自分は居酒屋を経営しているのですが、職業柄、とんでもない人間とよく遭遇します。
　
　しかし、その大半がお客として現れた厄介客なのですが、たまにですが客以外にもとんでもない人間と遭遇することがございます。

　それというのが、新聞勧誘の男達です。

　十年以上前に遭遇したとんでもない人間、いえ、クズ男と呼ぶに相応しい方々でした。

　事の発端は十年前、店の開店準備をしていた時に起こりました。

　いつもの様に仕込みをしていると、開店準備中にも関わらず二人の男が店に入って参りました。

　自分はまだ開店準備中ですので、開店時刻になりましたらまたおいでください、と告げたところ、二人の男は自分達は客ではない、と返してきました。
　
　では、彼等は何者なのだろうか？

　一人は６０代くらいで、もう一人は２０代後半くらいで二人ともスーツを着用しておりました。

　すると、前に出ていた６０代くらいの男性が、自分は●×新聞の者だ、と名乗ってきました。

「ああ、新聞の勧誘か」と思い、お話をお伺いしようと思って包丁を置き、応対しようとした時にそれは起りました。

　あの時のことは今でも忘れることが出来ません。

　６０代の男性━━以後、クソ爺━━は、何故か分からないのですが、素性を明かした後、開口一番、いきなり自分にこう怒鳴りつけてきたのです。

「この辺に住んでいる奴らはクズだ！　人でなしだ！」と。

　なんだ、なんだ⁉　と内心パニックになり、これはヤバい奴がきたもんだ、と思いました。
　クソ爺はこう続けて来ます。

「オレ達はこの近辺で新聞の契約をお願いして回っているってのに、誰一人契約してくれやしない。ほら、見ろ！　こいつは今日、十件契約しないと首になるのに、まだ一つもノルマをクリアしていないんだぞ⁉　てめえ、可哀想だとは思わないのかよ⁉」

　そんなの知ったこっちゃないとしか言いようがないというか、何と言うか。
　尚もクソ爺のターンは続きます。

「おい、いいか？　今からオレの話すことをよく聞いて考えろ。もし、お前が新聞を契約してくれたら、これがきっかけで常連客を一組得られるかもしれねえんだ。お前は売り上げがアップする。オレ達は契約を得られる。どっちにとってもメリットしかないだろう？　だから、とっととハンコを持って来るんだ」

　私は逡巡後、すぐに答えが出ました。
　うん、こっちにはデメリットしかないや。というか、こ奴らが自分の店のお得意様になるかも、ですと？
　はい、絶対に嫌です！！！！！！！！！！！

「帰れ」

　自分は笑顔で拒絶の言葉を口にしました。

「だから！　一回くらいは飲みに来てやるかも、って言ってんだろ⁉」

「というか、貴様らは出禁です。二度と来ないでください」

　まさか客以外の人間を出禁にすることになろうとは、この時まで思いもしませんでした。
　ちなみに、初の出禁通告でした。

「もういい！　こんなにお願いしてやっているのに、お前達なんか地獄に落ちてしまえ！」

　クソ爺達はそう捨て台詞を残して店から出て行きました。

　しかし、この時、自分は怒りよりも、とある疑問が頭に浮かびました。

「それはお願いじゃないし、そもそも頼んでいないのですが？　それと、その営業スタイルは何処で教わったんですかねぇ？」と。

　ちなみに、ここで一つうんちくです。

　一度新聞の勧誘を断られた従業員は、二度と同じ家に行くことは法律で禁じられているそうです。

　皮肉なことに、その知識を教えてくれたのが、常連客でもあった●×新聞店の店長さんだったりします。

　もちろん、こういった輩が現れやがったよ、とクレームを入れましたが、どうやらそ奴らは本社の社員だったらしく。知り合いの店長さんではどうすることも出来ないそうです。その説明もなんだかな、とは思いました。

　結局、この一件が原因で店長さんは顔を出しずらくなったのか、二度と飲みに来ることはありませんでした。それだけがちょっと残念でしたかね。

　以上が自分が遭遇した厄介客以外のクズ男のお話でした。