実は言うと、私の職業はシナリオライターだ。
ゲームシナリオやドラマCD脚本、朗読劇など幅広くお仕事させてもらっている。
最近では漫画原作の仕事もさせてもらい、WEB漫画も連載している。

しかし、売れっ子とは程遠い身分であるため、手元の仕事が無くなる前に未来に向けて営業をかけなければいけない。そのためには常に売り込みができるように手元に企画を用意しておく必要がある。

以前に担当編集との打ち合わせで、次回作は不倫モノはどうか?と提案されていた。
なので、不倫ものを軸に女風を題材にした作品を書こうと思ったのだった。

そうと決まったら、さっそく取材開始。モネくんに2回目の予約を入れる。

2回目の予約は新宿のラブホを利用することにした。
一応、私は人妻の身だ。人目が気になるので、ホテル内で待ち合わせ。

「ゆうちゃん、また呼んでくれてありがとう! すぐに会えて嬉しい」

前回の予約から一週間も経ってなかったので、モネくんは再会を喜んでくれた。

「今日はどうする? ホテルで浴槽大きいから一緒にお風呂入って洗いっこする?」

非常に魅力的な誘い。是非とも、洗いっこしたい。
でも、今日の私は仕事として彼を呼んだのだ。

「洗いっこは……後でする!」

結局、欲望に耐えきれなかった。

「うん、うん。しよう」
「でも、その前に取材をさせてほしいんだ」
「しゅざい?」

モネくんの頭にはてなマークが浮かび上がる。
私は自分の職業と次の作品で女風を題材にした作品を書きたいことを伝え、そのために話を聞かせてほしいと告げる。

「そうだったんだ! 作家さんなんてすごいね。僕で良ければぜひ協力させて」

まずはモネくん自身のことを聞いた。

モネくんは専業としてセラピストを4年もやっているベテランだ。
セラピストの他にも講師として新人の育成や面接もやっているらしい。

「最初は全然売れなかったんだよね。僕、陰キャだし、付き合った経験もそんなになくて。
でも、彼女とエッチなことをするのは好きで、彼女といろんなことを試していくうちにテクニックを身に着けた感じかな」

私の経験上、こういったタイプの方が上手い。
「俺、女性のことイかせるの得意だよ!」と豪語する男とのセックスは自分本位で痛かったりする。

モネくんは元はブラック企業務めで仕事をやめてしまい、この仕事に行き着いたらしい。
セラピストになる上で欠かせないのが「モニター試験」
実際に女性に接客して、合格しないとデビューすることが出来ない。

「結構厳しくて、俺も一回落ちちゃったんだよね」
「そのモニターってのは誰でも出来るの?」
「うん、できるよ。ホームページで募集してるから、取材がてらにやってみたらどうかな?無料だし」

それからSNSの運営など、いろんな話を聞いて、あっという間に時間が経ってしまった。
もちろん、身体の洗いっこはした。それからベッドの上でイチャイチャもしたが、話している時間のほうが長かった気がする。

モネくんも話に夢中になり、ギリギリの時間になってしまったので、駅まで見送る時間はなくて、ホテルのロビーで解散することになった。そして、別れ際のキス。

「こんなとこでキスしちゃったね♡」

心の中で可愛いかよ、と思いながら私は駅に向かっていく。

この時の私は完全に仕事モードだったせいか、キスに対してときめきも感じなかった。
今回は取材がメインで、ほとんど性感もしてなかったからかもしれない。

モネくんは見た目もタイプだしカッコいいと思うけれど、特別な感情なんて抱くこともなかった。相手はプロで、私は客。それ以上、以下でもない。

でも、今思えば、セラピストと客なんて、これくらいの距離感でちょうどよかったのかもしれない。

だって、この時までの私は120分の利用で満足できるライトユーザーだったから。

セラピストに依存して、大金を使って借金をして、挙句の果てに仕事も手につかなくなって、心療科に通うまでになるとは思わなかった。

それはまた先のお話。

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