今日はクリスマス。

しんしんと降り積もる雪が街を白く染める。

百貨店に飾られた、巨大なクリスマスツリー

を、幸せそうに見つめている恋人達。

おもちゃの人形がひょっこり顔を出した大き

な紙袋を手に提げた母親と、手を繋ぐ笑顔の

幼い少女。

 楽しそうな人達をよそに、私の心はどん底

だった。

3日前、私は最愛の相棒を亡くしたのだった。

ずっと元気で一緒にいる事が当たり前だと思

っていた…

忘れもしない、ベガが我が家に来た15年前の

クリスマスも今日みたいな、粉雪が降ってい

た。

       -15年前-

    《近所のペットショップ》

 ゲージの中で、額に痣のあるシェパードの

仔犬が前足で壁をガリガリ掻きながら、外に

向かってクンクン鳴いている。

体毛はまだ短く、耳はピンと張り、目の周

りが真っ黒で、まるで……

「この犬…狸みたい…」

ガラス戸に張り付いて、狸のような仔犬を

じっーと見ている小学生の深雪が呟く。

すると、隣にいた母親の良子が、仔犬を見

てクスッと笑う。

「本当に狸みたいね、この子」

深雪の両手には小さなブタの貯金箱。

今すぐにでも外の世界へ飛び出したい気持ち

で鳴いている、シェパードの仔犬。

隣の檻の中では、柴犬のパピーが気持ち良

さそうに鼾イビキをかきながら、すやすや眠っている。

物言いたげな表情で、ゆっくりと良子の顔を見上げ

る深雪。

「深雪ちゃん、どうしたの?」

小さな、悴んだカジカンダ手で、ブタの貯金箱を良子に差し出

す深雪。

「お母さん。このお金でこの狸みたいな犬、

飼いたい…」

「あらあら、だから出かける時にあんなに慌

てて貯金箱を持って来たのね…」

顔を少し赤らめて、コクリと頷く深雪。

「そうねぇ。お父さんは、なんて言うかし

ら…」

「お父さんも犬好きだから、よろこぶと思

う…」

少し困った顔の良子。

「でもね、深雪ちゃん。生き物を育てるって

とっても大変な事なのよ。食事の世話はもち

ろん、散歩にも毎日連れて行かないといけな

いし…」

「早起きして、深雪が散歩に連れていく!」
     
むきになり、その場で駄々をこねる深雪。

「病気になったら獣医さんに診てもらわない

といけないし…」

「病気になったら、深雪がじゅういさんの所

に連れて行くからっ!」

 泣きながら良子のコートの袖を左右に引っ

張り、その場で地団駄ジダンダ踏む深雪。

「だって同じクラスのかっちゃんが、ペット

ショップの動物は売れ残ったら、みんな殺さ

れるって言ってたもん…」

 良子のコートの裾を掴みながら、わっと

泣き出す深雪。

一部始終、様子を見ていた店員がゲージの鍵

を持ったまま、慌てて深雪に駆け寄る。

「良かったら、抱っこしてみる?」

店員の顔をゆっくり見上げて、笑顔になる深

雪。

「この子、額に痣があるから、なかなか売れ

なくてね…でもね鼻がとっても効くし、耳も

他の子に比べてとってもいいから、きっと、

どこかで役に立つかもしれないわね」

 その場を取り繕うように、ゲージの鍵を開

けて、ゆっくりと仔犬を連れ出す。

仔犬を間近に見て、嬉しくて貯金箱を床に投

げ出し、早く抱かせてと言わんばかりに目を

輝かす深雪。

「そーっとね」

「うん」

店員がゆっくりと仔犬を深雪に預ける。

心配そうに見守る良子。

深雪に抱かれた腕の中で、ペロペロ深雪の顔

を舐める仔犬。

「はは…くすぐったいよ」

深雪の嬉しそうな顔を見て、良子も笑顔に

なる。

少し考えた後、「あの…」

「はい?」

「この子…いくらですか?」

「ありがとうございます!お買い上げです

ね!すぐに準備致しますので、このままお待

ち下さい!」

急いで、レジの方へ戻っていく店員。

「お母さん、飼っていいの?!」

「あんな嬉しそうな顔されたら、飼わないわ

けにいかないでしょう?」

「やったぁ!お母さん大好き!!」

 仔犬を両手いっぱいに抱きしめて、踊り出

す深雪。

「良かったねー狸さん。狸さんはどんな名前

がいいですか?」

 今度は両手で仔犬を精一杯高く、抱き上げ

ぐるぐる回り出す。

「バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」

 嬉しそうな深雪と仔犬を笑顔で見守る

良子。

第1章:宇宙からのプレゼント 第1話:出会い

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