神話のふるさと宮崎のとある秘境、持田古墳にて。
戦後そこから一つの鏡が発掘された。
のちの日神降臨器、アマテライザー(天照伊弉)の現物である。
その鏡は魏から授けられた卑弥呼の鏡とされコレクターの間を通じ
総合博物館へと収蔵されることになる。
その鏡は、日本各地より出土する卑弥呼の鏡と異なる点があった。
一つの刻まれた、不可解な点。それは(歴史にあるはずのない年号)が鋳造されていることであった。
邪馬台国が存在していた時代、倭国(卑弥呼の支配した当時の大和)は海外からの力の後ろ盾をもらうため、魏と交易をしていた。
海外と交流することで自国へ様々な支援を受け、国内での権威強化を図ったのである。
古代魏(中国の年号)は本来、景初3年までである。3年の際、魏の王はこの世を去り、景初という時代は終わる。
その鏡には、その年号について景初(4年)と彫り込まれていた。
誰がいかなる理由で埋葬したか理解に困るような、幻の鏡。
学者の間では、景初4年はあったとか、解釈の問題、日本製で、中国の物ではないという意見も当然出た。
存在しない年号は、当時国内の学者たちを驚かせ、驚いたのは大善も同じであった。
まるで存在しない歴史、別の時空へ・・・。
こことは異なる世界(並行世界)とこの地上を決定的に二つに分かつ鏡のような・・・。
戦争から帰還したテルヒコの祖父、大善はそれが海家に伝承されていた秘宝とされる
神の鏡ではないかと考えていた。
鏡は伝承においては本来日奉神社に存在すると言い伝えられていた。
だがその本来の現物は神社内にはどこを探しても現存しておらず、その鏡は戦国時代の神社再興時以前には戦火により失われたものだろうとも言われていた。
書によれば戦国時代、橘家の祖先により神社を再興、伝承が編纂されたと伝わる。
神社には神鏡を模したレプリカのご神体があり、大善が子供の頃はそれが一応の神社の伝承を象徴する宝(カタシロ)とされていた。
大善(当時24歳の青年)は、ある日夢を見た。
「・・・・ここは、あれは・・・。(大善)」
皇室(万世一系とされる天皇家)の祖、天孫ニニギノミコトが天界より降り立ったとされる山の頂上、
高千穂の峰(たかちほのみね)。山頂には宝剣エクスカリバーの如く、天の逆鋒(さかほこ/ぬまほこ)が天をめがけ突き刺さっていた。
※伝説にて、"地上を統一した後ニニギノミコトは二度と剣が振るわれぬことを願い
この山頂に鉾を逆さまにつき刺したとされている"(※ニニギは十種神宝に関係するニギハヤヒの弟にあたる)
※イザナギとイザナミが天より地上を形成する際使用した沼鋒ともいわれている。
雲海・・・・・。それから下の景色が何も見えない完全な乳白色、その場所そのものが高天原(たかあまはら)であるかのような光景。
大善は山中の白い煙の中で、一人ぽつねんとサカホコを見上げながら、鉄骨で守られたその剣の前に立っていた。
空を見上げると、なにやらスウッと人の顔が見える。
赤い唇に、大きな濡れた瞳。張った長いまつ毛。
その人物。女の顔がグラデーションとなり、かすんだ空一杯に浮かんでいる。
女はこちらを見ている。
大善は一瞬で夢の意味を読み取った。
「この人物(じょせい)は・・・・・・!」
驚き空を見つめていた大善(かれ)に、その女神は告げた。
「それ(サカホコ)を、取れ。」
バッ!
目が醒めた・・・。
その翌日、大善は例のその古墳(鏡の出土した場所)に
なにかに憑りつかれたがごとく早足で到着していた。
「・・・・・・・・・・・・!(大善)」
その夢を見てからというもの動揺も何も、言葉はなく、突き動かされているかのような
行動が意識の決定などより先にある体であった。青年大善の行動は感覚を越えていた。
ゴッゴッゴッ!(石仏を彫り刻む音)
「・・・・・・おまえ、また来たか。(石像を掘り続ける老人)」
鏡の出土したその古墳で、もう5年となる。その老人(清吉)は、その場所に住居を構え、黙々と
ただ一人何も語らぬ寡黙な顔で、その石造群を掘り続けていた。
巨大な天照大神の像、スサノヲの像。風神そして雷神・・・。
まるでスフィンクスやモアイのような、巨大なロボットのような・・・
巨大な方形の八百万の神像が無数に建造される不思議な空間となった古墳-。
なぜ、彼はこんなものを造ろうとしたのか。
実質この石像たちが出来上がるのはこの先十年後であった。
石像といっても、よくあるタイプの神社に奉納されるような小さいものではない。
それは巨大なもので、アマテラスだけでも10メートルはゆうに超えていた。
近隣の住民は一切彼が石像を掘る理由を知らず、信心深い住民や子供が時折やってくることをのぞいて
その時ここに来たのは大善くらいであった。
※テレビ版第1話でテルヒコがやってきた天照の像がここにあたる。
石像によじ登る幼い子がいても、清吉は怒りもせず黙々と仕事を続けていた。
この数年は佐賀県より手伝いに来た仏師も昨年仕事を投げ出し来なくなっており、
よほどこの作業を理解し付いてくることができなかったものと思われる。
その異様な光景。
「あの・・・おじいさん、あなた、なんでこんな所で石像を掘ってるんですか。(大善)」
「・・・・・・・・俺に興味あるとは、お前もよっぽどの者なんだな。・・・・いや・・・(清吉)」
「お前も見たのか、あれを。(清吉)」
「・・・・・・(コクリと頷く大善)」
ぼやけていた老人の眼に、生気が戻ったかのように見えた。
「・・・・・よし、わかった。俺に、ちょっと・・ついて来い。見せちゃる。(清吉)」
清吉は、鏡が出土した古墳、石像の横にあった彼の暮らす小屋に大善を案内した。
そこには、地獄の業火で焼かれる人々が彫り刻まれていた。
"ひところしたひと、かがみ、うつる。"
ひらがなで石像の裏側には、そう彫り込まれていた。
(※閻魔大王の罪人への審判を再現したものと思われる)
整備された延々と続く洞窟の闇のなかを
トロッコでくだる。薄暗い明かりの中を・・・。
それは非現実世界、異界への入り口。地下数十メートルにもおよぶ長い通路に思われた。
通路横に転がる白骨死体。
「・・・・・・・こっから先は、俺でもどうにもなんねえ。ただあの夢を見てから、ちょっと俺もな・・・。(清吉)」
その"謎の啓示"を受けたであろう老人、清吉は一人トロッコに乗り、諦めたかのような表情で砦を後にした。
トロッコが消えた、明かりが消えた今、大善は家に戻る方法がなくなった。
それほどよく掘ったなという器用さで通路は入りくんでいた。
(携帯用のライトをつけた大善)
大善の意識のすべては目の前の扉に向いていた。
その、扉の前には・・・古代神代文字が彫り刻まれている。
※神代文字(漢字伝来以前、神話の時代より存在したといわれる日本の古代文字。記号のような形をしている。)
「・・・・!(大善)」
そこは、(一つのシェルターとしての)天岩戸であった。
鏡の発掘された石室と枝分かれした別ルートにあった地下の扉。
その古墳に課せられた役割を直感した彼は、
扉の前でその文字を読み取った瞬間にその(扉の先)に誘われていた。
そこは何かの不思議な施設のように整えられた空間であった。
板のつなぎ目がわからない鉄板、金属で形成されたフィールド・・・。
分かりやすく表現すると、それこそラボ(研究施設)に似ているが、異質な宇宙船の中のような景色である。
少なくとも大善青年の知る現実世界の中の物質ではない。
そんな世界、部屋の中に彼はいざなわれていた。
無数に広がるガラスの槽のようなものの中に、液体の中多数の人間たちが
クローン人間のように眠っている。数えて30体・・・・・。
よく見ると全員同じ髪形の・・・女性か、いや、おそらくまだこの先の空間に、存在しているかに思われた。
闇に隠れその先の全貌は大善には見えなかった。(この女達・・・同じカオ・・・?)
目を凝らしみると、骨格や顔立ちは異なり別人である。だがその全体的なもの言わぬ雰囲気、
顔の雰囲気がどれも共通し、なんとなく似通っているのだ。このとき大善の背筋に寒気が走る。
すると勢いよく大善の目の前を、無数の全面天井からなにから鏡張りの部屋が出現し、その奥に
鏡を通して左右逆転した美しい白い女の面(かお)が現れた。
凍り付くガラス玉のような女の瞳、その視線は静かにしんと男を捉えていた。
さすがにこの時は大善の心には、疑心暗鬼に満ちた不穏が芽生え始めていた-。
「また逢えましたね。(その女性)」
大善の視線の先にいたのは、先日夢でみた、黒い髪の女であった。
「あなたがその、・・・なのか?!(大善)」
時代錯誤と思しき古代の真っ赤な幾何学的文様の民俗装束らしきものを着たその女性は、
大善を見て微笑んだ。年齢推定30代ほどであろうか、真っ赤な唇に黒い髪。
それを覆う薄暗いトーンの中映る彼女はどこか妖しげな雰囲気を持っていた。
大善のもと歩み寄るその女の額には、第三の眼を模して描かれたのだろうか、瞳のような幾何学のペイントが
細いバンダナのように施されている。(入れ墨か・・・いや、あれは描いているのか。)
その女は静かにその(女たちが眠る)液体に浸されたガラスらしき槽の中から、
勾玉のような形に見える肌色の生物を取り出し、付近にあった布に包み込んで
愛おしげに抱きかかえ、大善に渡した。(これは、人間の・・・胎児か?!)
「蛭児(ヒルコ)だ。(謎の女)」その胎児は体内にいる未熟な姿というよりは、皮膚が乾いて丈夫になり、
ほとんど赤ん坊と同じで生きているかのように思われた。
女が乾いた胎児の額にキスすると、その姿はごく普通の赤ん坊となり、大善の腕の中ですやすやと可愛らしく眠るのだった。
「お前のもとにまた来るのは、8年後だ。(微笑みかける謎の女)」
「あなたはもしかして・・・?!(大善)」
女の姿は光となり、大善の眼の中へ吸い込まれるようなエネルギーとなって突き刺さるように入っていった。
「・・・・(女)」
聞き取れない早口の現代語と思えない言葉、無数の記号と思しき絵図が強烈な電流となりスパークし、
脳裏にそそがれる。「ぅぐっうぉおおあああああああ!!!!(大善)」
強烈な電流。その光と共に見えた世界-。
それは大善青年の予想そして意識をはるかに超える場所からのものであった。
その映像の送り主(女)がかつて見た未来のビジョン(警鐘)。時代がひとつの終わりを迎え、また新しく変わる・・・・。
この先たくさんの命が失われてゆく・・・。
大善(そのおとこ)がみたもの
広大無辺の記録映像(アカシックレコード)のように彼の脳裏に押し込められる未知なるビジョン。
※アカシックレコード=全宇宙のはじまりから終わりまでを収録したレコード盤。
銀河惑星の消失、そして誕生。地上そして海中にはじめて産まれた多くの命、ジュラ紀、白亜紀。
人類の創世と神々の堕天・・・・・失楽園。
映像はそれまで大善が知ることのなかった、想像もつかないものであった。
これまで見たこともない無数の物体、生物と思しき何かが、ブラックホールより大規模な群れを成し出現する。
無機質に大量発生する未確認なるその飛行物体。
実際得体の知れないそれを目にすると、うすら恐ろしい光景として彼には思われた。
宇宙、そして空からこの地上へとやってくる絵(こうけい)。
(紫電改、航空機か?)
その異様な物体をいったい自分は何と表現すればいいか大善はわからなかったが、その
およそ航空機と思しき物体(もの)の軍団が地上へ向け強烈な悪意を抱えた存在であることを直感した。
それを追うように飛んできた、輝く鎧武者のような古代の武人のような真っ赤な巨神がその物体の群れを
剣により切りつけ、撃墜させていく。航空機の中から射出された大量の真っ白い翼を生やした光の軍団と
その赤き武神は戦闘を繰り広げ、無数の光たちが繰り広げる上空での戦争は、第二次大戦から帰還した大善にとって
不思議なシンクロでもって自らの血塗られた戦争体験を同時に想起させてゆく。
それは、神話時代の神々の闘争であった。
「いったいあの敵は・・・・・ともすると、あれは・・天使か?!天使となぜ、あの赤いヤツは闘っているのだろう。
天使でないならば、鬼・・・?」
その中で最も輝く天使。
その一つ・・・グロテスクに輝く黒い邪悪な"マガツカミの祖"へと変異したその天使と
赤い武神は激しくぶつかり合い、光が地上の全てを照らし強大な大爆発が引き起こされる。
世界は真っ白となった。
二体は光の中、海上を突っ切り地平線の果てへと消えてゆくのであった。
「見たことがある・・・・・あれは・・天照皇太神だ・・・・・・(大善)」
その巨神が握りしめ、邪悪なる存在と戦っていた剣が、先日夢の中見た高千穂の峰に刺さっていた
あの天の逆鋒だったと悟った時、
大善の胸のうち、彼を動かしうる決意が産まれた。
(これは密命(ミッション)だ―!)
その直後、彼を見つめるようになぜだか学童期の友(雅也)がこちらを振り向くようにして映った。
その翌日、大善は突如として帰還した。
「ぅあぁあ~~~~~~~~~~~~ぁああああ~~~!!!!(清吉)」
忽然と家の前に立つ大善を見た清吉(先日であった老人)は彼を見つめたとたん、何を思ったか叫び声をあげ
よろけ落ちながら走り去りどこかへと逃げていった。
その8年後、海家に初となる長女が誕生する。
女の子の名を、大善は千里(せんり)と名付けた。
のちの海照彦の母にあたる人物である。