彼はずっとフロントガラスの向こうに視線を
送っていました。

しばらくの沈黙の後、
彼は運転席にいる私の方を向いて、
いつもより低くて落ち着いた声で、

「俺、もう人を好きになるの嫌なんです。
 なのに、気になるんです。
 気になるし、一緒にいたいって思う。」

この言葉を聞いた私は、
ちゃんと受け止めなくちゃと思いつつも…

まさか…という気持ちと
そんなわけない…という気持ちがせめぎ合って
口から出た言葉が、
「だれ?〇〇ちゃんのこと?」

とバイト仲間の女子大生の名前を出すと、
彼はちょっと戸惑ったでも少し怒った顔をして

「あなた」

とだけ言うと次の瞬間、
私は彼の胸の中に引き寄せられました。

pagetop