目を開けるとそこはうすら寒い倉庫だった。見回すもここがどこだか皆目見当もつかない。冷える身体を擦ろうにも後ろ手に縛られなす術もない。
すると、誰かの靴音が聞こえてきた。背の高く、スタイルのいい影が徐々に見え始める。その人は、何かを手に持っていた。姿が露わになって、私は震えた。私を真っ直ぐに見つめ、近付いてくるのは鞭を持った執事ではないか。自分の置かれた状況が意味するもの。それは、シナリオ回避の失敗だった。
彼はヒロインに恋焦がれて闇落ちしてしまうラスボスだ。そして私はラスボスを虐め抜いて真っ先に残虐な死を遂げる悪役令嬢。執事と出会った時に前世の記憶を取り戻した私は最悪の死を回避するために、彼の手首に枷を付けた。主人に手を出せば死ぬ魔法のかかったブレスレットだ。公爵令嬢である私の私財を全て投げ打って手に入れた代物だった。私は彼に付けられたブレスレットを撫でながら囁く。
「これで貴方は私のものよ。誰よりも愛してあげる」
前世の私の推しは何を隠そうこのラスボスなのだ。私の言葉は本心であり願望だった。精一杯愛でて、愛したい。ブレスレットはもしものための保険だった。しかしその保険も、ラスボスには効果がなかったのだろう。彼の手首にはあのブレスレットはなかった。
「ブレスレットをお探しですか?お嬢様」
私の視線に気付いた彼はくつくつと笑う。
「貴女の手首にお返しいたしました。これで貴女は僕のものですね」
背筋が凍る。このままではシナリオ通り、悪役令嬢の末路を辿ることになる。私は距離を取ろうと芋虫のように床を這ったが、抵抗虚しく彼に脚を掴まれてしまった。
「もうその足を折ってしまいましょうか」
彼はもう片方の手を私の顔の前に翳した。淡い光を纏った彼の手は、残酷なほど美しい。あれは魔法だったのだろう。突如視界がぼんやりと霞んでくる。逃げなければ、と思う私を嘲笑うかのように彼は笑みを浮かべて何かを口にした。
「愛していますよ、お嬢様」
Fin.
★以下の診断メーカー様よりお題を頂戴いたしました。
診断メーカー『ヤンデレしかいない異世界から現実世界に帰りたい!』(https://shindanmaker.com/a/579516)
【からすみ】
目を開けるとそこはうすら寒い倉庫だった。
と、誰かの靴音が聞こえてきた。鞭を持った執事だ。
「もうその足を折ろうか」
突然視界がぼんやりとしてきた。逃げなければ…