-花世さんの墓地-

英太が懐中電灯を手に持ち、周りのお墓を順番に照らしていく。その後ろから、綾と美奈が恐る恐るついてくる。

「ないな…ここにもない…」
英太が、照らした先のお墓をじっと見て、ハンカチがない事を確認する。

「ねえ、あの噂って本当なのかな」
美奈が英太に話かける。

「それを確かめに来たんだろ」
不機嫌に返事をする、英太。

「私、本当だと思う…」
綾が小声で呟く。

「なんでそう思うの?」
すかさず、美奈が早口で綾に尋ねる。

「だって、隣のクラスの竹井君が死んだ理由ってこの墓地に来て花世さんのハンカチを取ったからだって…」
綾が、泣きそうな声で答える。

「やっぱり帰ろうよ。さっきからなんかゾクゾクするし…」
綾が後ろから、英太のシャツを引っ張る。

「帰りたけりゃ、1人で帰れよ。俺はハンカチ見つけるまで、絶対に帰らないからなっ!」

3人がゆっくり前に進んでいくと、遠くの方に、うっすらと白い人影のようなものが見え隠れする。

「ねぇ、あそこ見て」
綾が、震えながら白い人影の方を指差す。
焦りながら、英太が懐中電灯のボタンをカチカチと何度も押すが、全く灯りが点かない。

「クソッ!」
イライラして、懐中電灯を近くの墓石に投げつける、英太。

「ちょっと!そんな事したらバチ当たるかもしれないわよっ!」
慌てて、美奈が英太を怒鳴る。

「バチなんか当たるもんかっ!」

「本当に知らないわよっ!」

「あっ!また…」
綾が遠くにさっきの白い人影のようなものに気づき、美奈の後ろから口を挟む。

美奈が慌てて、英太の肩をバンバンと叩き、人影の方を指差す。

「あれって、もしかして…」

綾が代わりに、自分が持っていた懐中電灯で美奈の指差す方を、震えながら照らすと、ボワ~ンと人影が消える。

「…やばいよ…もう帰ろうよ…」
か細い声でシクシク泣き出す綾。

「ここまで来て、何言ってんだよ!
大体お前らが肝試ししたいって言ったんだろうがっ!」

「…そうだけど…」
英太と綾の様子を伺いながら、戸惑う美奈。

「その懐中電灯、貸せっ!俺が真相を確かめてやる!」

「ちょ、ちょっと!やめときなって!」

美奈が引き止めるのも気にせず、綾から懐中電灯を無理矢理奪い、消えた人影の方へ走っていく英太。

「もう!あいつ、大丈夫かな…」
段々と小さくなっていく、英太の後ろ姿を心配そうに見守る美奈。

「ねぇ…知ってる?」
シクシク泣きながら、美奈に話しかける綾。

「な、何がよ?」
|恐々《こわごわ》と返事をする美奈。

「なんで、花世さんのハンカチが、赤いのか…」

「…知らないけど?」

「本当はね、花世さんのハンカチって、元々は白かったんだって…」

「そ…そうなの?…」

「花世さん…結婚式の前日に、結婚が破談になってね…」

「え?なんで…」

「相手の男の人にね、花世さんの他にも付き合っていた人がいてね…その女の人のお腹にね、赤ちゃんがいたのが、分かったらしいの…」

「そ…そうなんだ…」

「それがショックで、自殺する時にカッターナイフで手首を切って…
…手首から流れ出る血のせいで…
白いハンカチが…赤く染まったんだって…」

「わ、分かったから、もうやめて…」

美奈、両手で綾の声が聞こえないように耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込む。

英太が走って行った方から、懐中電灯の灯りが何度も点滅し、こちらへ合図を送っているかのように見える。

「あ、英太かな…
…何もなかったんだ…良かった…まさか、ハンカチ、取ってないよね?花世さんのハンカチ…
てゆうかさ…綾、なんでそんなに詳しいの?」

ほっとして、美奈が後ろを振り返ると、
地面の上で気絶している綾に気づく。

恐る恐る美奈が見上げると、そこには血に染まった白無垢姿の長い髪の女が立っている。
そして、美奈の顔を見下ろして、こう言った。

「…だって……私が…花世だから…」
          

                
    
          

                
    

花世さんのハンカチ

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