「今日限りで勇者パーティーを抜けてもらう」僕、アイクは魔道士を追放した。何故仲間を追放するのか。それはこいつが無能だからだ。支援魔法、バフと呼ばれるものを俺にかけろって言っているのに、こいつはデバフをかけやがる。これが駆け出しの初心者や3回ぐらいなら許そう。だけど毎回デバフをかけられるのは無能以外なんていえよう。俺はまだこいつのバフを受けたことがない。どうせ追放した後に俺が弱くなるとか言うんだろ?すでにここまでに56人の元仲間を追放したが、何も変わってはない。君で57人目だ。おめでとう。ちなみにこの勇者パーティーで一番長生きしているのは剣士のドラークだ。かれこれ3年はいる。「早く荷物まとめて帰れ」魔道士は残念そうに出ていった。「誰でもかんでも入れるからですよ」ドラークが呟いた。「人手不足だし」小声で返す。ドラークは溜息をつくと呆れたように言った。「いい加減まともなの入れてくださいよ」「ドラーク、お前もまともじゃないがな」そう、ドラークはまともじゃない。無能ではなく、有能過ぎるんだ。一振りで魔物の大群を一瞬で屍の山と変えるのだ。そんな感じなので、綺麗に切るなんて芸当が出来るはずもなく、素材が全てゴミに変わるのだ。有能過ぎて逆に、無能になっているのだ。「ドラークは加減ってものを覚えろ」「加減?あぁ、火加減ってことか。俺は少し焦げた方が美味しいと思うがな」ドラークにはもう1つ欠点があり、馬鹿だ。戦闘時の立ち回りなどは一流と言ってもいいが、普段に関しては本当に役に立たない。この宿にもどれくらい居られることやら。ゆっくりしようとベッドに座った時だった。ドアを叩く音がなった。「ここは勇者パーティーの部屋で間違ってないでしょうか」ドアの向こうから礼儀正しく、清楚な声が聞こえた。「入ってもいいですよ」扉がゆっくりと開くとそこに現れたのは綺麗な金髪の髪に、黒い魔導服を着た少女だった。見惚れるほどの美貌と清楚な雰囲気が漂っていた。後、胸がデカい!「役職は?」僕が彼女に問いかける。「アルバトロス・レーイン。19歳。大体の禁忌魔法は使えます!」うん、めっちゃ不安な子が来たもんだ。アルバトロス家の次女か。アルバトロス家はこの国の公爵家。大貴族の1つだ。粗相なことをしたら首が飛ぶ家だ。そこだけでも不安なのに、禁忌魔法とか言ってるし。禁忌魔法ってあの禁忌か?禁忌魔法。王国が極秘に保管している魔法や、教会が封印した魔法のことを指す。封印理由や保管理由は様々だけど、全部やばい。「とりあえず実力を見ないと分からないからな、外にいこう」ただの嘘であってくれ。
――エロフト郊外――。
さっきまでいたエロフトの郊外にある大高原。人も少なく、見通しも良い。少女は魔法陣を地面に展開しだした。「危ないので離れていて下さい」なんて優し……違う。絶対近寄ったら死ぬやつだ。魔法陣を見ると、びっしりと書かれた古代文字。普通の魔法陣はこんなに書き込まない。まじで禁忌魔法か、と思っている自分がいる。相当な距離を空けて僕達は見守る。一応バリア(簡易)を貼っとくか。「もうすぐ発動しますよー」大声で僕達に注意喚起する少女。掛け声と同時ぐらいに雲まで届くであろう超巨大な魔法陣が展開された。「一番威力が弱いので大丈夫ですよ」僕は必死に止めに入ろうとするが、「これが一番威力の弱いやつなんですー」と返ってきたので二重にバリアを展開した。演唱の時間に入ると少女は持っていた杖を足で2本に割り始めた。普通、杖は魔道士の命と同等のものとされているのでこんなことをするやつは職人ぐらいで、魔道士はしない。杖を両手に持ち、演唱を始めると、杖に文字が浮かび上がっていく。演唱は何言ってるか聞き取れなかった。そして演唱が終わり、遂に発動する時が来た。好奇心なんてものはなく、弁償のことしか頭になかった。城壁の修理代って王様から支給されないかな。「アナイアレイション!」一筋の細い黒い光が地面に刺すと、爆発の轟音と爆風が辺り一面に響いた。バリアは破壊されなかったが、爆風だけでヒビが入った。「大丈夫か?」近くに駆け寄るとレーインは無傷で立っていた。「おい、アイク」「なんだドラーク」黒い光が刺した場所を見ると地面がえぐれており、地層が見えるほどの深さがあり、着地地点であろう底は溶岩となっていた。僕は思った。これはアカンやつだと。こんな威力の技、普通の冒険で使えるか!これで一番威力が低いんだろ?可愛いし、胸が大きいから採用!「ドラーク、この子仲間にしよう」「正気か!?こんな危ないやつ仲間にするのか!?」「お前より(体のスペックで)いくらかはマシだ!」「そ、そんな」まぁ危ないことには変わりなく、この子に魔法使わせる場面が無いようにしないと……。