日、会いに来た人がね。アンダーテイカー、だったの』
「ああ、なるほど。これから訪ねられる方が…。そうですか…、まさかお仲間だったとは」
『なに?お仲間を訪ねるのが、なにか不思議だったかしら?』
「いえね、先程も申し上げました通り、中々に世間様から仲間外れにされる仕事なものですから、わざわざお仲間さんを訪ねておいでになる方も稀なもので」
『そう…。でも、私と彼は、約束してたの。私の両親を説得出来たら、ずっと、一緒に…』
「ほう。将来を約束していたと?それはそれは…、残念、でしたね。あぁ、着きました。えぇと…、ほら、こちらに。お名前を、ご確認下さい」
『え?えぇと…うーん……居た。良かった……探したのよ?もう…』
「…こうやってご案内させて頂いておいてなんですが…」
『……なぁに?』
「生き残された側の人は、前へ進みはじめたのなら、思い出は仕舞い込むべきなんじゃないかと、僕は思っちゃうんですよねぇ。だって、どれほど大切に想い続けても、逝ってしまった人は、もう戻って来ることはないのだから」
『そう、ね。でも』
「だからね。君も、もう僕の名を探しに来なくていいよ」
『いいえ。私は、あなたとの思い出だから、大切にしたいの。あなたと過ごした日々も、約束も、私にとっては無くしたくない宝物なの』
「あれ?もしかして、気付いてた?うーん、結構、頑張って声変えてたんだけどなぁ」
『歩き方。あなた、私と一緒に歩く時、私と歩調を合わせる為に、右足を踏み出すのが少し遅いの』
「え?じゃあ最初から?うわ〜、頑張ってたのに〜」
『……来ない方が、良かった?』
「ううん、会いに来てくれたのは本当に嬉しかった。けど、ね。……幸せになって。それだけ。僕は一緒に生きられない。もうここに留まることも出来ない。最後の思い残しを今ここで果たして、僕は、彼方へ逝くから」
『そっか。折角、久しぶりに話しているのに』
「君は素敵なんだから。だからね?……笑って、出来るだけ、君が笑って、生きていけますように。それだけを祈りたかったんだ。伝えたかったんだ」
『そっか…。うん。あり…がと』
「笑って。……うん。君は、笑うと本当に綺麗だ」
『うん…うん……』
「ありがとう。それじゃあ……さよなら」
『……さよなら』

葬送語り

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