どうしても貴女を手に入れたくて、僕は最低な方法を選びました。

「……どうして……?」

 何故お前がここにいるのか、と驚いた顔で僕を見つめる高貴な女性。髪は乱れ、涙で化粧がぐしゃぐしゃの彼女は僕のご主人様だった。けれど彼女の婚約者は彼女を断罪した。婚約者である皇太子殿下を愛するあまりに、彼女は一線を越えてしまった。殿下が寵愛する平民を虐め、陥れたのだ。国外追放を言い渡され、国境にある深い森に身一つで置き去りにされた可哀想な可哀想なご主人様。僕はずっとずっとこの時を待っていた。

「申し上げたではないですか。僕はずっと貴女のお傍にいますと」

 何を勘違いしたのか、ボロボロと泣き出す彼女に僕は手を差し伸べる。

「貴女の高貴さを理解できないこの国など捨ててしまいましょう」
「……ええ、そうね」

 僕の手を取っておきながら、未練の残る眼差しが王宮に注がれる。内心舌打ちをしながら、僕は笑みを浮かべる。

「さあ、行きましょう」

 向かうは僕が用意した『愛の巣』だ。





 ここが前世に妹がプレイしていた乙女ゲームの世界であると気付いたのは、悪役令嬢であるご主人様に出会った時だった。前世では彼女の容姿や意地っ張りで愛されたがりな性格に胸を打たれ、妹と一緒にゲームをプレイするほど入れ込んだものだ。だから彼女がこの先待ち受ける悲劇を防ごうと躍起になった。しかし、一介の執事が出来ることなど何もなかった。ならばこれを利用する他ないだろう。彼女が傷付いて打ちひしがれている時に手を差し伸べる。彼女のぽっかりと空いた穴に入り込むのだ。
 彼女が隣国へと歩き出す。彼女を断罪したあの国に背を向けて。そうしていつか、彼女の空いた穴が僕で満たされますように。

Fin.

皇太子ルートを待っていた

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