愛知県の知多半島の北西部に位置する潮風が香る町、知多市:美浜町。そこには地元住民から親しまれる魚屋さんがあった。
その魚屋の名は「魚屋-うみかぜ-」。家族経営の魚屋である。店主:海風槍一郎《うみかぜそういちろう》は、海生まれ、海育ちの筋骨隆々の元海軍であり、槍術というこれまたマイナーな武術の師範として道場も開いている。
「よろしくお願いします!」
「かかって来い、息子よ!」
槍一郎は、その場に留まり、槍を構え、息子の攻撃を待つ。
強者故の風格か、息子は体中に緊張が走り踏み込もうにも踏み出せなかった。
「すぅーーはぁー。」
その緊張を解くように、息子は一度深呼吸を行い、再び槍を構えて父親に向かって距離を詰める。
距離を詰めた息子に対し、槍一郎は動かぬまま構え続ける。
「ボケたかオヤジ!このままいけば当たるぜ!」
槍一郎が息子の槍の間合いに入り、息子は思いっきり槍で突こうと体勢を変える。
「ふっ、誰が当たるって?」
槍一郎は息子の突きを海蛇のような滑らかな動きで交わしながら、息子に胴の胸当てを突く技、胸突きを入れる。
その突きと、槍一郎による馬鹿力で息子は道場の壁に吹き飛ばされる。
「有効打突、勝負あったな息子よ。」
「いててて、手加減しろよオヤジっ!」
「あっ、済まない槍太!」
槍一郎は我に帰ったかのように息子に駆け寄り、安否を確認する。
「悪いな槍太、これでも手加減してやっているんだが。父ちゃん、槍を使うとどうしてもな?」
「それは分かってるって、御年45歳の父親が18歳の息子をぶっ飛ばすほどの筋肉馬鹿ってことは。でも悔しいな、あともうちょっとで、当たりそうだったっつーのに。」
槍太は悔しそうに槍一郎の方を見る。
「そう悔やむな、あの突き海で鍛えたものだろう?いい速度をしていた。父ちゃんじゃなければ避けきれなかったぞ。」
「本当!?」
「ああ、本当だ!父ちゃんは嘘はつかないんだぞ。」
「ちょっと!貴方達、何ドンドン音を立てているの!?」
道場の引き戸を勢いよく開けて入ってきたのは母親だった。
母親の海風鞠亜《うみかぜまりあ》は、容姿端麗の外国人である。旅先で、チンピラに絡まれていたところを助けられ、それ以降、槍一郎に猛烈なアプローチをし、無事結婚を果たす。
その時に染めていた髪色である水色に今でも髪を染めており、あの時の事を忘れずに鮮明に覚えておくためにだそうだ。何ともロマンチックな話だ。
「どったの、かーちゃん?」
「どったのもありません!また、道場で暴れて怪我でもしたらどうするの!?」
「大丈夫だってマリア、槍太は昔から丈夫だもんな、な?」
「そうだぜ、かーちゃん、心配しなくて大丈夫。俺、昔から怪我治るの早いんだぜ?」
「だとしても限度ってものがあります!それと槍太、今日は漁行かなくてもいいの?」
「えっ!?そうじゃん今日納品の日じゃん、漁行ってくる!」
「いってらっしゃい。」
「気をつけて行くんだぞー。」
「はーい!」
俺は、急いでダイビングスーツを着て、諸々の荷物を防水リュックに入れ、小さな小船で海へと向かった。
目的地に着き、小船に入れていたモリを準備して俺は深く息を吸い海に潜った。
そう俺の家族の店の商品は俺が海の中で厳選しモリ突きにて仕留めた大物達が並ぶ魚屋なのだ。
始めたきっかけは、友達の漁師が仲間内で、モリ突き大会を開いたが、いかんせん人数が多いほどいいとのことで、参加させてもらったからだ。
朝早くに起きて、ダイビングスーツを着てモリを持ち海に潜った。そこで見た景色はとても美しく、俺は「これだ!」と確信した。趣味で秘境渡りをしてきたが、これほどまでに近く、そして実感できるような景色は見たことがなかったからだ。
それから俺はモリ突き漁師になるため、様々なことを勉強し、見事にモリ突き漁師につけた。
モリ突き漁師になるためにはその地域での許可とか諸々が必要なんだが、両親共に町の人たちからの印象は良いのですぐに許可してくれた。
俺は海中の景色を堪能しながら、大物を探す。
しばらく身を潜めていると見慣れない魚が泳いでいるのを見た。
「何だあの魚?ここらの海じゃ見かけないよな、もしかして新種の魚か?」
俺はその魚を突こうと近づくと。
突然目の前に渦潮が現れた。
「なんで、こんな予報なんてなかったのに!」
初めて海に出て自分の死を感じた。
俺は必死にもがいて、小船に上がろうとするが、それも虚しく、小船と共に吸い込まれるように渦潮に流されてゆく。
俺の意識が薄れ、遠のいていく。
ふと意識が戻り始めた、あれから何日経ったのだろうか?
自分は確かモリ突き漁をしている時に海流に流されて、死んだと思っていたが、どうやら違うらしい。
ただよう甘い香りと慣れ親しんだ海の匂い、そして膝枕でもされているのか、少し頭が上がっている感覚でしかもひんやりとしていて柔らかい感触。
目が覚めた時、俺は驚愕した。
目の前に映るはビーチそして、下半身魚、上半身人間、髪は青のくるりんぱの人魚だった。
「大丈夫ですか?」
「おっ……おう、大丈夫です。」
何がどうなってんだ⁈俺は海流に呑まれたはずなのに生きてる⁈
俺は咄嗟に立ち上がり、人魚から距離を離す。
「よかった、心配したんですよ!浜辺に倒れていたんですから!」
「気を使ってぐださり、ありがとうございます!」
「あっ、いえその気にしないでください。その何と言いますか、体が勝手に動いちゃったというか。」
と人魚は少し頬を赤らめながら言っていた、膝枕をしてたからだろうか?反応いいしカワイイ!
「もしかして、あなたは槍使いですか?」
「へ?」
「その槍あなたと一緒に流れてきたんですよ。」
人魚は渦潮によって破壊されたであろう小船の残骸を指差す。どうやら防水リュックも一緒に脱がれ着いているようだった。
「あの俺はただのしがないモリ突き漁師ですよ。」
「漁師さんだったんですね、どの辺りに住んでいらっしゃるんですか?」
「あ、愛知県です。」
「あ…いち?」
やっぱり、今ので確信が着いた、ここは異世界だ!
「どうかしましたか?」
「いいや、なんでもありません。」
とりあえずここら一帯の地形把握と、村探しだな。ここは異世界なのだ、情報は早めに処理してかなくちゃ。
「地図とか持ってませんか?」
「あ、はいありますよ。」
「ありがとうございます、もしよかったらこの地図くださいませんか?俺ちょっと迷子になっちゃったぽいので。」
「いいですよ。」
「そういえばまだ名乗ってませんでした、俺の名前は……俺の名前は海風槍太《うみかぜそうた》。よろしく!」
「私はマナといいます。ソウタさんよろしくお願いします。」
「よろしくお願いしますマナさん。ところで、ここら周辺に村とかありますか?」
「村なら、私たち人魚たちの小さな集落ならありますけど、そこでもいいですか?」
そう言って彼女は、渡してくれた地図を広げ指を指した。
今いる場所は、ランド大陸の最南端に位置する島"人魚島" のムールビーチという場所で、この人魚島は名前の通り人魚が住む島だそうだ。そしてここから少し先にマナさんの集落があるとのこと。
そして、驚くことにこの世界の人魚、立てるのだ!
正確に言えば、人魚は水の内外で姿が変わるそうで、俺と会った時は、海で遊んでいた所打ち上げられでいる俺を助けてくれたので、陸であることを意識してなかったそう。
「さぁ、行きますか。」
「ハイ!」
俺は荷物を回収してマナさんの隣後ろを歩きながら集落に向かった。
「ソウタさんは、今までどんな魚を獲ってきたりしたんですか?良かったらその話聞かせてください。」
「そうだなぁ、きんめd」
やっべ、この世界に鯛とかいるのかな?もし仮に居ないとしたら、ただのヤベェ奴になってしまう!?
流石に「俺異世界から来ました」とか言われても信じてくれるかも怪しいし、何よりこの世界自体が俺の幻想かもだし…
「ん?きんめなんです?」
「いやぁ、ちょっと思い出せませんね。頭でも強く打ったのかなぁハハハ。」
「そうだったんですね、また記憶が戻ったら教えてくださいね!」
とキラキラと目を輝かせてマナは言った。
そんなこんなしているうちにマナさんの集落にたどり着いた。
ギリシャのサントリー島の街並みのような白と青の建物が並び、集落というか一つの町に見え、夕陽と噛み合いって、とても美しい。
「とりあえず宿屋に行きましょう。店主さんには事情を話しておきますので、今日はもう夕方ですし、明日この集落をご案内しますね。おやすみなさい。」
「ありがとうございます!楽しみにしてます、おやすみなさい。」
よっしゃ!とりあえず宿屋は確保できた。明日マナさんが集落を案内してくれるみたいだから、明日までに色々準備しなくちゃいけないな。
そして俺は店主に案内されて部屋に入った。
「とりあえず今の持ち物だけ確認するか。」
防水リュックから荷物を取り出して並べてみる。
替えの服上下1セット、スマホ、充電ケーブル、携帯式の小型ソーラーパネル、メモ帳、そしてモリ一本とマナさんが渡してくれた地図一枚。
スマホを色々試して見たが、電波は繋がらず動画サイトなどもサービス終了状態になっていた、これからは思い出を残すためのカメラとして使っていこう。
そして俺は今一つ気掛かりなことがある、異世界来たんだから何かしらツヨツヨスキルだったり、バフなどがあるはず何だが、今のところそれらしいことがない、適当になんか言ってみるか。
「ステータスオープン!」
しかし何も起こらなかった。
やはりダメであったツヨツヨスキルだったりは諦めよう。
今日はもう疲れたし、寝よう。
そして俺は眠りについた。