世界は私を中心に回っているのだと信じて疑わなかった。その軸がズレることなどあってはならないし、許せなかった。
好き勝手に散財し、侯爵家の財産を食い潰した稀代の悪女。社交界で人々は私のことをそう言って、陰で蔑んでいた。面と向かって言えない臆病者の集団だ。私は評判など気にしなかった。
「アマリス・ル・ブラン!貴様は我が寵愛を一身に受けるマリーを妬み、虐げてきた!よって我々の婚約を破棄し、貴様にはこれまでの行いに対する報いを受けてもらう!!」
「は?」
高々と宣言するのは王太子であり我が婚約者だ。彼の言葉に、私は思わず間抜けな声を出してしまった。誰を妬み、虐げてきたって?そもそも私は私を着飾るのに夢中だったというのに。こんな芋臭い女など眼中にないのだ。
「誰が、誰を妬んだと言うのです?」
「はッ、何度でも言ってやろう!アマリス・ル・ブラン、貴様はマリーを妬んでいた!だからあんなことをしたのだろう?」
「全く身に覚えがありませんわ」
「しらを切るつもりか?」
「あら。私は貴方様が誰を愛そうと興味はありません。そこの芋臭い女を妬むなんて醜いことはいたしませんわ」
「ええい!うるさい!!早くこいつを牢屋に入れろ!!」
私の言葉など届かず、私は牢屋に押し込められた。この日、両親は国王と共に隣国へ視察に出ており、留守にしていたため私の味方はいなかったのだ。
元婚約者が言い渡したのは斬首刑であった。理不尽極まりない処遇だ。こんなことで死にたくはない。だが私はあまりにも孤立していた。私を見下ろす刃が鋭く光った。
「お嬢様、朝ですよ」
聞き慣れた声。メイドのジェシーがカーテンを開けている。私は飛び起きて首を押さえた。首が、繋がっている。あれは夢だったのだろうか。驚いた顔のジェシーに私は声をかけた。
「今日は王国暦何年かしら」
「お嬢様、寝ぼけているのですか?今日は王国暦ニ○ニ○年の五月十日ですよ」
十五歳の誕生日だ。ということは、あの時から三年前まで遡っている。一体どういうことだろうか。夢でも見ているのかもしれない。夢ならば、やりたいことをしよう。
「これからお父様に会いに行くわ」
「どのような御用件ですか?」
「事業を始めようと思うの」
驚いた顔のジェシーに私は笑いかける。私は以前、より美しくなるために、自分のデザインしたドレスを仕立て屋に作らせていた。そのうちに、ドレスをデザインするのが楽しくなり、いつしか自分がデザインしたドレスやアクセサリーを販売するのが夢になっていた。今の私は死ぬ前までの記憶が残っている。この先の流行だって知っている。やってみる価値は十分にあると思った。
「散財してばかりの悪女だなんてもう言わせないわ」
そして、冤罪で死ぬことなどないように、奴等へ報復を。やられたら倍でお返ししないといけないわね。私は笑みを浮かべて、部屋のドアを開けた。
つづく(やる気があれば)